CASE 03J邸 宮城県仙台市 集いの家 建築家 伊藤 暁

RICHELLE PLAT システムキッチン|リシェル

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ここは、私設研究所

ご主人(50代):大学教授
奥様(50代):専業主婦

中心地から遠くない、南側にある山の高台に位置するJさん邸。南側を山に囲まれ北側は街を一望でき、東側には遠く海を眺めることのできる、自然豊かな立地です。そこに2階建て、床面積30坪のかわいらしい家を建てました。家といってもここに住むのではなく「私設研究所」を開くのだといいます。自分の家を研究所として開放したというイメージでしょうか。長年教鞭をとり、当時2年後に退職を控えていたJさん。今まで集めた蔵書を開放し、研究仲間がいつでも集える場所をつくることは、ずっと思い描いてきた夢でした。大きな玄関ドアを開放すると、広い庭と家が一体に。庭はこれから整備する予定ですが、仙台市を一望できる景観にも恵まれます。夏には仲間たちと野外で食事をしたりと、楽しい計画は尽きません。

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図書館であり、
社交場として

施主のJさんは、仙台市内にある大学の経済学部の教授です。研究会仲間を通して建築家の伊藤さんと出会い、2015年8月に伊藤さんの事務所を訪問。すぐに意気投合し、話はとんとん拍子に進みました。家を設計してもらう上で、Jさんが伊藤さんに依頼した点は2つ。ひとつは、私設図書館としての機能を確保すること。1年後に定年を迎えるJさんには、今まで苦労して世界中から集めた本をストックして活用させたいという思いがありました。もうひとつは、研究会仲間のコミュニティとして、さまざまな人が集い、意見を交わす議論の場所にすることでした。

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同じ釜の飯を食って

現在、住んでいる家は車で6分ほどの距離にあり、当分は今の家と新しい家を行ったり来たりしながら過ごすといいます。この家はもともとご両親の実家で、幼少を過ごした場所。東日本大震災で全壊扱いになり、更地にして 4年ほど手を加えずにいました。ご両親が大切にしていた思い出の深い地にもう一度関わっていきたいという気持ちから、Jさんはこの土地に家を建てることを決めました。

この家で行う研究会は、全国から人が集まれるようにしたいといいます。遠方から参加する場合、特に大学院生などは、宿泊場所に困ることがあるかもしれません。ここならみんなで料理をつくって食事をし、一緒に泊まることができます。Jさんいわく、最近の若い学生たちは、人と集まって共同でなにかをすることに対して臆病になっている傾向があるのだといいます。そういう苦手意識を打破するためにも一緒に長い時間を過ごせる場をつくりたい。この家には、そんな教育的な視点もあるそうです。

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対話は未来になる

「我々はこれからどこに向かうのか。近代文明は津波に流されてしまった。農民芸術学校の精神をもう一度再考しよう」。震災後、Jさんは仲間とともに、研究会を立ち上げました。宮沢賢治にならい「羅須地人協会」と名付け、月に3回ほどのセミナーを行い、時事問題、文学の問題、農の問題と幅広い議論を重ねています。いずれその活動拠点もこの家に移す予定。学術的な研究のみならず一般の人も一緒になって考える研究会として、様々な議論や活動に励みたい、というのがJさんの考えです。この家には大きな夢があります。

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平屋のような、
二階建て

実は、当初のJさんの要望は「平屋」でした。伊藤さんも一旦平屋建てで計画してみたものの、眺望や建築予算を考え、2階建てを提案することに。ただし作ったのは、通常の2階建てではなく、各階の区別を曖昧にし、1階と2階がゆるやかにつながっていく状態。プライベートスペースとコミュニティスペースの垣根の低い、広い一室空間の家です。平面計画において意識したのは、古い民家にみられる「田の字プラン」でした。通常は空間を十字に1本の線で4分割するところを、伊藤さんは柱を2本ずつ建て、2本の線で田の字プランを生み出しました。境界線に生まれる曖昧な領域が、それぞれの部屋をつなげていく効果を狙っての設計です。状況や機能にあわせて広がったり縮んだりする空間ができあがりました。さらには柱がそこにいる人の拠り所になっていくようにしたかった、ともいいます。人は柱があると落ち着くのだそうです。

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ざっくり、作る

壁の内装では、ボードはパテ処理をせず、貼ったまま白いペンキで塗装しています。通常のようにパテ仕上げをしても、時間が経つとヒビは入るものです。綺麗にしたあとから割れるのは悲しいですし、どんどん使い込んで欲しい家なので、少し荒っぽく使われることを受け入れています。多くの人が訪れる家だからこそ、ポスターなどもたくさん壁に貼られるでしょう。あまり綺麗だと画鋲ひとつ打つにも気になってしまいます。「つるつる」「ぴかぴか」の状態はこの家ではあまり重要でなかったのです。
こうしたざっくり感は伊藤さんが目を配るところです。建築家としてついつい作り込み過ぎてしまうところをその一歩手間で止め、ものとものの関係が自然にバランスを保つ地点を探しています。この自然とバランスのとれた状態を探すために、膨大な模型と図面を書き、一歩手前で止めていくという建築家としての執念と、それを打ち消すような仕上げとの対比がとても印象的でした。

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議論の中心に、
キッチン

Jさんは、キッチンがコミュニケーションにおいて重要だと考えました。これからは、全国からいろいろな人が来てここで食事をしながら、みんなで議論をすることになるでしょう。その中心に置かれるべきだと考えたのは、生活感のないキッチン、具体的には家主以外も快適に使える、両側から囲むことができるキッチンでした。家庭のキッチンとしても使えますが、あくまでも目的は多くの人と一緒に料理を作り、囲み、楽しむこと。長い議論のあと、または途中で食事をしながら意見を交わすことは、この研究会にとって、きっと大事な要素になるでしょう。料理好きのJさん。普段と違う料理を是非みんなに楽しんでもらいたいといいます。正式な集まりはまだですが、先日このキッチンでの初めての料理としてキッシュを作り、とてもうまくできたとのこと。準備は万端のようです。2月には初めての会合を開催予定。きっと多くの意義ある議論がここで行われ、世の中に飛び出していくに違いありません。

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1F
 

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2F
 
 
67.0m²
8.2m × 8.2m
新築
設計:伊藤 暁
伊藤 暁
伊藤 暁
1976年 東京都生まれ
2002年 横浜国立大学大学院修了
2002年〜2006年 aat+ヨコミゾマコト建築設計事務所
2007年 伊藤暁建築設計事務所設立
2010年〜 首都大学東京非常勤講師
2011年〜 東洋大学非常勤講師
2016年ベネチアビエンナーレ国際建築展、日本館に徳島県神山町の宿泊施設とその取り組み「WEEK 神山」を紹介、12組の建築家とともに審査員特別賞を受賞。

RICHELLE PLATが
2016年度グッドデザイン賞を受賞しました。

『キッチンを単なる「調理の機械」ではなく「空間」としてとらえた新しい住まいのプラットフォーム』というコンセプト、それを実現する丁寧なディティール、周到な素材選択、優しい表情や手触りなどが高く評価され、受賞につながりました。また、キッチンと素材やモジュールが統一されたリビング収納など、LDK全体をトータルに構成できる仕組みも認められています。

グッドデザイン賞受賞概要はこちら