環境問題は世界的に喫緊の課題で、近年ではプラスチックの廃棄による環境汚染が問題となっていて、特に海に流入するプラスチックごみによる海洋汚染や生態系への影響が深刻化している。世界では、過去20年間で廃プラスチックの量は2倍以上に増加し*1、廃プラスチックの大半が焼却や埋め立て処分され、日本でリサイクルされるのは24%にとどまっている*2。環境に与える影響を軽減するには、大量生産、大量消費、大量廃棄といったこれまでのビジネスモデルからの脱却を図り、資源の循環利用を推進していく必要がある。
LIXILでは、廃プラスチックをはじめ、貴重な資源を有効活用しながら、新たな価値を生み出し、持続可能な循環型社会を構築する取り組みを進めてきた。こうした取り組みのひとつとして、同社では、これまで再資源化が困難とされていた廃プラスチックと廃木材を原料とした新素材「レビア(revia)」を開発し、今年1月に第1弾商品である舗装材「レビアペイブ」を発売した。「レビアペイブ」は2025年の大阪・関西万博のシグネチャーパビリオン「EARTH MART(テーマ:いのちをつむぐ)」(設計:隈研吾建築都市設計事務所)での使用が予定されており、廃プラスチックの再利用のあり方を変える新素材として大きな注目が集まっている。
隈研吾氏と吉田聡氏に、資材を活用する建築家と資材を提供するメーカーのそれぞれの立場から、今後の建築界の環境への対応や建築の方向性、資源循環の取り組みの重要性について語っていただいた。(編)
環境問題と建築を直結させて考える
──まずは、住宅設備機器・建材メーカーである吉田さんに業界の環境問題への動向についてお伺いします。
吉田 今年4月にドイツのミュンヘンで「BAU 2023」という国際建築・建材・建築システム専門見本市が開催されました。世界各地から建材メーカーなどが出展する大きなイベントで、環境問題、とりわけ温室効果ガスの排出量をいかに減らすかということが大きなテーマでした。2050年までにカーボンニュートラルを達成するという目標が世界的にありますし、日本も同様の計画を立てています。
このような状況の中、われわれLIXILが欧米の企業と取引していると、建設部門から出るCO2の排出量が多いということが特に話題になります。全世界のCO2排出量に占める建設部門の割合は約37%といわれていて*3、建築業界の動きとして建築物のライフサイクル全体での環境負荷を評価するLCA(ライフサイクルアセスメント)手法を用いて、建物の建築・廃棄時などに発生するエンボディード・カーボン*4と、建物使用時に発生するオペレーショナル・カーボン*5を算定し、環境負荷の軽減に繋げるアクションが加速しています。特に、エンボディード・カーボンの削減が課題となっており、その要請が欧米からもあります。
──建物のライフサイクル全体で環境負荷を軽減させていくというお話がありました。世界でさまざまなプロジェクトを手掛ける隈さんはどのように感じていますか。
隈 僕らが海外のプロジェクトで呼ばれるのは、ほとんど環境配慮ということに関連しています。日本人というのは環境に対する意識が高いと思われているところがあります。日本の伝統的な建築や食文化など、さまざまな慣習が環境を意識したもので、海外の方もそのような点を評価しているのに、日本人自身から見ると、当たり前になっているのか、そこに対する自覚が足りていないように感じます。
それから、海外のプロジェクトと日本のプロジェクトでの一番の違いはクライアントの環境への意識です。日本はデフレが長かったので、建築に高い目標を設定するというより、建築費の問題で矮小化してしまったという印象です。予算内に収めましょう、スケジュール内に収めましょうということが重要になってしまって、環境について新しいことにチャレンジしようという高い目標を掲げるクライアントが少ないように思います。
