こんにちは、PINT代表の中地です。
今回のテーマは、「漆器」です。
名前はもちろん見た目のイメージも浮かぶけれど、細かなことや使い方はよく知らない。そんな方も多いかと思うので、漆のこと、塗りの技法や特徴をご紹介したいと思います。
- 目次
- 軽くて、割れにくく、殺菌性もある! そもそも漆器とは
- 漆器の仕上げ技法。「本塗り」と「拭き漆」の違い
- 漆器のメリットとデメリット
- 漆器のお手入れや取り扱い方法
- 漆器にぴったり。PINTの漆塗り「竹のスプーン」
軽くて、割れにくく、殺菌性もある! そもそも漆器とは?
漆器とは、木や紙などに漆を塗り重ねて作る工芸品のことを指します。
漆は「ウルシノキ」という木の樹液です。樹液を採取し、濾過、精製して使います。強い接着力や抗菌性があり、「生の漆に触れると肌がかぶれる」と言いますが、そのとおり非常に刺激の強い物質。酸やアルカリにも強く、金さえも溶かしてしまう液体である王水にも耐え、「一度固まった漆を溶かす方法はない」とも言われています。
この漆の力を活かし、日本では縄文時代から木や紙製の食器の天然コーティング塗料、装身具の接着剤として使われてきました。装飾品や芸術品にも用いられ、漆器は英語で「Japan」と呼ばれることもあるほど、日本の伝統的な工芸品です。
漆器は軽くて割れにくく、天然の素材で殺菌性もある、とても使いやすい道具です。他の塗料と違い、劣化していくのではなく、使うほどに艶と味わいが増していきます。その特徴や基本的な付き合い方さえ知れば、とても扱いやすい製品です。
漆器の仕上げ技法。「本塗り」と「拭き漆」の違い
漆は単体で使うのではなく、器などに塗布して使います。木竹に限らず、紙や革、紙など塗る対象は幅広いですが、いわゆる漆器については、木で作られることが基本なので、その前提でご紹介します。
漆器は、ろくろを用いて職人が製作した木の器(木地)を漆塗りの塗師が仕上げるという工程で作られます。仕上げの技法は、「本塗り」と「拭き漆」の大きく2つに分けられます。
「本塗り」は、朱色や黒色の艶やかに塗り上げられた仕上げのこと。金属の粉や貝片などで装飾することができるため、芸術性を目指す高級品に用いられることが多いです。漆器と聞いて、パッとイメージされるのがこの仕上げ方。
一方、「拭き漆」は木地に漆を塗っては布で拭き取る作業を繰り返すことで、漆を擦り込んでいく仕上げのこと。擦り漆とも呼ばれます。木目の凹凸を埋める「研ぎ」と「塗り」の工程を繰り返し、何層も塗り重ねます。仕上がりは木の見た目が活かされ、木目がうっすらと透けて見えるのが特徴。「本塗り」に比べて、工程も少ないため価格が抑えられ、より日常使いに適した塗り仕上げとも言えます。
どちらにも良さがありますが、PINTでは「日常的にお使いいただける漆器」をテーマに取り組んでいるため、主に「拭き漆」仕上げの食器を扱っています。
漆器のメリット・デメリット
漆器のメリット|水気や油分、熱への高い耐性と、美しい経年変化
まずは漆器のメリットから。一番の特徴はその「耐性の高さ」にあります。
水気や油分への高い耐性を持ちながら、熱や酸性・アルカリ性、アルコールや油にも強いので、盛り付ける料理の制限はありません。さらに抗菌、抗カビ性があることは科学的な実験でも検証されています。
なかでも木製漆器は、お味噌汁やスープのように熱いものを入れても断熱性が高いこと、軽くて片手でも持ちやすいという特徴も。
同じ木製食器でも、オイルや木地そのままの仕上げでは、液体を入れることはできません。ウレタン塗装は液体を入れることができますが、プラスチックのコーティングのようなものなので、匂いが立つこともあり、劣化も生じてきます。
漆塗りで仕上げることで、日本の豊富な資源である木製の器でも汁物をおいしく食べることができるんです。これは手に持ち口をつけて食する味噌汁など、日本特有の食文化にもつながっています。
また、経年変化が美しいのも特徴のひとつ。使い込むうちに、だんだんと艶が増し、明るい色に変化していく過程もお楽しみいただけます。
漆器のデメリット|漆の塗膜が剥がれた場合のメンテナンス
次にデメリットですが、使っていくうちにメンテナンスが必要になることがあります。
ただ、特別なメンテナンスというより、「漆の塗膜が削れたり剥がれたら塗り直す」というシンプルなもの。
基本的にお箸で食事をしていれば、長くたくさん使わない限りすぐに漆が剥がれたり薄くなることはありません。ただし、硬い素材のブラシなどで洗うと表面の摩耗により劣化が生じます。日常的にはこの点を注意するくらいで十分。
もし薄くなったり剥げてきた場合は、塗り直しが必要です。
木製漆器の場合は、漆の塗膜があるとはいえ、本体である木の特性も持ち合わせています。機械に入れたり、過度の乾燥や高温、長時間の水への浸け置き洗いなどは、反りや割れが起こる可能性の原因となります。
