暮らしの基本である衣食住の“食”を担うキッチン。だからこそ、より使いやすく、より無駄を省こうと、これまで多くの改良が重ねられてきた。
いわゆる成熟商品。ずいぶん前から新商品を開発するのは難しいといわれてきた。そのため“キッチンはもう進化しない”という人も。
「果たしてそうだろうか」と、商品部デザイングループで“生活研究”を長年務める溝田と川内は、常に考えている。
「例えば食器洗い機を使うことが当たり前になった今、後片付けや食器洗いの作法も変わってきているはず。そこには新しい不便さや“こうだったらいいのに”という要望も生まれているのでは……」
(溝田)
溝田ら生活研究チームは、一般ユーザーのキッチンでの行動をつぶさに「観察」することで、キッチンの不便さや新たな要望を探るのが仕事だ。
具体的には、一般ユーザーの様子を記録した動画を複数のスタッフで繰り返しチェック。気づいた事を付箋に書き出し、「行動観察の5側面」ごとに模造紙にまとめ、検証する。行動観察の5側面とは、生活工学の調査手法の一つで、人間が機械や道具に対してとる行動を、「身体」「頭脳」「時間」「環境」「運用」の5つの側面から観察すると、ユーザーの様々な要求事項が浮き彫りになるというものだ。
この行動観察や検証を通して、一般ユーザーも気づいていない無駄な動きを洗い出し、人がキッチンに合わせるのではなく、キッチンが人に合わせる、すなわち「人に寄り添うように優しく機能する技術」こそが、「ヒューマン・フィット・テクノロジー」なのである。
溝田ら生活研究チームは、一般ユーザーのキッチンでの行動をつぶさに「観察」することで、キッチンの不便さや新たな要望を探るのが仕事だ。
具体的には、一般ユーザーの様子を記録した動画を複数のスタッフで繰り返しチェック。気づいた事を付箋に書き出し、「行動観察の5側面」ごとに模造紙にまとめ、検証する。行動観察の5側面とは、生活工学の調査手法の一つで、人間が機械や道具に対してとる行動を、「身体」
「頭脳」「時間」「環境」「運用」の5つの側面から観察すると、ユーザーの様々な要求事項が浮き彫りになるというものだ。
この行動観察や検証を通して、一般ユーザーも気づいていない無駄な動きを洗い出し、人がキッチンに合わせるのではなく、キッチンが人に合わせる、すなわち「人に寄り添うように優しく機能する技術」こそが、「ヒューマン・フィット・テクノロジー」なのである。
例えばシステムキッチンの「収納」。一般ユーザーの調理行動を丁寧に観察した結果、「引出しを全開せずに少し開けただけで物を取り出す」という行動を探り当てた。そこで、取りたいものがパッと取り出せる「引出し収納」の可能性を探った。
溝田と川内らは、モニター映像を通して、どのような道具をどれくらいの頻度で、どのように使うのかを細かく分析。より体に負担をかけずに取り出せる位置や、引出しの駆動メカニズムも追求した。
「一般的に出回っている様々な調理道具のサイズも測りました。お客様がお持ちの調理道具がきちんと収納できるスペースをできる限り確保するだけでなく、形状まで細かく把握した方が、取り出しやすさを追求できると思ったのです。その数は、包丁だけでも150本以上にのぼりました」 (川内)
その結果、軽く引き出せ、中の物が一目で見渡せ、かつ簡単に取り出せる「らくパッと収納」が開発されたのである。
例えばシステムキッチンの「収納」。一般ユーザーの調理行動を丁寧に観察した結果、「引出しを全開せずに少し開けただけで物を取り出す」という行動を探り当てた。そこで、取りたいものがパッと取り出せる「引出し収納」の可能性を探った。
溝田と川内らは、モニター映像を通して、どのような道具をどれくらいの頻度で、どのように使うのかを細かく分析。より体に負担をかけずに取り出せる位置や、引出しの駆動メカニズムも追求した。
「一般的に出回っている様々な調理道具のサイズも測りました。お客様がお持ちの調理道具がきちんと収納できるスペースをできる限り確保するだけでなく、形状まで細かく把握した方が、取り出しやすさを追求できると思ったのです。その数は、包丁だけでも150本以上にのぼりました」 (川内)