それに比べて海外のクライアントと仕事をすると、最初にいわれるのが環境についてです。コロナやウクライナ情勢の影響により世界中でコストは上がっていますが、それでも環境に対する意識は高く、どのような建築デザインがふさわしいのか、どのような材料を使うべきかという意識をみなさん持っています。建築が社会に果たす役割でもっとも重要なのは環境問題への貢献です。建築の希望を絶やさないようにするには、この問題に真摯に向き合うことで、日本の建築業界全体で、もっとがんばらなければいけないと感じています。

舗装材「レビアペイブ」。ランダムの溝が光を乱反射してさまざまな表情をつくる。独自の実(さね)構造で施工効率を向上させ、耐摩耗性能も高い。
──環境問題へ向き合うことの重要性をお話しいただきましたが、LIXILでの具体的な活動についてお聞かせください。
吉田 LIXILは、私たちの日々の暮らしに欠かせない水まわり製品と建材製品を提供し、世界150カ国以上で事業を展開しています。自社の事業プロセスにおける環境負荷を低減するのはもちろんのこと、私たちが提供する製品やサービスを通じて、「Zero Carbon and Circular Living(CO2ゼロと循環型の暮らし)」の実現を目指すという環境ビジョンを掲げています。LIXILの環境戦略は、「気候変動対策を通じた緩和と適応」、「水の持続可能性を追求」、「資源の循環利用を促進」という3つの重点領域にフォーカスしており、業界のリーダーとして当社の専門知識を活かしながら、各領域において、重要な役割を果たすべく積極的な活動を展開しています。グローバル企業としての社会的な責任を果たすことはもちろんのことですが、さまざまなステークホルダーとの連携を通じて、社会全体における環境負荷の低減に向けて、既存事業の枠を超えてインパクト(よい影響)の拡大を目指しています。
特に、資源の循環利用については、LIXILでは長年にわたって、原材料の効率的な利用を追求し、イノベーションの創出に繋げてきました。今回、大阪・関西万博のシグネチャーパビリオンへの採用が予定されている廃プラスチックを原料とした「レビア」だけでなく、アルミや樹脂のリサイクル素材を活用した製品を展開しています。アルミに関してはリサイクル率の高いものの安定供給が求められていて、昨年リサイクルアルミ使用比率70%を実現した低炭素型アルミ形材「PremiAL R70(プレミアル アール70)」を発売しましたが、今年の10月にはリサイクルアルミ使用比率100%の「PremiAL R100(プレミアル アール100)」の物件対応を開始します。この製品はエンボディード・カーボンの削減にも寄与します。そのほかにもCO2の排出を削減する取り組みとして、高断熱窓や玄関ドアの普及促進と、一棟まるごと断熱改修する「まるごと断熱リフォーム」などで住宅の高性能化を推進することで、オペレーショナル・カーボン削減に貢献しています。
隈 このような取り組みを聞くと、社会的責任ということを強く感じます。素晴らしい試みですが、好感度という点も企業に必要なのではないかと思っています。どうすれば愛される企業になるかということです。企業にとっても、環境というのが一番の切り札になるし、この点では、日本の企業は高い技術を持っていますが、それを好感度に繋げる努力が今までは足りなかったという気がします。ここにある「レビア」のような製品を上手にアピールすれば、企業のイメージアップに繋がるのではないかと期待しています。


サステナブルな循環システムと「レビア」
──「レビア」の話がでましたが、この製品の誕生についてお聞かせいただけますか。
吉田 リサイクル材を使った製品開発は長年取り組んでいて、「製品から製品」へというマテリアルリサイクルによる資源循環を推進してきました。たとえば、建材を加工する生産工場から出る廃木材と、容器包装リサイクル法に基づいて、家庭から排出され、リサイクルされる廃プラスチックを原料とする人工木デッキを販売してきた実績があります。しかしながら、廃プラスチックにはさまざまな種類があり、リサイクルできるものは限定的で、現状のリサイクルの手法では再資源化が困難とされてきた廃プラスチックは多く存在しています。こうした廃プラスチックは、燃やしたり埋めたりされているというのが現状です。