また保管するうえでも、ひとつだけ注意すべきことがあります。「直射日光に当たる場所で保管しないこと」。漆は紫外線に強くないため、直射日光にさらされると変色を起こす可能性があります。
漆器のお手入れや取り扱いについて
「なんとなく扱いが難しそう」というイメージをお持ちの方も多いと思いますが、基本的な特徴さえ掴めば、特別な手入れは不要で、意外と簡単に付き合うことができます。
漆器の取り扱い、お手入れに関しては漆塗りの職人から聞いた、とても分かりやすい目安があります。それは「人間の肌と同じ」ということ。
例えば、こんな取り扱いは避けるべきです。
- 長時間浸け置き洗いしない
- 手を擦って痛いほどの硬いブラシを使わない
- 食洗機を使わない
- 冷蔵庫や電子レンジを使わない
- 熱湯をかけない
漆器を自分の肌に置き換えてイメージしてみると分かりやすいかと思います。
基本的に洗剤はお使いいただいて大丈夫ですが、油がたっぷり付着してない限りはアクリルタワシを使い、ぬるま湯の流水で洗うのもおすすめです。私個人や漆器製作の職人もそのように洗っています。
唯一気をつける点は、漆の塗膜を傷つけてしまうこと。食事の時には尖ったカトラリーを使わないこと、洗う時には硬い素材のタワシ、スポンジ面の使用は避けるようにしてください。
食器を洗った後、水滴をそのままにしても大丈夫なのですが、ふきんなどで拭き取ると衛生的に使うことができ、かつ長持ちします。
あとは、冷蔵庫に入れたり、電子レンジや食洗機などの機械を使わないことです。
漆器にぴったり。PINTの漆塗り「竹のスプーン」
PINT「竹のスプーン(大) 拭き漆」
PINTでは汁椀や丼椀、ボウル型の漆器を扱っていますが、今回はLiving Deliでも扱いのある漆を使ったカトラリーをご紹介します。
漆塗りのお箸などはイメージしやすいかもしれませんが、今の食生活ではスプーンやフォークを使うことも多いです。そこでご紹介したいのが、竹のカトラリーシリーズ。
「拭き漆の器や木の器にも使えるようなカトラリーが欲しい」というご要望をお客様からいただき、何度も試行錯誤を重ね製作した商品です。
「普段使い慣れているステンレス製のカトラリーに近い薄い形で、口当たりの柔らかな素材で作りたい」と考え、素材を竹に決めました。竹は木よりもしなやかな強さを持ち、繊維に沿って非常に細く割ることができるので、薄く加工しやすいのです。茶道具を手がける京都の工房と試作を繰り返し、できる限り薄い造りにしました。工房が自社で管理する京都の竹林の竹を乾燥・製材して作っています。
特にこだわったのがスプーンの面の形。薄くして口当たりを良くするため、厚みがでないように面の深さは浅めにしています。
ただ薄く浅くしすぎると、使いにくくなってしまうので、口に入るときの動きや口当たりの良さを考え、楕円形ではなく雫のような形のスプーン面にしました。先にかけて少し溜まりがあるような形なので、スープのような液体もすくいやすくなっています。
また、柄の形も工夫しました。真っ直ぐのままであれば加工もいらないのですが、実際に口に運ぶ際に使いやすいように、ほんの少しだけ曲げ加工をしています。一見わからないくらいの角度ですが、柄の真ん中あたりから面にかけて、ごく薄く角度をつけています。
こうして木地(本体)が完成して、その後の塗り仕上げ。塗りなしだと、水や油への耐性が弱く、メンテナンスが大変になってしまいます。ウレタン塗装だと、せっかくの竹の感触が失われ、熱いものをすくうときにウレタンの匂いも気になるもの。
竹の加工と漆塗りの職人は全く別なので、その分価格は上がりますが使い勝手と安全性、風合いを優先し、拭き漆で仕上げることにしました。
節を残した柄の表の部分は、竹の外皮。この部分は水分や漆をよく弾き、塗っても乗らないため、竹の外皮そのものの色が残っています。
色は「生漆(茶)」「黒漆」の2種類。
「生漆(茶)」は、漆の木から採れた樹液の漆から、ゴミを取り除き精製した漆。いわゆる、「漆」の色といえます。塗る対象の木地にもよりますが、明るい茶系の色に仕上がります。
「黒漆」は、漆に松煙を混ぜて反応させ、黒色になった漆。顔料ではない、漆独特の黒が特徴的です。
使ってみると、口当たりの柔らかさや優しい質感を体感していただけると思います。金属のカトラリーは、ときに食材の味と金属の味が混ざることもありますが、こちらのスプーンはその心配もありません。直接口に触れるものだからこそ、ぜひこだわりのカトラリーを。贈り物にも喜ばれるアイテムです。
日常に漆の心地よさを取り入れる
ご紹介したカトラリーも漆器も漆の特性を活かせば、和食に限らずさまざまな食卓や料理でお使いいただけます。口当たりの良さや軽さなど、漆の心地よさも知っていただけたら嬉しいです。