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ものづくりLAB
常滑市でフィールドワーク

~みんなのタイルアートプロジェクト・レポート~第2回「常滑市でフィールドワーク」

「みんなのタイルアートプロジェクト」では、みなさんから集まったタイルで、愛知県常滑市に「タイルアート」を創作します。つくってくれるのは、東京藝術大学大学院で建築の意匠に関して研究している中山研究室の学生さんたち。5月22、23日の2日間にわたって、素材となるタイルの実物を見るとともに、INAXライブミュージアムのスタッフの説明を聞きながら常滑の街を歩き、創作のインスピレーションを得たり、展示場所を検討したりするフィールドワークが実施されました。さて、どんなタイルアートができるのでしょうか?中山研究室の藤井さん、岩崎さんにお話を伺いました。

東京藝術大学大学院 中山研究室・藤井さん(左)、岩崎さん(右)
東京藝術大学大学院 中山研究室・藤井さん(左)、岩崎さん(右)

東京藝術大学大学院 中山研究室・藤井さん(左)、岩崎さん(右)

——まず、2日間にわたって常滑の街を歩いた感想を聞かせてください。

藤井さん:「常滑の街は不良品でできている」というお話がすごくおもしろかったです。常滑の街では道や擁壁に土管が使われていましたが、実はあれは不良品で良品は土管として地下に埋まっていて、日の目を浴びるものと浴びないものとが逆転しているそうなんです。通常、企業の製品は「均質であること」が求められますが、「不均質なもの」によって常滑の街並みは作られています。たとえば、ワインって年代によって味が違うけれど、私たちはその違いを楽しんでいますよね。そんな風に、常滑の街にはそれに似た「不均質なもの」を楽しむ心を感じました。

岩崎さん:不均質な土管が積まれている街並みに、観光客である僕たちも、いつの間にか馴染んでいるんですよね。僕はそこに、常滑の街の“おおらかさ”を感じました。街が“おおらかに”できていると僕たちも、おだやかな気持ちになれるのではないでしょうか。そこが常滑の街の大きな魅力だと思いました。

常滑市北条の「北条陶房」を見学。常滑焼伝統工芸士/常滑市無形文化財の清水源二(陶号:北條)さんの手により、土が見る見るうちに急須にかわる。胴の壁の薄さに驚く二人。
常滑市北条の「北条陶房」を見学。常滑焼伝統工芸士/常滑市無形文化財の清水源二(陶号:北條)さんの手により、土が見る見るうちに急須にかわる。胴の壁の薄さに驚く二人。
常滑市北条の「北条陶房」を見学。常滑焼伝統工芸士/常滑市無形文化財の清水源二(陶号:北條)さんの手により、土が見る見るうちに急須にかわる。胴の壁の薄さに驚く二人。
常滑市北条の「北条陶房」を見学。常滑焼伝統工芸士/常滑市無形文化財の清水源二(陶号:北條)さんの手により、土が見る見るうちに急須にかわる。胴の壁の薄さに驚く二人。

常滑市北条の「北条陶房」を見学。常滑焼伝統工芸士/常滑市無形文化財の清水源二(陶号:北條)さんの手により、土が見る見るうちに急須にかわる。胴の壁の薄さに驚く二人。

——みなさんから集まったタイルを実際に見て、いかがでしたか?

岩崎さん:「タイル」という名前でひとつに括られていますが、とにかくいろんなタイルがあって、本当に全部違うな、というのが最初の感想です。全部違うものを、ひとつの作品にするという難しさとおもしろさを感じました。

藤井さん:カタチなのか色なのか大きさなのか、何らかの分類をしないと作れないと思うのですが、どうするのかこれから考えていこうと思います。

岩崎さん:建築では、普通はプランニングから考えるんですが、今回は集まったタイルから何か考えようというその「順番」がおもしろいですよね。実は、常滑に来る前に考えていたアイディアもあったのですが、そのやり方はちょっと“常滑的”ではないんじゃないかと・・・。

常滑的
常滑的

——“常滑的”というのは?

