DTL INTERVIEWTokyo Saikai Showcase
設計:増田信吾+大坪克亘
採用タイル:フォグボーダー、スティックガラス
所在地:東京都世田谷区
タイルで区切る、照らす

東京西海株式会社は長崎県波佐見町にルーツをもち、波佐見焼を国内外に展開する陶磁器ブランドです。
これまでは環状八号線沿いのビルで運営していましたが、隣接する親会社所有の西海陶器ビルの1階にショールーム新設の話があがりました。
計画を重ねる中で構想は広がり、増築をふまえたショールームにとどまらない空間へと変化していきました。
既存開口部や外壁にはLIXILのDTLが印象的に配されています。設計の増田信吾氏に設計経緯やタイル採用の話を聞きました。



―設計の経緯は?
本物件は「コンセプトを立てて、ある強いイメージの空間をつくる」というよりは、必要な機能や要素を都度同時に考えながら、必ず生まれてしまうズレを淡々と調整していきました。なので、最後までクリアな全体像はわかりませんでした。
当初は既存建物へのショールーム設置が出発でしたが、既存オフィスの課題点や会社の希望なども同時に検討しました。課題点の一つはオンラインショップの在庫管理および搬出入作業の効率性。希望は既存のピロティ部分を屋外ワークスペースやイベントスペースとして活用し、会社として街へ参加したい、などでした。
最終的にはショールームに沿って、外との出入りが多い倉庫・作業場機能をピロティに挿入して増築するという構成になりました。

さらに増築部分は直角二等辺三角形にすることで、外構に同じ直角二等辺三角形と長方形の場をつくりだし、増築部分から余った隙間が外構とならないようにしています。外構には通路や誰もが使えるベンチやテーブルを設置するなど、会社が自然と街に開かれた場になるように設計しました。
ショールーム、倉庫・作業場が有機的につながり、街の風景に開かれるような動線や視線を意識しています。必ず出てくる要素や発生する課題に向かって組み立てては整える、を繰り返しながら作り上げていきました。


―空間が既存建物や街並みにとてもなじんでいる印象です。
既存外壁の赤レンガ、コーポレートカラーのブルーが特長的だったので、この2要素を活かしながらデザインにしました。
増築部分壁面には既存建物の赤レンガ外壁を取り込み、作業台や棚などは空間に合わせて設計し、色も赤レンガに呼応するようにブロンズやオレンジとしています。
作業台はあえて一度ブルーを下塗りしてから、ブロンズを重ねています。そうすることで、経年で塗装が剥げてきても、下塗りのブルーが出てきてなじむ、ということも考えながら設計しました。

商品とこの会社で働く人たちの空気感が、この場所に立ち現れれば良いと思ったので、インテリアやリノベーションのスタイルが強くなりすぎて、それが会社のイメージにならないようにしました。
ショールームは商品である波佐見焼がしっかりと際立つように、壁床天井をすべて黒にしました。実際は黒の中にブルーを微妙に混ぜることで、他の空間のブルーとのバランスをとっています。

照度も増築の作業場・倉庫部分よりは暗くしています。ショールームから作業場・倉庫を見た際に、働く人、植栽、街並みや光が連続して見えることを狙いました。
―開口部でのタイルの採用理由は?

タイル貼りをした大きな開口部は、昔は搬出入口だったようです。ショールームの来客者が倉庫・作業場へは立ち入りづらくするために、床に高低差をつけています。完全には遮断せず、段差によって、舞台が切り替わるようなイメージにしました。

そんな空間の切り分け部分としては、硬くてつやのある仕上げ材が思い浮かび、迷うことなくタイルに決めました。倉庫・作業場には既存外壁の赤レンガを内壁として生かしているので、それとのなじみもいいなと思いました。

―タイルの選定やディティールは?
既存開口部のタイルは色味から意識しました。倉庫・作業場の床や天井のブルー、ショールームの黒、というところからタイルはブルー系、目地は黒にと着想しました。LIXILのフォグボーダーのブルーがイメージに合い選びました。フォグボーダーは細長いボーダーでユニットごとの施工になります。そのユニット性が空間の表情になるように、あえてユニットジョイント部分は通常の目地部分より太くしました。きれいに目地部分を整え過ぎない、均一さを求めない方が、タイルの素材としてのパワーや魅力が生きると思いました。

ディティールはシンプルに、小口を見せるようにしています。タイルの厚みを見せることで、一個一個のモノとしてのタイルがより印象的になります。質感だけではなく、一個一個焼かれているモノが空間にあるとただの空間ではなく、モノに囲まれて生まれる空間になり、「部屋」ではなく、「場」として耐えられる強度が生まれるという感覚があります。結果、タイルによって空間のブロックとしての切り替えがうまく表現できました。


―外壁でのタイルの採用理由は?
外壁タイルは増築部分の大型のルーバー的な箱型壁で採用しました。箱型壁は環八側から室内が見えすぎないように機能しつつ、タイル壁面と照明を組み合わせることで、ガラスの反射を抑えながら室内を照らす役割も担っています。



室内に照明があると、ガラスで囲まれた空間は夜、反射で外の景色が見づらくなります。中にいる自分が外を感じられない、その窮屈さを解消するために外壁に照明をつけています。外から室内外を同時に照らすことで、ガラスの透明性や空間の広がりを確保しています。
そして、タイルの反射やつやを一つの照明として考えたいと思いました。タイル壁面ではなく、タイル照明としてとらえられるようなモノっぽさを追求しました。
LIXILのスティックガラスは最初、単体で見た時には一つ一つは細長く、存在感が少ないが、塊になると装飾的すぎるのでは、という印象がありました。
ただ、目地をブルーにし、照明の光をあてることで、透明感やほどよい反射が生まれてきたので、イメージに近い深みのある表情を出すことができました。


―タイルの良さとは?
タイルには他の建材にはない強い「モノ」性があると思っています。テクスチャーがあり、重さがあり、色むらがある。その特長を凝視して、設計に生かすということを毎回考えています。一方で工夫をしないとただの高級品になってしまうリスクもあります。僕たちはよく「ここは重要だからポイントとしてタイルを使おう」「ただし、単に敷き詰めるのではなく、タイルの空間の中でもう一度設計をしよう」ということを話しています。モノとしてのタイルが持つ存在感を今後もうまく生かしたいと思います。
