CASE 05和田邸 静岡県富士宮市 はなれてつながる家 建築家 望月蓉平 + 篠原明理

RICHELLE PLAT システムキッチン|リシェル

写真

4世代7.5人が暮らす。

おばあちゃん(90代)
お父様(60代)
お母様(60代)
ご主人(30代)
奥様(30代)
ご長男(6歳)
ご次男(2歳)

東海道新幹線、新富士駅のほど近く。富士山を臨むのどかな風景の一角に、4世代が集まって暮らす和田家はあります。91歳のおばあちゃんと、60代のご両親、30代の長男夫婦、2人の孫たち。そして普段は磐田市で働き、時折泊まりにやってくる次男。そんな「7.5人」が暮らす和田家が、自分たちの新しい住宅を考え始めたのは2015年のこと。10年前までおばあちゃんとお母さんが蕎麦屋を営んでいた馴染みの土地に家を建て、近所で暮らす長男夫婦も移り住むことに。かねてより「建てるなら自分たちらしい家を」と考えていた長男夫婦により、東京で活動する望月蓉平さん、篠原明理さんに白羽の矢が立ちました。企業の一級建築士として大小多くのプロジェクトに関わり実践的な目線を持つ望月さんと、建築家として独立し、緻密なコンセプトメイクから空間を作っていく篠原さん。二つの才能が重なり、和田家の家づくりがスタートしました。

写真 photo: 甲田和久

実家を見て感激。

実は望月さんとは昔からの友人だという若夫婦。なんとなく、いつか家を建てるなら望月さんに、と考えていたといいます。しかしその思いが確固たる決意に変わったのは、二人で望月さんの実家を訪ねた時でした。「蓉平君がご両親の住む平屋を設計したと聞いて、見に行かせてもらったんです。その時の衝撃といったら。部屋の中にいると大きな窓から庭の風景が流れこんでくるんです。お父さんとお母さんの個室の関係もなんだか心地よくて。建築家にお願いするとこんなに素敵になるのかと感動しました」と奥様。旦那様は「その家を見て安心していたので特に条件は伝えませんでした。『家建てることになったんで、よろしく』って。ただうちは4世代が使う家なので、それはそれで大変だったんじゃないかなと思いますけどね」。

写真

写真 photo: 甲田和久

離れられるし、
つながれる。

早速設計を開始した二人。しかし7人がひとつ屋根の下で暮らすには、あまりに大きな面積が必要だという事実にぶつかります。そこで設計を一度中断し「大人数で暮らす」ことについて丁寧に考えてみることに。「『一軒家』を設計するというよりは『村』や『集落』をつくる感覚に切り替えた」と篠原さん。望月さんは「実家の設計の時にも大切にしたことですが、どんなに仲の良い家族であっても、ある程度の距離感は必要。限られたスペースの中で、奥さんがいかに自由に振る舞い自然に家族に入っていけるかが鍵でした」といいます。

その発想からたどり着いたのが役割の異なる大小6つの「箱」を重ね、その間を「屋内テラス」でつなぐ現在の住まいのかたち。1階の3箱をご両親とおばあちゃんの家に、2階の3箱を若夫婦の家にして、中央には中庭をつくりました。それぞれの居住空間ははっきりと分けつつ、時折交わされる視線や音に互いの気配を感じることができる家です。

また望月さんは「大きな家だからこそ、一人一人が籠もれる場所の『密度』も大切にしました」といいます。「お父さんとお母さんの寝室は、引き戸を閉めれば極小の個室になりますし、開け放てば実は長い部屋、全部を開けたら裏側でリビングとつながっているので、部屋というよりは本棚の裏にいるという感覚。どんと広い部屋がある家も豊かですが、こういった籠もれる場所があるのも別な豊かさだなと、つくりながらしみじみ思いました」。