国内では、年間822万トンものプラスチックが廃棄されていて*2、国民ひとり当たりのプラスチック廃棄量は世界で2位となっています*6。ペットボトルなどの有効利用は進んでいますが、たとえば、スナック菓子の袋のように、アルミ蒸着をしたプラスチックは分別処理するのが難しく、約76%が再資源化困難な廃プラスチックといわれています*2。
LIXILでは、こうした課題に着目し、当社の技術力を活かせば、これまでリサイクル困難と考えられていた廃プラスチックを利用した製品がつくれるのではないかと考えました。試作品の生産、改良、実証実験による検証を経て、さまざまな種類の廃プラスチック、廃木材と融合した新素材「レビア」を開発しました。「レビア」1トンの製造工程で排出されるCO2排出量(0.39トン)と、同量のレビアに使われる廃プラスチックや廃木材が焼却処理された場合のCO2排出量(2.32トン)を比較すると、82%のCO2排出量の削減に繋がります*7。廃プラスチックを細かく粉砕して使用するので、プラスチックの種類によらず、ほぼ再利用できるというのが特徴です。特に海洋プラスチックは大きな問題になっていますが、こういった構成要素が不明なプラスチックも使えます。

吉田氏の説明を受けて「レビア」を手に取る隈氏。
隈 改めてじっくり拝見させていただきますが表情が面白いですね。
吉田 微粉砕した廃プラスチックが表面に出ています。
隈 たいへん魅力がありますね、工業製品なのに、手づくりのバラツキ感というか個体差があるところがいいですよね。重みも好きです。プラスチックというと薄くて軽いという感じですが、手応えのある重みがあって建築材料向きですし、ある種の安心感を与えてくれます。
吉田 ご覧いただいているのは「レビア」の技術を舗装材として製品化した「レビアペイブ」です。押出し成形でつくっています。
隈 レンガやタイルに似ている素材ですね。溝がランダムにつけられているので、東京大学のスクラッチタイルの建物を思わせます。関東大震災後の復興として内田祥三先生が携わったのですが、タイル工場も被災したため各所からバラバラの様相のタイルしか集まりません。そこで、色ムラや不揃いなものに味を出すためにスクラッチをかけて影をつくって、全体として豊かな表情になり、キャンパスにうまく溶け込ませています。それが東大キャンパスの魅力になっているのですが、それを思わせるような表情ですね。
吉田 ありがとうございます。「レビア」は水平リサイクル*8が可能です。利用済み「レビア」を回収して工場でもう一度粉砕して、また新しい「レビア」に生まれ変わるという仕組みで、焼却されていた廃プラスチックを再資源化することで、CO2排出削減に貢献する点も特徴になっています。
隈 「レビア」を拝見すると、20世紀の後始末を考えさせられます。20世紀は大きなボリュームの建築が大量につくられました。そしてプラスチックも大量に消費されました。その後始末をつけるのが21世紀だと僕は思っています。再び元の環境、優しいものにつくり替えていくということです。もちろん自然素材を人びとが求める時代になり、木を使うことが多くなったのですが、ただ木を使うだけでは意味がない、その上のレベルに立って、木に関する循環を考えないといけません。われわれが20世紀につくってしまったものと自然素材を融合させて、サステナブルな循環システムをもう一度再構築することが必要で、プラスチックの再利用ということも、大きな効果を出していると思います。
伝統と未来の融合
──「レビアペイブ」が大阪・関西万博のシグネチャーパビリオンに使われるということですが、このパビリオンについてご説明いただけますでしょうか。
隈 大阪・関西万博の中核になるテーマ事業「シグネチャープロジェクト」の中のひとつで、小山薫堂さんのプロデュースによる「EARTH MART(テーマ:いのちをつむぐ)」というパビリオンです。食べ物に焦点を当てていて、日本人が育んできた食文化と、テクノロジーによる食の最先端を提示します。食べ物は環境と人間の循環を考える上で重要なもので、そこから環境全体を見渡せないかという狙いもあり、循環の象徴のひとつとして茅葺き屋根にする予定です。
