島田憲吾さん コーヒーの味は自分の味覚と信頼できるお客さんの舌を信じて決めています

コーヒーの味は自分の味覚と
信頼できるお客さんの舌を
信じて決めています

島田憲吾さんcafe shima coffee roaster 店主

島田憲吾さんインタビュー後編

コーヒーをまったく知らなかったところから始まり、
コーヒー愛好家たちが支持するコーヒー店に
自家焙煎の豆を卸すようにまでなった
cafe shima coffee roasterの島田憲吾さん。
「コーヒー」がブームとなった今思うこと、
そして長年続けてきたから見えてきたものについて
話して頂きました。

開店から9年が経ち、満席で入れない日もあるくらい順風満帆だった代々木八幡のカフェを、賃貸契約の都合で引き払うことになった。「田舎に戻ろう」と決意した島田さんは、香川で400坪の土地に建つ家を見つけ、民泊でもしようかと考えていたが、話の行き違いから断念。そこで再びコーヒー事業に立ち戻り、1年間は焙煎をしながらネットやイベントでの販売を続けていた。そんな折、焙煎のために間借りしていた場所が使えなくなり、急遽探して出会ったのが荻窪のこの場所だ。

14年間変わらない
中立の立場のコーヒー

14年間変わらない中立の立場のコーヒー

焙煎所として借りたスペースだったが、対面で販売することにしたのには理由があった。「代々木八幡の店の頃からのお客さんで、コーヒー屋巡りを楽しみにしているおじいちゃん、おばあちゃんが何人か買いに来てくれるんです」。ネットでは購入が難しい年配の方に、「月の1日から10日までは開けているから来てください」と伝えていた。イベント、卸し、そして10日間の対面販売の三本柱で店を運営していたが、コロナ渦で売り上げが落ち、2020年4月からは定休日は設けるものの、通しで店を開け始めた。リモートワークで散歩途中の近隣の人が店に入ってくるようになり、カフェの客も増えてきた。

14年間変わらない中立の立場のコーヒー

「意図しているわけではなく、行き当たりばったりといえばそうなんですが・・・」と言うけれど、一見壁に当たるようでいて、それを乗り越え、良い流れに導かれる才能が島田さんにはあるのだろう。コーヒーがブームとなった昨今の状況下で、「コーヒー屋をやっていると言うのもちょっと恥ずかしいんですよ。前からやっていても、『ああ、流行りの』となります。『長いんですけどね』とは言うんですが」とやや不本意な様子で語る。島田さんのコーヒーは、昔気質の焙煎にとことんこだわった「俺の渾身の一滴」でも、今どきの「おしゃれな感じ」でもなく、その「中立を保っている」と言う。「自分に正直な味」を求め、14年間その姿勢で取り組んできたからこその美味しさだ。

14年間変わらない中立の立場のコーヒー

コーヒーの種類が綴られた早見表のような品書きは、コーヒーの煎り加減の横に、味について「苦味」、「甘み」、「酸味」が星の数で表記されている。選ぶ客としては参考になるし、勉強にもなる。店先の看板で「少々あります」と案内されたお菓子もまた、島田さんが焼いている。本人は甘いものを食べないけれど、レシピを調べて作り、妻が味見をする。種類を限り、安定した味で継続して出せるという判断のもとに丁寧に焼かれたお菓子は、ひとくち食べて、思わず頷いてしまう味だ。

えぐみをとことん取り除いた
1杯のコーヒー

えぐみをとことん取り除いた1杯のコーヒー

コーヒーをオーダーすると、冷凍庫から出した豆をグラインドして、濾し器の内臓された手のひらサイズのコンテナに入れシェイクする。えぐみが出ないように、豆の細かい皮を取り除く行程だ。ドリッパーにペーパーフィルターを仕組みビーカーの上に載せ、コーヒーの粉を入れたら最初のお湯を注ぎ10秒間蒸らす。すると焼きたてのスフレのように盛り上がってくる。

「これは美味しさの目安?」と聞くと、鮮度の問題だと教えてくれた。「見た目で美味しさはわかるのですか?」という質問には、「どうでしょう、わからないですね。でも豆が割れたりしていると管理がきちんとされていないかなというのはあります。美味しさとは関係ないと思いますが」と。コーヒー豆は農作物だから、虫食い豆やカビの生えた豆が混ざってしまうこともある。「僕はどうしてもそれを出すのは気が引けるので、生豆で見て、焙煎の後見て、出荷の前にも、と3回見ています」と。この姿勢が島田さんのコーヒーの一貫したこだわりなのだ。

えぐみをとことん取り除いた1杯のコーヒー

ドリッパーの中のコーヒーが落ち切らないうちに、素早くビーカーから外す。「最後まで落とすとえぐみが出るんです」。ドリッパーの中の粉を見ながら「こういう風に膨らんでいたら『うまく入った』ということになるんですよ」とほんの少し声が嬉しそう。空気を含ませてお湯を注いでいくとふわっとなると説明しつつ、「自重で押し出してしまうような入れ方だとぐちゃっとなって、えぐみが出てしまいます」。細かい配慮の積み重ねでえぐみを取り除いて、1杯のコーヒーが入る。

コーヒー豆の本質を引き立てる
「きれいな水」

コーヒー豆の本質を引き立てる「きれいな水」

島田さんは、コーヒーを入れるのには浄水を使っている。「硬水、軟水、水道水、蒸留水、超軟水など、試してみたのですが、浄水がいちばん納得できる味になりました」。浄水だと雑味が感じられないのだとか。無駄なものをとことんマイナスするという島田さんのコーヒー流儀において、水の役割もまた大切。浄水の「きれいな味」がベースとなって、それぞれのコーヒー豆がもつ特徴や味わいが引き立つのだ。

カウンターの上のパッケージやカップホルダーに、トレードマークとして使われているコーヒーカップのイラスト。これは島田さんの姪が6年前、5歳のときに描いたもの。作為のない描線は自然のゆらぎを内包するような安らぎを感じさせると同時に、唯一無二のインパクトがある。あえて文字を入れずこの絵だけを載せることで「これがうちのコーヒーという感じにしたかった」と語る。コーヒーの本質を味わって欲しいという気持ちと共に、あとは飲む人に委ねる優しさのようなものがそこに宿っている。

コーヒー豆の本質を引き立てる「きれいな水」

「接客は、正直苦手」と言いつつも、カフェをやっていてよかったのは「長く通ってくれているお客さんがいること」だと、しみじみと話す。「あるお客さんがカフェを開いた時に、うちのコーヒーを使ってくれて。そういうのは嬉しいですね」と。自らを愛想がないと俯瞰する島田さんだが、彼の入れる1杯のコーヒーがその心ある人柄を雄弁に語っている。

撮影/名和真紀子 取材・文/山根佐枝 
取材日/2021年11月8日

島田憲吾(しまだけんご)

島田憲吾(しまだけんご)

cafe shima coffee roaster 店主
香川県出身。高校卒業後に上京し、一般企業に10年以上勤め退社。岩手から東京に進出する飲食店の立ち上げと運営を任され、軌道にのせる。その後、ほぼ独学でコーヒー焙煎の技術を身につけ、2007年、代々木八幡にカフェを開く。2018年、荻窪に場所を移し、自家焙煎コーヒーと焼き菓子の製造と販売を行うcafe shima coffee roasterをオープン。イベントやオンラインでの販売もしている。

cafe shima coffee roaster

cafeshima.com

instagram.com/cafeshima

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