伊礼 智 氏

建築家
有限会社伊礼智設計室代表取締役

【プロフィール】
1959年沖縄県生まれ。83年琉球大学理工学部建設工学科卒業。85年東京藝術大学美術学部建築科大学院修了。丸谷博男+エーアンドエーを経て、96年に伊礼智設計室開設。2016年東京藝術大学美術学部建築科非常勤講師。

伊礼 智 氏
中山 佳之

中山 佳之

株式会社LIXIL HOUSING TECHNOLOGY サッシ・ドア事業部 サッシ商品開発部 パノラマ商品開発室 室長

【プロフィール】
TOSTEMに入社後、2年間の営業所勤務を経験。それ以降、約20年にわたり国内外でサッシ開発設計に従事。現 ㈱LIXIL パノラマ商品開発室 室長としてTOSTEMの大開口マドを中心に開発を担当しており、開発責任者として今回の新商品TOSTEM LWを開発した。

多目的化するリビング空間 開口部近傍に心地よさは宿る

中山

ここ最近、リビングの暮らし方が変わってきています。
家族が集まって食事や団らんなど同じことを行うだけでなく、同じ空間に居ながら、家事をやったり、勉強したり、スマートフォンを使っていたりと、家族が別々のことをやる機会が増えているのでないでしょうか。

その一方で我々が住宅購入検討者を対象に調査した結果によると、「新居でどんな暮らしを楽しみたいか」という質問に対して、72.5%の回答者の方々が「リビングで家族団らんを楽しむ暮らしを実現したい」と考えていることが分かりました。
加えて、88.9%の回答者が「リビングには大きな窓を採用したい」と回答しています。

伊礼氏(以下、伊礼)

家族の時間の過ごし方が多様化しているからこそ、現代のリビング空間では家族がバラバラのことをしていても、お互いに存在を感じながら程よい距離を保てることが大事だと考えています。
そして、リビングに家族が集まるようにするためには、リビングが快適な空間であることが大前提になります。
リビングを快適で心地よい空間にするためには、開口部が重要な役割を担うことになるのです。

私はかねてから「開口部近傍に心地よさは宿る」と述べてきました。
設計次第で窓の付近にはとても居心地のよい空間ができるものです。また、窓を設ける位置によって、リビングの心地よさは大きく変わります。
私が設計を行うとき、まず敷地を見に行き、その敷地条件を考慮してどこに窓を設けるかをイメージします。そこからリビングの位置などを検討していくのです。その意味では、まず窓から住宅の全体像を形づくっていくと言ってもよいでしょう。

大原則は「よい景色が見えるところ、遠くが見えるところ」に窓を設ける

中山

伊礼先生は窓の位置を決める際、どのようなことに注意しながら検討していますか。

伊礼

よい景色が見えるところ、遠くが見えるところに窓を配置します。
これは亡くなった建築家の永田昌民さんの教えです。永田さんは私の先輩であり、住宅設計の名人です。

永田さんに「窓の位置を決めるとき、何を考えて決めていますか」と聞いた際、永田さんは「遠くが見えるところ」と言い切りました。つまり、安心して開口部を設けられるところです。もちろんそれだけではないでしょうが、私も遠くが見えるところに窓を設置するように心掛けています。
敷地を見に行った際に周りの風景や環境を見ながら、できるだけ遠くまで見えるところやよい景色が見えるところに窓を設置することを検討するのです。

こうした作業を通じて窓の位置を決めていくと、特に都心部などでは意外と南側ではない方角に窓を設けた方がよいことも多いです。
南側に大きな窓を設けて、東側と西側の窓はできるだけ小さくするという大原則がありますが、あまりそれだけに捉われないようにしています。とくに住宅が密集する都心部などでは、南側に開口部を設けても陽が当たらず、隣の家との距離も近く、お隣の目線が気になり、場合によっては近隣住民からのクレームにつながることあります。

性能と心地よさは両立できる

伊礼

窓の位置を決める段階で、決して性能をないがしろにしてはいけません。窓は心地よさを創りだす一方で、性能的にはウィークポイントにもなるわけですから。
まずは遠くが見えるところに窓を設けて、その上で庇やすだれ、さらには植栽などを活用しながら陽当りや性能を損なわないような制御を行う。これも窓の開け方の作法の一部なのです。

中山

我々、サッシメーカーとしても、以前は車の燃費競争のように性能から暮らしの豊かさを提案していく商品開発を進めていた時期もありましたが、これからは、性能はもちろんのこと、住まい手に豊かさや心地よさなど、暮らしにおける真の価値をお届けすべく、開発の考え方を大きく転換しています。

今回、伊礼先生にもご協力いただいて開発した「LW」については、窓は外と内をつなぐ装置であるということを改めて見つめ直しながら、性能と心地よさを両立することを目標に開発を進めました。
心地よく外と内がつながる空間の実現のために、伊礼先生と我々で「どういった窓を開発するか」を打ち合わせさせていただきました。そのときに伊礼先生から「1枚障子の片引き込み戸がよい」というアドバイスをいただき、その形態でお客さまの価値をブラッシュアップすべく、本格的に開発がはじまりました。

性能と心地よさは両立できる

目指したのは「閉じてよし、開いてよし」の窓

伊礼

日本は季節があり、地域性も豊かですから、外と内のつながりを考えて住宅を設計することが非常に重要です。
独立して20年になりますが、独立した当初から1枚障子の片引き込み戸を多用してきました。それは景色を綺麗に切り取りながら、外と内との関係を演出することができるからです。
「LW」の開発に当たり、「閉じてよし、開いてよし」を合言葉にしましたが、閉めていても、開けていても外と内がつながるような空間を演出できる窓が欲しかったのです。