茅葺きは日本の伝統的な建築の中でも木材と同様に大切な素材です。茅というのはススキからつくられることが多いのですが、ススキは屋根に使った後、畑の堆肥や畜産の飼料にリサイクルされます。自然と人間がつくる大きな循環のひとつにススキがあり、日本の里山のシステムの中でススキが占める割合は大きかったです。近年の研究で、ススキの伝統的な管理と利用は、農業の持続性や生物多様性保全の面からも再評価されていますので、こういったことを万博という場所でアピールしたいと思っています。万博は終了後のリサイクルも考えなければなりませんし、その象徴にもなると思います。
この茅に対して、地面で「レビア」を使います、伝統的な素材と新素材の融合で、それぞれリサイクルという特徴を持っています。昔から循環システムはありましたが、それが改めて見直されています。そこには伝統と未来があり、素材としても茅と「レビア」という伝統と未来があります。そういった意味でパビリオンにぴったりの素材が集まったと思います。


大阪・関西万博シグネチャーパビリオン「EARTH MART(テーマ:いのちをつむぐ)」外観イメージパース。屋根は茅葺き。外構は「レビアペイブ」が使用される予定(パビリオンの仕様は今後変更の可能性がある)。©EARTH MART / EXPO2025
──食というソフトと茅や「レビア」というハードが一体化したパビリオンということで、完成が楽しみです。最後に、これからの環境と建築の関係についてお聞きしたいと思います。
隈 20世紀が大きい建築や大量の消費をつくり出したのに対して、21世紀では、どこまでヒューマライゼーション、人間化した環境にできるかというのが大きなテーマになると思います。ただ、ヒューマライゼーションといっても、説教臭くしたくないと思っています。こういった仕様ではないと絶対使ってはダメとか、CO2を出したら絶対ダメというような説教臭いいい方では、かえって息が詰まってヒューマライゼーションではなくなってしまうので、楽しいことに結びつけるのが必要です。そのひとつに新しい技術やアイデアがあると思いますし、人間を明るくしてくれます。
「レビア」は、新しい技術ができたんだと思わせてくれる素材です。先ほど吉田さんからお話のあった廃木材と廃プラスチックを使った人工木デッキも新鮮でしたが、今回の「レビア」は手づくり感や個体差があって驚きと共にハッといわせるようなワクワク感があります。そういうものがないと、人間を元気にすることができないでしょう。
吉田 おっしゃるように、我慢して実現しなければいけないというのがサステナブルではないと思います。先ほども話したように日本の国民ひとり当たりのプラスチック廃棄量は世界で2番目ですし、減らしていかなければならないと思いますが、便利なものをゼロにするというのは現実的な話ではありません。どうやって再利用して、新しい形に生まれ変わらせることができるか、ということを考えることが重要で、「レビア」は、その考えに合った製品ではないかと思っています。現在は舗装材の「レビアペイブ」だけですが、今後は射出成形や3Dプリンターを使って用途を広げたいと思っています。
- 出典:OECD (2022) Global Plastics Outlook
- 出典:(一社)プラスチック循環利用協会
- 出典:Global Alliance for Buildings and Construction, “2021 GLOBAL STATUS REPORT FOR BUILDINGS AND CONSTRUCTION”
- エンボディード・カーボン(kg・CO2e):建築材料の採取、製造、輸送、建設、交換、および解体中に排出される温室効果ガス(GHG)と、使用後の排出を指すもので、建物の二酸化炭素排出量を理解するために使用される多くの指標のひとつ
- オペレーショナル・カーボン(kg・CO2e):照明、暖房、冷房に使用される毎日のエネルギーによって排出される温室効果ガス(GHG)を指す
- 出典:UNEP (2018) Single-Use Plastics
- 算出プロセスについては第三者機関認証取得済み
- リサイクルできる回数には限りがある