------前回は、窓や高性能住宅についての難波先生のご所見や、窓の性能を活かす暮らし方などのお話をうかがいました。今回は製品についてのご質問からスタートしたいと思います。
資料を見ると性能面で非常に優れていることは分かりますが、都市部の防火/準防火地域への対策はどうしてますか?
〈サーモスX〉には、網入りガラスのぺアガラスを採用した、大臣認定の防火戸のラインアップを準備中です。
〈サーモスX〉は、通常は計9ミリ厚になるトリプルガラスを、3+1.3+3ミリの7.3 ミリ厚にすることで約19%の軽量化を図りました。この高断熱ガラスを使い、ヒートブリッジになりやすいフレームを細くして断熱性能を上げる、というのが基本的な考え方です。
確かに室内側からフレームが目立たないのは良いですね。
アルミと樹脂の両方の特性をハイブリッドさせた商品で、アルミの強度を生かしこのフレームの細さを実現しています。
LIXILでは、今発売しているアルミ、樹脂、アルミ樹脂複合のすべての窓の性能をワンランク上げることを目的に、5年前から新商品を投入して、お客様のために、アルミ樹脂複合のスタンダードな窓から高性能化をスタートさせました。当社は日本でいちばん売れているタイプの窓から高性能化に着手することで、日本全体の窓の性能を高めようと考えたわけです。
ここで想定している「お客様」は誰になるのでしょうか?
主にビルダー様、設計者様、流通店様です。エンドユーザーは数値を見て、住宅の断熱性能向上には樹脂窓と考えられる方もおられますが、樹脂複合窓でできた事ができなかったり、扱い慣れない樹脂サッシをおさめるビルダー様のご苦労は、なかなか知り得ないのではないでしょうか。〈サーモスX〉の開発は、東北以南のビルダー様に、扱い馴れたアルミ樹脂複合の窓で、樹脂並みの高性能化を実現できるメリットを提供する目的もありました。
なるほど。製品開発ではほかにどんな課題や理想が……。
私は多様なニーズに合ったアイテムを、設計者様が選択できることも大切だと考えています。アイテムを絞り大量生産すれば経済効率は良くなりますが、実際には市場からの要求はさまざま。断熱性能だけではなく、防火や防犯、耐候性や耐久性が優先的に求められる地域の方もいらっしゃいます。そうしたニーズにちゃんと応えることも私たちの役目だと思いますね。
窓は工業製品だからどの会社も同じと見る向きもありますが、開発している立場はそうは考えませんよね。でも、窓を住宅を構成する部品の一つと捉えると、すべからく、ある一定基準を満たした安定した品質と、安定した供給が求められるというのも一つの視点です。高性能品だけではなく、スタンダードな窓の性能をいかに引き上げるかは業界全体の課題だと思います。
私は、まだ窓の断熱性能は高められると考えています。今も窓の性能不足で寒さを我慢して暮らしている方がいると思いますから。寒さを防ぐだけなら開口部を小さくすれば済むけれど、大開口の開放感や、窓や開閉で得られる心地よさも提供したい。また、窓をどう活用すればより快適になるのか。東西南北でどんな窓配置が望ましいのか。性能を引き出すための情報提供も大切だと考えています。
僕の場合は、窓の機能や使い勝手を意識することなく、着心地の良い洋服のようなナチュラルな状態になることが理想なんですよ。意匠や機能を目立たせて、意識させようとする建築家も多いようですが、そうではなく、窓がほしい場所に当たり前のように窓が配され、ガラスだけしか意識されず、風が欲しいと思うと開閉のレバーがそこにある。そんな自然な状態が理想ですね。
となると、フレームの存在感は小さいほうが望ましい?
前回も話しましたが、僕は窓は壁の穴ではなく、柱と柱の間にある壁の一部と捉えていますからね。透明なガラスがあるだけで、窓の存在が消えるような状態も一つの理想型です。ただ、中途半端にやると逆に窓の存在感が目立つので、窓のフレームをしっかり主張するデザインというのもありうるかもしれないですね。
難波先生の〈箱の家〉シリーズは、南に大開口を設けるプランが特長的で、それはダイレクトゲインを得る目的もあると思うのですが、条件が厳しい都市部ではどう対応されるのですか。
確かに、大開口の断熱面の弱点は、太陽光のダイレクトゲインで補う考えがあります。南に開口がとれない都市部では、2階の窓を活用することも多いですよ。
今、窓は断熱性能競争の時代を迎えていますが、断熱性能は非常に高いけれどダイレクトゲインが小さな窓もあれば、断熱性能は必要十分でダイレクトゲインが大きなタイプもあります。断熱性能、遮熱、日射のバランスを考え、住まい手のライフスタイルに最適な窓をチョイスすることも大切だと考えています。
ところで、窓の大きさに関して、LIXILでは、壁と窓の理想的な割合として推奨する基準はあるのでしょうか?
それは特に定めていません。 ◯◯だから窓を大きくする/小さくする、というのではなく、設計者様が考える住宅を建てるためにどんな窓が必要なのか、という視点を重視しています。
〈箱の家〉は南面の開口が大きいので、壁に対する窓の比率が大きいと思われがちですが、実際には南面に集中させていて、東西には窓はなく北側開口もわずかで、普通の家とそう変わりはないんですよ。メリハリが重要なんですね。
なるほど、確かにそうですね。
西の景色を毎日楽しみたいから、西側にも大きな窓がほしいと頼まれることもありますよ。そんな時は、建築家のクリストファー・アレグザンダー*1の著書『パターン・ランゲージ』*2 に書かれたZENVIEW(禅の眺め)の話をするんですよ。いわゆる「チラ見」ですね。重要な景色はあからさまに見せるのではなく、それがチラリと見える窓を設けるという考え方です。
実例に挙げられていたのは、エーゲ海を望むマケドニア南方のアトス修道院です。その修道院は山頂にあり、周囲にはギリシャの美しい海があるのに、建物は高い壁に囲まれていて海は見えません。でも、寝室と礼拝堂を行き来する通路の途中に小さなスリットがあって、その隙間から毎日一瞬だけ、エーゲ海を覗くことができる。海を「チラ見」しながら修練の日々を過ごし、やがて使徒職として旅立つ時、扉の外に出ると眼前に圧倒的なエーゲ海の景色が広がり、修道士はその時、海の本当の美しさに気づくという感動的な説話です。きれいな景色を 楽しむため、性能を犠牲にしてでも大きな窓を求める方もいますが、逆に小さなスリットや孔のような窓のほうが、生活はもっと豊かになるかもしれない。窓の効用をさまざまな角度から考えることで、より良いプランが導き出されるのだと思います。
------今日の住まいの快適性や性能の向上に、建築家とメーカー、それぞれの「窓」への取り組みが重要だったことが、 本日のお話で改めて確認できました。 お互いの「窓」への理想や方向性を語り合う中で、住まいの質的向上に向けた、 新たな視点が見出される可能性もあると思います。本日はありがとうございました。