玄米枝豆昆布、玄米糠にしん、玄米山わさび醤油、黒米くろ豆……。「玄米おむすび ちゃみせ」には、定番から季節限定まで常時15種類ほどのおむすびが並ぶ。あれもこれもと、つい手が伸びてしまう魅力的なラインナップ。さらに10時からは数量限定で、玄米半熟たまごがお目見えする。具は玄米こうじで漬けた町内産の卵がまるごと1個。ずしりとした手応えに負けないくらい食べ応えのある人気者だ。
玄米のおいしさを知ってもらいたい
「どなたにでも気軽に食べていただけるのがおむすびのいいところ。玄米を中心にしたのは、体にいいものを、と考えていたときに、農家の方から玄米の話を聞いて興味をもったのがきっかけでした」と、千葉さんは言う。
驚くのは、その食感。玄米というと、少し硬くてどうにも食べづらいという印象が否めないが、「ちゃみせ」の玄米おむすびは、食べづらさとは無縁。ひと粒ひと粒がふっくらと柔らかく、かみしめるほどにおいしさがじわりと伝わってくる。
「二升釜で炊くので、少量で炊くよりもおいしくなるのだと思います。うちでは白米も少し混ぜていますし、あとは塩も関係しているかもしれないですね。塩はいろいろ試して、宗谷の塩にたどり着きました。粒子がすごく細かいので使いづらいところもあるのですが、おいしいですし、ご飯もまろやかになるので気に入っています」
食べづらい、あまりおいしくない。玄米に抱きがちなマイナスイメージを、千葉さんがにぎるおむすびは軽やかにくつがえす。
「私たちが目指しているのは、ちょっと体にいい、やさしいものをつくりたい、ということ。何よりおいしくないと続けられないかな、と思います。玄米のおいしさをもっと知ってもらいたいですね」
地元にも観光客にも愛される店
東川で5年目を迎えた「ちゃみせ」は、雑誌での紹介やネットや口コミでの評判も手伝って、今や東川の人気店のひとつに数えられる。近隣で学校祭などのイベントがあれば数百個単位で予約が入り、週末ともなれば、札幌あたりから車でわざわざ目指してやってくるリピーター客あり、周辺の山々を行楽で訪れる人あり。店はいっそうの賑わいを見せる。
「ありがたいですね。遠くからいらっしゃってくださる方の中には『たまにしか来られないから、たくさん買って冷凍するよ』と言ってくださる方もいます。山に遊びに行かれる前に、おむすびを買って源水で水を汲んで腹ごしらえ、という方も多いですね。このあたりが1年でいちばん賑わう紅葉のシーズンは、山を目指すお客さまが朝早くからお見えになります」
おいしい水との出会いがあったからこそ今がある
おむすび屋の朝は早い。仕込みが始まるのは朝、というより夜明け前だ。特に週末や行楽シーズンなどの繁忙期は、深夜12時頃から始めなければ8時の開店に間に合わない。玄米は、炊く時間が白米の倍かかるというのも理由のひとつ。それでも東川の水、そして自然に助けられているという。
「伏流水の水温は6,7℃と1年を通して一定しているので、夏はひんやりと冷たいですし、冬は手が痛いほど冷たいとは感じないですね。真っ暗なうちからひたすら仕込みをしていると、旭岳の方からどんどん空が明るくなってきて、朝陽が昇ると、空がきれいな朝焼けに染まる。その空を見るときが、ああ、おむすび屋をやっていてよかったーと思う瞬間です。
「なぜ、おむすび屋?」と問われることはしょっちゅう。「おむすびだけじゃなくて、メニューを増やせば」とか「もっと都会で大きくやればいいのに」といった進言も珍しくない。それでも千葉さんは言う。「ここで、おむすび屋をやっていることに意味があると思っています」と。
東川の水に惚れ込み、東川の水ですべてをまかなえる店にしたい。おいしい水との出会いがあったからこそ膨らんだ夢は、現実のものとなった。「ちゃみせ」には、今日も東川の水が育んだ表情豊かなおむすびが並ぶ。
撮影/名和真紀子 取材・文/河合映江
取材日/2018年7月12日