柘植審査委員長総評
今日、AI技術の加速度的な進化を背景に、世界中の産業は大きな転換点を迎えています。これまでのように単一の専門領域を磨き上げる時代は終わり、多様な領域が重なり合い、融合することで「異分野コラボレーション」が新たなイノベーションを創出する時代へと移行し始めました。本年度の審査は、フロントサッシ産業が「建材」という従来の枠組みを越え、社会科学や人文科学、さらには情報通信や都市計画といった異なる領域と共鳴し、全く新しい価値を創出するフェーズにあることを強く実感させるものとなりました。
その変化を象徴するのが、本年のラスベガスCESでも注目を集めた「フィジカルAI」です。情報通信と機械工学が高度に融合し、AIが物理的な実体を持って機能し始めたことで、あらゆる生活空間の在り方は根本から塗り替えられようとしています。例えば、自動運転技術の進化は、かつて自明であった「歩車分離」という都市構造を過去のものとし、道路や公園、そして建築がボーダレスに溶け合う風景を実現しようとしています。こうした劇的な変化の中で、建築の「顔」を司るフロントサッシは、もはや単なる「境界」に留まるものではありません。それは、都市と人間を繋ぎ、相互に作用する「動的なインターフェース」へと再定義されているのです。
本年度の応募作品群には、こうした産業構造の変化を鋭く捉えた意欲的な提案が数多く見受けられました。そこには、都市の景観や歴史的文脈を継承しながら新たな情報を発信する「サイン」としての役割や、ランドスケープ、さらにはインテリアデザインの要素を積極的に取り込むことで環境そのものを再構築する、広義の都市デザイン的視点が内包されています。これらは、従来の自然科学的な技術追求や工学的な性能向上という次元を超越し、人々の幸福や心理的な充足に直接的にアプローチする、いわば「人間科学」への挑戦とも言えるでしょう。
これらの進化が目指す究極の到達点は、未来社会の核心となる「ウェルビーイング」に他なりません。人々が心身ともに健康であり、精神的・社会的にも満たされた幸福な状態を、いかにフィジカルな空間として具現化していくか。今回の選定にあたっては、フロントサッシが機能的なパーツであることを超え、人間に寄り添うインターフェースとして、いかに革命的な価値を提示しているかを重視しました。技術は今、より豊かな生を実現するために、その領域を軽やかに越境し始めています。本年度の受賞作品は、異分野との対話を通じて建築のパーツを「都市と人々の生活、そして活動に彩りを与える存在」へと昇華させた、フロントサッシの輝かしい可能性を確信させてくれるものでした。
グランプリ
代々木公園 BE STAGE
小規模施設部門
金賞
明石硝子工業所本社

















