------本日は最初に、先生が住宅の窓について、どのような考えをお持ちなのかをうかがい、そこからLIXILの3名の「窓」開発者と自由な討論に入りたいと思います。よろしくお願いいたします。
僕は40代の頃、これからの自分の建築家としてのスタンスを、建築家とハウスメーカーの中間の立ち位置に決めて、今日まで住宅の工業化に取り組んできました。そうした立場からするとは、「窓」は住宅を構成する部品の一つという見方になりますね。
設計をするときも、窓を単体として考えることはありません。窓は壁に穿たれた穴という、ヨーロッパ的な捉え方をする人もいますが、僕は、窓は壁の一部だと考えています。フレームの間に壁の一部としてサッシを入れるという考えです。
日本語の「まど」には「間戸」の考え方がありますからね。
そうですね。日本の建築では、茶室は違うけれど、現在の木造住宅の原型になっている、書院造りの建具の考え方はまさにそれですよね。僕も同じ考え方です。
ただ、最近は外断熱を採用することが多いので、実際にはフレーム内ではなく断熱層の一部にサッシを組み込んでいます。外壁の一部で一種のカーテンウォールです。本来なら窓にも壁と同じ断熱性能がほしいけれど、それは難しいと思うので、その弱みを太陽光のダイレクトゲインの恩恵で±0にするという考え方です。
太陽エネルギーを採り入れながら、断熱性能を高めて快適な室内環境は維持したい。私たちはそれを、トリプルガラスの採用やヒートブリッジになりやすい窓のフレームをできるだけ小さくすることで実現しようとチャレンジしているところです。新製品の〈サーモスX〉や〈エルスターX〉の断熱設計の思想もそれに則っています。
確かに壁と同等の性能を持つ断熱性能を、窓単体で実現するのは難しいかもしれません。理想としては壁並みの性能でゲインもある窓ということになりますね。
確かに理想はそこですけどね。僕は正直、そこまでの性能を求めなくても、と思いますが、そう考えるのが建築家のダメなところだと、環境系の先生に叱られるんですよね(笑)。
住宅の性能競争は行き過ぎもダメ、という考えですか?
もちろん高性能であることは望ましいのですが、その性能を引き出せるかどうかは暮らし方も重要なんですよね。僕が1999年にデザインした〈アルミエコハウス〉は、当時、アルミサッシが誕生して40年、そろそろ解体される建物も出始めるので、そのアルミサッシを回収し、構造体にリサイクルする目的で開発した実験住宅でした。
ご存知の通り、建材としてのアルミのいちばんの問題は熱性能でしたから、外壁パネルの枠にプラスチックを使いヒートブリッジ対策を徹底して、壁材と床材は、アルミサンドイッチパネルとハニカムパネルに加工することで高性能な住宅ができました。
建築家が滞在して居住実験を行うと、普段通りに暮らしてもかなり優秀な省エネ性能数値が出る。そこで研究室の学生にも泊まらせてみたのですが、ところが彼らは、普通に暮らしても良い数値が出ることを知っていて、それで気が緩み、最後には窓を全開にして暖房は強めて、開放感を楽しみながら部屋でビールを飲んでいたんですよね。本末転倒です(笑)。
燃費を気にしながらクルマに乗っていた人が、高燃費のクルマを手に入れると、気軽に乗り回してしまいガソリン代は逆に高くなるようなものです。高性能ゆえに気が緩んでしまう。住宅をつくる私たちは、モノで性能を追求するしかないですし、「高性能な窓」は不可欠なのですが、実は「暮らし方」も重要なんですよね。僕はそのことを住宅リテラシーと言っています。
冬は日射、夏は遮熱と窓を上手に使っているユーザーもいますから、サッシの性能を引き出す暮らし方も大切です。LIXILは住宅一棟建てられる住宅部品や資材を扱う総合住生活企業なので、窓だけではなく、製品のトータルコーディネートとしての「暮らし方」の提案を進めて、それをメーカーから生活者にうまく伝えることは課題のひとつですね。使い方次第で窓も住宅も性能をもっと発揮できると思います。
それには生活者と向き合う機会が多い、地場のビルダーの意識を高めてもらうことが大切ですね。
放送大学の「新しい住宅の世界」の番組制作で、数年前にLIXILの経営陣に取材したとき、将来はビルダーに部品とともにソフトまで提供すると言っていました。日本の住宅を良くするには、日本の住宅の6割を手がけるビルダーにもっと情報提供し、それを家づくりに役立ててもらうことが大切だと考えていたわけです。
設備に頼る省エネではなく、建築部品と設計ノウハウの提供で住宅の高性能化を考えていたわけですね。
確かに開発サイドでは、どちらかというとパッシブな考え方が主流です。採光、通風などを生かして建築で省エネ性能を上げるという姿勢ですね。
優れた省エネ設備は増えていますが、住宅の性能を上げるためにエネルギーではなく自然の力を生かしてほしいという考え方です。ビルダー様には、性能がアップした新製品をご採用いただいても、これまで同様の納め方や同じ方法で負担を感じることなく施工ができて、結果的により高性能な住宅が実現できるよう、製品開発に当たっていきたいと考えています。
僕は〈箱の家〉※1では、窓は基本的に引き違いと滑り出ししか使わないけれど、窓は今どれくらいのアイテム数があるんですか?
30アイテム以上ある商品もあります。
窓には流行もありますからね。一時は出窓がブームでしたが……。
最近は縦長のスリット系が人気ですね。窓を住宅のアクセントと捉えるユーザーも多いですから。
縦長は防犯の意味もあるんですよね。僕は、これからの窓には自然通風の研究が求められると考えています。都市の密集地域では自然通風が難しいけれど、実際には地上10mあたりは常に風が吹いている。その高さに鳩小屋を出して風下側に高窓を設けると、空気が引き上げられ自然通風が得られます。実験でも有効ですし、最近よく使っている手法です。
LIXILも東大生産技術研究所と協働実証実験住宅〈COMMAハウス〉※2を建てた時、ハイサイドの窓を使うと室内の通風量を確保できる実証結果を得ることができました。高所用窓や通風タイプの商品は今後も力を入れていく商品の一つです。
窓の断熱、気密や熱の性質については、近年、データも揃ってきましたから、これからは通風の研究でしょうね。室内に空気の流れがあると28度くらいでも快適に過ごせますから。ただ、窓の性能が上がって気密性も上がることで、ある時期から換気のために穴を開けさせられるようになったからね。断熱性能どころじゃないよね。
熱交換器を使うしかないですね。安定した給気量を確保して気密性能を高めることを窓単体でやるのは……。
矛盾してますね。これこそ窓を単体で考えられないということを象徴してる話だと思いますよ。