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LIFESTYLE 01

自然の光や風、景色とつながる、
「開放的な水場スペース」

ウチでもソトでもない、
新感覚の心地よさ。

既存のテラススペースに、バスタブや洗面、トイレを配置するプランです。日当たりのいい場所に置かれた水まわりは風通しもよく、いつもカラッと清潔。ブラインドで外からの視線を調整すれば、わが家でありながら半露天風呂のような開放感が味わえます。夏場には、子どもがビニールプール感覚でバスタブを使うもよし。断熱性に優れた窓を内外両サイドに採用することで、暑さ・寒さの侵入を防ぐ“ダブルスキン”としても機能します。
庭に面しているため、ガーデンパーティーなどの際には、ゲストを家の奥まで通さずにトイレや洗面を提供することも可能です。また、玄関を通さずにアクセスできる水まわりは、災害時にも力を発揮。セキュリティを確保したまま、周辺住民の助け合いの場として開放する可能性も考えられます。

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中山英之さんの考える、
ストーリーのBack Ground

「遅い水」のランドスケープ

ある勉強会で、文化人類学者の竹村真一さんから、「遅い水」という言葉を聞きました。日本は豊かな水資源の国と言われています。けれども、平地の少ない急峻な地形にあって、降った雨はあっというまに海に至ってしまうため、川の流れは速く激しくて、必ずしも豊かな水辺環境に恵まれた国土のかたちであったとは言えなかったのだそうです。この水の速度を落とし、生物や植物にとって住みよい、いわば「遅い水」を作り出す働きを担っていたのが、水田でした。琵琶湖の3倍もの水量を誇る人工的な環境装置が日本全土に分散配置されることで、この国の風景は、多種多様な生態系が育まれる「遅い水」のランドスケープに改質されてきた、というのです。

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大規模定住社会と「速い水」

ランドスケープ・アーキテクトのイアン・マクハーグは、「風景の輪郭とは、分水嶺から分水嶺までである」と定義しました。空から落ちてきた雨粒たちの一群が、偶然着地した尾根の稜線でその運命を分断されて、それぞれがまったく違う谷へと流れ落ちて海に至る。この「分水嶺」に囲まれた範囲で起こる水の多様なふるまいのことを「ランドスケープ」と呼び、その輪郭を定義したのです。現代の都市を見てみるとどうでしょうか。たとえば東京の生活水は、東京都に降る雨の総量を超えるほどの水を、この分水嶺の外から人工的に運び込むことで賄われています。都心を流れる川の水の過半は、「風景の輪郭」の外から、私たちの住環境を経由して流れ出した水であることを、ほとんどの都市生活者は意識することもありません。ゲリラ豪雨の翌日、そうした川を眺めると、少なからぬ衝撃を受けるでしょう。通常は整備の進んだ浄水場から河川に放流される生活排水ですが、ゲリラ豪雨のスピードに処理能力が追い付かず、住環境の排水口への逆流を防ぐため、未処理の下水がやむを得ず河川に放流される事態が頻発しているのです。

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「遅い水」をつくる

こうした事態を回避するために有効な手立てが、ひとつあります。それは都心のすべての建築物が、床面積に応じた「中水タンク」を持つことです。雨水を蓄え、その水を日常生活の中で時間をかけて利用する。この遅延プロセスを都市の水サイクルの中に組み込むことで、雨水の放流と分水嶺の外からの水の供給の両面から、都心の「速い水」に働きかけることができます。小さな分散型タンクの存在は、豪雨直後のピークカットに寄与することで下水の河川放流を防ぎ、都市河川に多様な生物を育む、「遅い水」のランドスケープをもたらす可能性につながっているのです。水田は、豊富な水を単に節約するのではなく、自分たちのために上手に使う場です。そしてそのかたちは、私たちに「遅い水」のランドスケープをもたらしました。そうであるなら、都市生活を営む現代の私たちが日常的に使う水から、「遅い水」の風景がもたらされるための「水まわり」とは、どんなかたちをしているのでしょうか。

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家のそと、雨のうち

かつて厠は家の外にありました。お風呂場もまた、より外に近い土間に置かれていた。建築設備の進化によって、そうした水まわりは今日、家の中に組み込むことができるようになりました。雨水のふるまいとしてのランドスケープから、距離を置いた存在としての水まわり。それが今日の都市における、水のふるまいのかたちです。このかたちに、中水タンクを組み込んだ場を新しく想像するとき、もういちど家の外に一歩近づいた水まわりの姿がイメージされます。雨どいに接続されたタンクから、重力で水を落とすことのできるシンプルなユニットが、家のそと、雨のうちである軒下に組み込まれた住空間です。このモデルは、庭つき一戸建ての郊外住宅に近いものですが、都心の狭小住宅や集合住宅でも、同じような考え方を展開していくことで、建築の水まわりが、都市に「遅い水」のランドスケープを作り出すきっかけをもたらす存在になる。プロダクトがそれを使う人の快適性を超えて、もっと大きな環境に時間をかけて働きかけていくことでもたらされる、風景に向けられた水まわりの提案です。

中山英之(なかやまひでゆき) イメージ Photo by
加藤孝司/Takashi Kato

中山英之(なかやまひでゆき)

1972年福岡県生まれ。1998年東京藝術大学建築学科卒業。2000年同大学院修士課程修了。伊東豊雄建築設計事務所勤務を経て、2007年に中山英之建築設計事務所を設立。2014年より東京藝術大学准教授。
主な作品に「2004」、「O邸」、「家と道」、「石の島の石」、「弦と弧」、「mitosaya薬草園蒸留所」、「Printmaking Studio/ Frans Masereel Centrum」など。
主な受賞にSD Review 2004 鹿島賞、第23回吉岡賞、Red Dot Design Award best of the best、第17回環境・設備デザイン賞優秀賞、日本建築仕上学会賞作品賞、2019年度グッドデザイン賞金賞など。
主な著書に『中山英之/スケッチング』(新宿書房)、『中山英之|1/1000000000』(LIXIL出版)『, and then: 5 films of 5 architectures / 建築のそれからにまつわる5本の映画』(TOTO出版)など。