写真

写真 photo: 甲田和久

窓の役割は、百通り。

箱の壁には色々な位置に窓が開いています。壁一面が窓の場合もあれば、高い位置にちょこんと開いているものもある。立つ位置によっては窓を数枚ぬけて、外の景色とつながっているところもあります。逆に空を見るためだけの窓もあるのだとか。

篠原さんいわく「道路側の窓は広く開いていて、外の景色が流れ込んでくるのですが、ある程度高さがあるので、外を歩いている人からは見えない。さらにテラスに出たときに『開放的で気持ち良い!』という感覚を持ってほしかったので、箱の中の密度のバランスには目を配りました」とのこと。

「今は外・中・外の関係をあえてときほぐさずに、絡まった状態になっていると思うのですが、途中段階ではもっと明快に分かりやすく、外と中のボックスで構成するような考え方もあったんです。でも町とか村のおもしろさって、誰かが一人で作っていなくて、みんなでぐしゃぐしゃにしながらやっているなかで、予想だにしない関係ができていくところにあると思うのです。みんなでいる寛容さが生まれていくと思います」。

外と中をあいまいにつないでいくという一見奇抜にも思えるアイディアですが、素材や仕上げが緻密に計算されており、実際の建物からは全く奇抜な印象は受けません。

写真

写真

ディティールで
解決できること。

旦那様いわく「水まわりや居住スペースを分けることは決まっていたのですが、少し議論があったのは玄関」とのこと。「はじめは玄関も2つに分けるのを提案してもらったのですが、フルタイムで働く妻が出入りに気を遣わなくて良い反面、空間がばっさり分かれてしまって。1階と2階を行き来する子供たちのことも考え、共用にすることにしたんです」。

物理的に1階を通らなければならないならば、どれだけ「気遣い」を軽くできるか。そこで二人は1階の玄関を非常にパブリックな佇まいにすることを提案。中と外の境界を限りなく曖昧にすることにしました。「無意識レベルで、何ら気兼ねすることなく玄関を使えるのが理想」という篠原さんの言葉の通り、屋外、玄関、室内の床は、屋外のモルタルをそのまま引っ張ってきたような仕上げで、素材の差こそあれど真っ平ら。もはや家に「上がる」という感覚すら感じさせません。

次に重視したのは「音」問題。二世帯住宅ではお互いの生活音が徹底的に気にならない方向を目指す傾向がありますが、気配や生活音を消すのは不可能。和田家も施工としては消音効果のある重量物を入れてはいますが、それでも100%は消えない。それなら無理して消すのではなくて音と気持ちよくつきあえる環境を考えることになりました。

「1階がご両親とおばあちゃんの家で、2階が若夫婦の家。気持ちよく過ごすためには互いの『居場所』がずれていることが大切でした」という篠原さん。「例えば木造のアパートのように、水まわりと水まわり、部屋と部屋が上下に重なると、互いが何をしているかが分かりすぎてしまうんです。そうではなくて、子供部屋はバスルームの上に置けば、少しぐらい騒いでも大丈夫だし、1階と2階の寝室の間にはロフトを挟んでいるので、就寝時間がずれていてもそこまで音が気にならずに済みます」。

写真 photo: 甲田和久

写真

成長と発見。

箱と箱をつなぐのはテラスのような室内のような廊下、通称「屋内テラス」。

「屋内テラスは将来何にでもなるうる場所として設計しました。テーブルや棚があったり、大きさも廊下というにはかなり広めで、もう小さな部屋ですね。そこをどう使うかは和田家次第。そういった意味では家具もただの塊で、本棚でもベンチでもよいという顔つきをしています」と望月さん。

ベンチというのは、おばあちゃんもとてもお気に入りの1階のロフトにつながる階段のこと。座ってお茶を飲んだり、お母さんがアイロンをかけたり。子供たちが来て将棋をさして帰ることもあるのだとか。篠原さんいわく「ベンチや廊下の他にも、使い方を発見する余地を残した場所がたくさんあります。僕らには建築家の思い描いた通りに家を使ってほしいという気持ちはありません。むしろこんな使い方もあったんだ、と驚ける方がうれしい」とのこと。

