土屋由美さん 水と暮らしの関わりを
インタビュー!

料理を作る上で大切なことは
「You are what you eat. 」

土屋由美さん料理研究家

土屋由美さんインタビュー後編

「食」を軸にライフスタイルを提案する料理研究家の土屋由美さん。20年前に葉山、森戸神社の前で母と共に始めたカフェmanimaniは、日本のカフェ文化の先駆けとなる。古民家、オーガニック、アーティストの作品という素敵なキーワードに溢れた店だった。10年ほど前から、場所を自宅に移し活動を続ける土屋さん。生きること、暮らすことで大切にしている思いを聞かせていただいた。

カナダでの大学生活を終え、日本に帰国した由美さんは、外資系の証券会社に就職し、憧れだった土地、東京、恵比寿に住んだ。代官山も近く、流行に敏感な人やもので賑わう街には、美味しい店や雰囲気のあるセレクトショップが集まっていた。世の中はバブル時代。「上から下まできれいに決めたOLスタイル」で金銭感覚が狂ってしまいそうな世界に居る自分に違和感を感じ始めていた頃、信頼していた社長が突然、解雇された。「外資系ならよくあることでしたが、代わりのいる職場にやりがいを感じられず」、それを機に退職を決めた。何かを手放すと、新たなものが舞い込んでくる。そのタイミングで母がカフェをオープン。以前から手伝って欲しいと言われていたこともあり、本腰を入れて携わることになる。

母とキッチンに立ったかけがえのない時間

「ちょっと一杯、コーヒーを飲む店があったらいいな」
それが最初に母が描いたカフェのイメージだった。陶芸家の姉の作るカップや皿を使い、菓子作りの好きな妹の由美さんがスイーツを担当し、金、土、日の週三日営業で店がスタートした。店を切り盛りするのは、母と由美さん。もともと食べることも作ることも好きだった彼女は、持ち前の好奇心と熱心さのお陰で、めきめきと料理の腕を上げた。

長い年月を離れて暮らしていた母とキッチンに立ち、働くという経験は、かけがえのない時間だった。2014年、建物の耐震性の問題で店を閉めることになったとき、「やっとあなたに教えたかったことを伝えることができたわ」と母に言われ、離れていた時間の親の思いが伝わってきたと目を潤ませる。「調味料の配合も大事ですが、花ひとつ活けること、手間暇かけることを惜しまないこと、丁寧に向き合う時間をもつことを教えてもらえたと思います」。そのことが今に生かされているのだと。

母とキッチンに立ったかけがえのない時間 イメージ

食べるもので体が変わることを実感

「You are what you eat . 食べるもので体はつくられている」というのが、料理をするときいちばん大切にしていること。思い出に残る味、母の味、友人の手作り、地元の新鮮な食材、作り手の愛情を感じられる料理。そういうものを「美味しい」というのではないかと、由美さんは話す。カフェで出す料理も、教室で教えるレシピも中心にあるのはそんな考えだ。時にはお取り寄せを楽しむこともあるけれど、やはり地元で育ったもの、獲れたものを味わって欲しいと、葉山をはじめ、三浦半島の産物を積極的に使っている。

食べるもので体が変わることを実感 イメージ

由美さんが健康を意識して食を考えるようになったきっかけは、小学生の頃の母の病気も関係がある。母の2ヶ月の入院ののち、食生活がガラッと変わった。無農薬の野菜を選び、バターの代わりにオリーブオイルを使うなど、一気にヘルシー志向となった。その後、カナダでのアレルギーを意識した食との出会いも重なり、食べるもので体が変わることを実感したと言う。今は、自らの食のレパートリーに、薬膳やハーブの効能も取り入れている。

「好きなものに囲まれて生活したい」

「健やかに暮らすための食」をテーマにする由美さんのキッチンに、最近、タッチレス浄水栓が付いた。ダイニングからもよく見える位置にあるアイランドキッチンのシンクに設けられた美しいアーチを描くシルエットの水栓は、由美さんの審美眼に叶うデザイン。光溢れ、風の通る気持ちの良い空間に、すっきりと馴染んでいる。すぐ横には電気ケトルやソーダ水メーカーが並ぶ。これまで飲料用にペットボトルの水を使っていたけれど、タッチレス浄水栓になってとても便利になった。坂の途中にある家の3階まで、ペットボトルを運ぶ手間を考えるとうなずける。

「好きなものに囲まれて生活したい」 イメージ1

「特に喜んでいるのは子供達かもしれません。水道水を飲みたがらなかった長男が、ただいまぁと帰ってくると、ピッと手をかざして水をコップにくんで、ごくごく飲んでいます。『あぁ、美味しい!』って」。子供はタッチレスで水が出る仕組みを気に入り、「中はどうなっているのだろう」と興味津々なのだとか。

由美さん自身も調理中にちょっと手を洗う際、食材を触った手で蛇口を触るストレスがなくなった。ご飯は米を研ぐ過程から浄水をふんだんに使えて、炊き上がりの味が変わった気がする、野菜を茹でるときに水道水の匂いがしないなど、調理の現場からのリポートは次から次へと続く。最後に一言、「水は大事ですからねぇ」とじっくりと語るその口調から、実感のほどが伝わって来た。

「好きなものに囲まれて生活したい」 イメージ2

カフェ&ギャラリー、料理教室、ケータリングのほか、地元でのボランティア活動にも力を入れている由美さんの日常は休みがない。常に動いているから「静」の時間も大切にしたいと、書道を習い調和をとるようにしていると言う。「食もそうですが、すべてに陰陽のバランスがあって、偏るとイライラや体調を崩すことにつながっていきます」。心と体が求めるものを静かに探り、ストレスを溜めないこと。アクティブにいろいろやってはいるけれど、「決めているのは、自分がしたくないことはしないということ」ときっぱり。そして「好きなものに囲まれて生活したいですね」とにこやかに。花を活けるのも、料理をするのも、好きだから知らないうちに体が動いてしまう。それが由美さんの原動力なのだろう。

「好きなものに囲まれて生活したい」 イメージ3
撮影/名和真紀子 取材・文/山根佐枝 取材日/2021年2月8日
土屋由美

土屋由美つちやゆみ

料理研究家。葉山生まれ。中学一年生のときに家族と共にカナダに渡る。半年後に両親は帰国するが、その後も大学卒業までを現地で過ごす。帰国後は東京に住み、外資系証券会社に勤務。2000年に母の始めたカフェ「manimani」のオープンをきっかけに葉山に戻り、運営を手伝うようになる。2009年、葉山に建てた自宅でカフェ&ギャラリーをスタート。不定期で営業するほか、ケータリング、料理教室などを行う。薬膳インストラクター、メディカルハーブセラピストの資格をもつ。夫と二人の男の子と共に暮らす。