柘植審査委員長総評
本年度のフロントコンテストを概観すると、これまでの建築産業が定義したサッシなどフロント材の用途を超えた、新たな機能や活用法が散見されました。これらは新しい設計・施工事例として、現代の社会や時代が求めるフロントデザインのイノベーションとも呼べる現象であり、新たな可能性を象徴しています。特に高く評価したフロントデザインの展開としては次のような事例が際立った様相を呈していました。
まず商業空間では、店の境目のないフロントが、建築内外の客の行き来を促して、消費や購買活動の体験を豊かにする試みです。店舗と公共空間の境界を限定せず、利用者に多様な体験を提供し、心理的にも物理的にも自由な商環境を実現しています。次に、アルミサッシなど現代の素材を伝統建築に展開する試みです。新旧建築素材の融合がハイブリッドと言っても良い魅力的な空間を創造しました。歴史的な美学や秩序を尊重しながら現代のたたずまいとして伝統と新技術が見事に調和しています。更に文化財の持続的な用途を満たすために、歴史的建造物の保存と利活用という相反する要件を学術的にも統合する試みです。フロント材がその自然科学的な機能や因果性を超えて、体験、文化、世界観といった人文科学的な、あるいは社会科学的な様相にも寄与し得ることを実証しました。
こうした本年度コンテストの挑戦は、人々の体験価値を豊かにするUX・UIにも通じる空間的デザインのイノベーションとして更なるフロント材活用の進化を提起するものであり、非常に優れた提言であると判断し贈賞を決めました。
グランプリ
WHATAWON
小規模施設部門
金賞
重要文化財遺愛学院本館
銀賞
銅賞
大規模施設部門
金賞
御福餅本家 本店