「リシェル PLATも、キッチンとは何かを考えるところから開発をスタートしたキッチンだと聞きました。『キッチン』を、平たい台、水を流せる所、水栓、火が焚ける場、収納に分解し、それをどう再構成すると、現代に合ったものになるのかを検証するところから商品開発をしたとか。この家の空間づくりにも似たところがあります」

望月さんも「今日の朝もお父さんが中庭で日曜大工をしていて。それも何もないだだっ広い場所ではなく、ちょっとしたL字の拠り所がある場所。『裏の方でもいいんだけど、ここでやるのがいいんだ』という感じでやってくれているのがうれしくて。そんな風にお施主さんが居場所を見つけられる環境づくりが理想です」と語ってくださいました。

写真

やわらかく閉まる
豊かさ。

キッチンもお気に入りだという奥様。「扉がすーっと閉まるたびに、このキッチンにしてよかったなと思います。手作りの造作キッチンは好みを反映できる反面、扉の開け閉めの感覚的なところまで目を配れていないものが多い気がして。LIXILはキッチンの専門家だから気遣いが本当に細やか。これから何年も毎日使って積み重なっていくものだから、使っていて『気持ちよい』という感覚は大切です。あとは収納のサイズ感が絶妙。調理器具も食器も、絶妙にぴたっと気持ちよく収まる。それがとてもうれしくて。気分があがります」。

「生きるために必要なことをやるだけではなくて、あれば少し心が豊かになるということをしたいと思って、文化に関わる仕事をしている」という奥様。「ただのコップでもお茶は飲めますが、作家さんやデザイナーさんの手を経て作られたものを使うとやっぱり格別な味がするなと感じます。そういう体験を大切にしたいというか」。その考えは家づくりにもつながっているようです。

写真

写真 photo: 甲田和久

色を持ちすぎていない。

篠原さんは「建築家目線でもリシェル PLATは使って便利なのはもちろん、使った後がとてもきれい」といいます。「キッチンの役割を求められていないときに、存在感をきちんと消せるかというのが空間作りの上では大切で。常に『ここは何かをつくる場所です』というのを見せつけられているより、気配を消せるというところに惹かれました。住宅設備の中では同じ『水まわり』に分類されるキッチンとトイレですが、建築家にとっては全く別物。トイレはトイレにしか置かれませんが、キッチンはリビングにも置かれる。だから『設備』じゃなくて『物』なんです。さらに言えば『物』というより『建築』そのものと近くあってほしい。面積も広いし存在感があるのでパッケージングされたものが置かれた瞬間に空間が支配されてしまうので」。

さらに望月さんは「リシェル PLATは、確かにキッチンとして生まれてきた製品だとは思うんですが、キッチンではない使い方もできるのではないか、と想像させてくれる期待感があります」といいます。「1階ではキッチンのすぐ隣に子供用の勉強机を作りつけているんです。お母さんがキッチンで夕飯の準備をしている間、お兄ちゃんは並んで宿題をしている。調理するためのキッチンが延長して、ごはんを食べたり、勉強をしたり、読書をする場になることができる。これを自然にできるのがいい。無目的化、多目的化できるのは僕らの空間作りにつながるところがあります」といいます。

「例えば作業台が作業台然としていない。一つの箱のようにも見えますよね。ちなみに今回は床も家具もオーク材。木の質感的にもぴったりです」。

写真

入ってすぐ、
キッチン。

和田家では1階も2階も、廊下を抜けてすぐのところにキッチンが配置されています。これは篠原さんいわく「回遊中、路地を抜けたその先に偶然すぐにキッチンが出てくるような配置。必ず誰もが通り過ぎなきゃいけないキッチンなんです。ベトナムの伝統的な家では、生活の心臓部ともいえるキッチンが一番手前にあるそうなのですが、それにも似ているかもしれません」。