これまでは木製サッシを利用することが多かったのですが、気密性能の確保といった部分で難しさがありました。我々の周辺の工務店の方々であれば慣れたものですが、あまり木製の片引き込み戸を扱った経験がないと、なかなか採用に踏み切れないかもしれない。 それだけに、LIXILさんに開発をお願いしたかったのです。

中山

伊礼先生から「景色を遮らないように、框部分をできるだけ見えないようにするのもいい」というアドバイスをいただきました。我々も当初はそこまで考えていませんでした。縦の框だけを見えなくするといった試行錯誤を繰り返す中で、「どうせなら全ての框が見えないようにしよう」と決断したのです。

そのために開発したのが、室内からフレームが見えないフレームインデザインです。このフレームインデザインによって、一般的な窓とは異なり、開けた状態でも閉めた状態でも窓からの景色を遮るものが全くないという住環境を実現します。加えて、アルミと樹脂のハイブリッド構造を採用することで、眺望性と断熱性の両立を実現しました。
できるだけ眺望性を損なうノイズを省くために、障子の開けはじめをアシストするアシストハンドルを建枠に内蔵させました。使用しない時には縦枠内にすっきり納まる構造になっており、眺望を遮るノイズになりません。

一方で事前の調査で明らかになった明るく大きい「窓」に対するユーザーの心配事にも焦点を当て、開け閉めしやすい工夫や外からの視線を緩和する工夫にも取り組んでいます。
通常であれば2枚障子となる面積を1枚障子にしているので、サッシ自体の重量が重くなってしまいます。重量が重くなれば操作性は低下する。そこで、通常は1〜2つの戸車を4連にし、ベアリングの力も利用しながら、より少ない力でスムーズな開閉操作が行えるようにしました。
重いものがスムーズに動くようになると安全性の問題が出てきます。そこで、障子を閉める時に縦枠に近付くと自動的にスピードを制御し、ゆっくりと静かに閉まるソフトモーション機能も装備しました。この機能を実現するために、当初は既存の部品を活用しようとしたのですが難しく、部品そのものから開発していきました。
さらに、ソフトモーション機構の部品を枠側に内蔵し、障子を外すことなくメンテナンスを行えるようにしました。

伊礼

開発を担当された方々が本当にご苦労されたと思いますが、まさに「閉じてよし、開いてよし」という窓に仕上がっていますね。

この窓がオールマイティだとは言いませんが、選択肢が増えたことは間違いありません。

中山

我々もこれが完璧だとは考えていません。これからも性能と住み心地を両立するような商品を開発していきたいと考えています。また、さまざまなニーズに応じたバリエーションも拡充していきたいです。

建築家の創造力が介在できる余白を残した製品を

中山

「LW」の開発に当たっては、伊礼先生だけなく、i-worksプロジェクトに参加する工務店の方々にも意見もお聞かせいただきましたが、建築家や工務店の方々の意見を聞きながら商品を開発することの大切さをあらためて認識することができました。
また、いただいたご意見を踏まえて、木目の下枠意匠カバーを4色用意するなど、細かな部品やパーツも用意しました。商品バリエーションについても、障子をまるごと袖壁に引込め、開口部いっぱいに窓を開放できるフルオープンタイプと、スペースを効率的に使えるハーフオープンタイプを用意しています。ハーフオープンタイプは、袖壁の引込みスペースを半分に抑えており、狭小住宅などにおすすめです。

伊礼

メーカーと我々のような建築家では、やはり視点が異なる部分もあります。それだけにお互いに意見をぶつけ合いながら開発を進めていくことが大切なのではないでしょうか。

また、建築家はあまりつくり込まれていない半製品のようなものを求めることがあります。その方が自分の創造力を形にする余白が生まれるからです。

中山

その点については「LW」でも注意しました。障子を収納できる戸袋となるアウターセットというものを用意しましたが、これは伊礼先生が木製の横格子を戸袋に利用していたものを参考にしました。可動式にすることで戸袋の中が掃除しやすくなっただけでなく、日射遮蔽機能も発揮します。

このアウターセットについては、レールと面材だけを提供し、現場の状況に応じてアレンジできるような余白を残しています。また、必ずこのアウターセットを使わなくてはいけないわけではないので、独自にデザインした戸袋などと組み合わせることもできます。

意外だったのは、i-worksプロジェクトに参加する工務店の方々にアウターセットの評価をお聞きした際に、「これなら使えそうだ」と言っていただいたことです。i-worksプロジェクトの方々は経験も豊富なので、ご自身で格子などを用意することにも慣れていると思いますが、アウターセットに高い評価をいただいたので少し驚きました。

性能一辺倒ではなく多様な価値観を受け入れる

伊礼

「LW」が登場したことで、窓から見える風景を大事にするような雰囲気が生まれてくることを期待したいですね。

日本の窓は諸外国に比べて性能が低いと指摘され続けてきました。まだまだ不十分な部分はありますが、ここ数年で窓の性能は大きく向上しました。それだけに、今後は性能一辺倒ではなく、住まい手の多様な価値観を受け入れていくことが大事なのではないでしょうか。

中山

伊礼先生の「窓から暮らしを考えていく」というのは私達が目指している、豊かで心地よい暮らしを住まい手にお届けする為にも非常に大切なことだとあらためて確認しました。

「LW」については、「まずマド。」というテーマで、消費者の方々にも「まずマドから住まいを考えてほしい」と訴えていこうとしています。窓から住まいを、そして暮らしを考えていけるような商品を今後も提供していければと考えています。

伊礼先生、本日はありがとうございました。