岩崎さん:良い意味で場当たり的というか、ブリコラージュ(寄せ集めでやりくりして作ること)的というか。先ほど話に出た道や擁壁に埋め込まれたやきものは、もともと常滑の街を美しくしようという用途で作ったわけではなく、不良品や廃品や作りすぎたやきものを「建築材料」として“読み替えて”いますよね。これ余っちゃったけど捨てないで読み替えて使おうというところに、自由さや面白さを感じます。ですから、周到に準備されたものよりも、常滑の街や実際のタイルを見て素直に応当する、その感覚を大切にしたほうが“常滑的”なのかなと思いました。

創作のイメージ
創作のイメージ
創作のイメージ

——創作のイメージは、わいてきましたか?

岩崎さん:今回のフィールドワークで感じた、おおらかさや自由さといった“常滑性”を一つの手がかりにできたらいいなと思います。それから、僕たちは建築学科に所属しているので、そのタイルアートがあることで人の流れが変わるとか、設置された場所がちょっと違う風景になるとか、人の動きや場所の性質に寄与できるものを創作したいなと思います。

藤井さん:私はタイルのある空間っていいなあと思うのですが、「それって何がいいんだろう?」と、その良さをもう少し考えてみたいと思っています。「エモいよね(情緒あるよね)」などというようなコトバで済ませないでもう少し深く考えていくことが、手がかりになるような気がします。

意気込み
意気込み

——最後に、タイルアートを創作する“意気込み”をお聞かせください。

岩崎さん:僕たちは普段「タイル」と一口に言ってしまいますが、タイルというのは本当に色々で、全てのタイルは様々な点において違っています。今回、「タイル名称統一100周年(日本で「タイル」という名称に統一されてからちょうど100周年)」ということですが、「タイル」という名前がなかったら、まったく別々の素材で、いっしょに使われることもなかったかもしれない。そんな別々の場所にいた素材、別々の時間の中にいた素材が、「タイル」という名前のもとに一堂に集められ、一つの作品になることに、素直に感動します。このことは最後まで作品の重要な部分だと思います。

藤井さん:建築って、大抵は自分の人生より長く存在しているものだと思います。僕が生まれる前からどこかで使われてきたタイルがあって、そこに今僕たちが少し手を加えて、僕が死んだ後もずっと残っていくような、そういうものをつくりたいですし、単純にすごく嬉しいなと思います。

タイルアート
タイルアート

岩崎さん、藤井さん、ありがとうございました! おふたりは、不均質なものを楽しむ常滑のおおらかさやおだやかさに、本当に感動されていました。今回のタイルアートは、みなさんの家に眠っていた“不要になったタイル”を集めてつくります。色もカタチも年代もまったく異なる“不均質なタイル”でひとつのものを創作するということで、まさに常滑の精神に通じる創作活動だと感じられたようです。今回のタイルアートでは、常滑の街で感じた自由さやおおらかさを大切にしながら創作を進めていきたいと語っていらっしゃいました。

不要なものを”読み替えて”使い、それを楽しむ“自由さ”“おおらかさ”を持つ。それは、SDGsの精神にも通じる、いまの時代に必要なことではないでしょうか。“常滑的”とは、歴史的であると共に、実はとても現代的なことなのかもしれません。みなさまからお預かりした大切なタイルを新たにアート作品として蘇らせること。それは、使い終えたものを別の価値あるものに生まれ変わらせる「アップサイクル」の考え方に基づくものです。今回のプロジェクトがSDGs 12「つくる責任 つかう責任」への貢献と同時に、常滑の街に新たな価値を育んでゆくことを期待しています。

「みんなのタイルアートプロジェクト」は、いよいよ創作段階に入ります。どんなタイルアートが完成するか?楽しみです!

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