望月さんも「よく様子をうかがっていると、お父さんがキッチン横のあたりで大工仕事をしていますし、すぐ脇の廊下にぬか漬けのつぼが置いてあったり。キッチンからあふれ出した所で食にまつわる活動が行われているのは、あの配置だからこそできているのかなと。それも発見の一つですね」とのこと。

「料理をするための場所から、暮らしに広がっていける配置がいいなと考えていました。若夫婦が暮らす2階には、キッチンと同じサイズ感の収納がずらっと壁一辺にレイアウトされています。いまは調理器具や食料が収められていますが、これからは服が入ってもいいし、本棚になってもいい。キッチン収納とリビング収納が完全に溶け合っています。これはキッチンがキッチンだけで終わらない、キッチンの枠からはみ出て、違う可能性や用途も出てくる状態ですね。まさに部屋のような」。

写真

写真

天守閣の裏話。

「3階の屋上はもともとつくる予定ではなかったんです」と旦那様。「そもそも屋上をどうするかというのをあまり深く考えていなくて。ですが、建物のバランスや階段が上まであったらおもしろいかも、くらいから『富士山が見えるんじゃないか』という話になりまして。会話をしながら盛り上がって決まってきました。全員で上に登り、満場一致で作ろうという話になったのは上棟した後のことです」。

篠原さんいわく「後々考えると外的なところとつながりながら室内に入り、階段を上がって、いつの間にかまた外に出てきたというストーリーのでき方としては、屋上が最後になって良かったなと思います。理由があってこうなったんだと思います」とのこと。

写真

写真

10年後の
家のかたち。

引っ越してきて数ヶ月。奥様には早くも旦那様の変化がうれしいそうです。「2階のワークスペースは、今は洗濯物を畳む場所として使っています。私の帰りが遅い日には主人が洗濯をして、乾いた洗濯を取り込んで、音楽を聴きながら洗濯物を畳んでくれているんですよ。ビールを飲んだりして。もともとそういうことをするタイプではなくて、洗濯機の使い方を教えるところからはじめましたが、1ヶ月、2ヶ月と続いて、毎日やってくれるようになって。家によってすごく変化していると思います」。
最後に、未来の家族の姿を伺うとこんな返事が。「10年後はもっと料理が上手くなっているといいな。子供達は16歳と12歳。中学生と高校生の食べ盛りです。キッチンが側にあるから、自然と自分で作って食べるようになりそうです。これまではキッチンはお母さんの立つ場所というイメージでしたが、旦那さんがコーヒーを淹れたり、料理をしたり。子供達が遊ぶようにお手伝いしたり。みんなが使う場所になっていくといいなと思います」。

写真 photo: 甲田和久

写真

写真

写真

延床面積 193.76m²
木造新築
設計:望月蓉平+篠原明理
 
 
望月蓉平(もちづき ようへい)
1983年 静岡県生まれ
2006年 大阪大学工学部地球総合工学科卒業
2009年 東京大学大学院工学研究科建築学専攻修了
2009年 日建設計入社
 
 
篠原明理(しのはら めいり)
1983年 広島県生まれ
2007年 東京理科大学工学部第一部建築学科卒業
2010年 東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修了
2010-2013年 Takero Shimazaki Architects/t-sa 勤務
2013-2015年 大西麻貴+百田有希/o+h 勤務
2013年- t-sa forum x AA visiting school コーディネーター
2016年- 篠原明理建築設計事務所 設立
2016年- 横浜国立大学大学院/都市イノベーション学府 Y-GSA設計助手

写真

写真

RICHELLE PLATが
2016年度グッドデザイン賞を受賞しました。

『キッチンを単なる「調理の機械」ではなく「空間」としてとらえた新しい住まいのプラットフォーム』というコンセプト、それを実現する丁寧なディティール、周到な素材選択、優しい表情や手触りなどが高く評価され、受賞につながりました。また、キッチンと素材やモジュールが統一されたリビング収納など、LDK全体をトータルに構成できる仕組みも認められています。

グッドデザイン賞受賞概要はこちら