その結果、軽く引き出せ、中の物が一目で見渡せ、かつ簡単に取り出せる「らくパッと収納」が開発されたのである。
そして、新たに開発したのが「ハンズフリー水栓」である。
一般ユーザーの行動を観察したところ、食器洗い機利用者の9割以上の方が食器洗い機に入れる前に“予洗い”をしていた。洗った食器をすすいでは食器洗い機に入れ、すすいでは入れの繰り返し。その際、「いちいち水を止めるのが面倒だから」と、つい水を出しっぱなしにする方や、「水がもったいないから」と、一回ずつ水を出し止めしている方がいることが明らかになった。溝田たちは、その問題を解消するために高機能な自動水栓の開発に乗り出した。
「水が出てほしい時に出て、止まってほしい時に止まらなければならない。これは感覚的なもので、“フィット感”がとても大切なんです」(川内)
その“フィット感”を探るべく、一般ユーザーに試作機の検証を依頼。スタッフらも実際に使いながら、センサーの感知範囲や感知速度を詰めていった。
しかし、開発は難航した。
理想とするタイミングで水が切れてくれない。出て欲しくない位置で水が出てしまう。
「ほんの少しの差なのですが、そのズレが使い勝手にとっては違和感のもと。心地よく使えるタイミングを探るのが大変でしたね」(川内)
技術スタッフと丁寧にやりとりを重ね、少しずつ完成に近づいていった。溝田と川内は確信した。
この「ハンズフリー水栓」に慣れてしまうと、手動の水栓では絶対に物足りなくなる。これが普及したら、キッチンの使い方は劇的に変わるだろう──と。
溝田と川内が心血を注いだ「ハンズフリー水栓」は、2015年4月に発売された新しいキッチン、「サンヴァリエ〈リシェルSI〉」に搭載された。
さらに、見た目に美しく、表面が硬質でキズや汚れにも強い「セラミックトップ」、取り出したいものだけ取り出せる窓(アクセスウィンドウ)が付いた「2ウェイクローゼット」など、「ヒューマン・フィット・テクノロジー」を満載したこの新しいキッチンは、発表直後の展示会で高い評価を得た。
「お客様から、“これなら家族も手伝ってくれそう”と言われた時は嬉しかったですね」(川内)
「ヒューマン・フィット・テクノロジー」という、実際は地道な「観察」と「検証」の作業によって、新しい価値が生み出されたのだ。
「料理が得意ではない、忙しくて時間がない、そういう方でもキッチンに立つことが苦にならないキッチンにしていきたい。そのためには面倒を省くという視点も重要。頑張ってお掃除をしなくてもキレイに保てるキッチンなんて良いかもしれませんね」(川内)
単に面倒を省くだけでなく、料理を作ることが “楽しみ”になる。それは、使う人が「幸せ」になれるキッチン。そのキッチンを作り上げるためのアイデアは、尽きることがないようだ。
「住まいの水まわりの場として考えると、料理と洗濯も同時進行できるなど、住まいをトータルで考えられる弊社ならではの強みを生かして、さらにキッチンを進化させていきたいです」(溝田)
これからも溝田と川内は、あくまでも“使い手”に寄り添いながら、キッチンの開発の道を歩み続ける。
「料理が得意ではない、忙しくて時間がない、そういう方でもキッチンに立つことが苦にならないキッチンにしていきたい。そのためには面倒を省くという視点も重要。頑張ってお掃除をしなくてもキレイに保てるキッチンなんて良いかもしれませんね」(川内)
単に面倒を省くだけでなく、料理を作ることが “楽しみ”になる。それは、使う人が「幸せ」になれるキッチン。そのキッチンを作り上げるた
めのアイデアは、尽きることがないようだ。
「住まいの水まわりの場として考えると、料理と洗濯も同時進行できるなど、住まいをトータルで考えられる弊社ならではの強みを生かして、さらにキッチンを進化させていきたいです」(溝田)
これからも溝田と川内は、あくまでも“使い手”に寄り添いながら、キッチンの開発の道を歩み続ける。