開発者の声 100年輝く。革命的な陶器が、トイレの歴史を変える。

    衛生陶器 AQUA CERAMIC

    トイレ・洗面事業部 衛陶開発部 衛陶商品開発グループ チームリーダー 谷口慎介、R&D本部 マテリアルサイエンス研究所 金属・表面改質研究室 表面改質研究チーム 奥村承士 ※所属は取材時のもの

    ジレンマへの挑戦。逆転の発想による画期的な発明

    「おーっ、すごいな!」

    2015年4月。衛生陶器の商品開発グループでチームリーダーを務める谷口慎介は、LIXILのマテリアルサイエンス研究所の研究員・奥村承士が開発した“新素材”を見て、思わず声を上げた。

    そもそも、衛生陶器がトイレに使われるのは、「水になじみやすい(親水性)ので、汚物が付きにくい」といった理由がある。
    しかし、「親水性」であるが故に水アカが付いてしまうという欠点もあった。水アカ自体は無色透明だが、表面が凸凹なので、そこに汚れがこびりついて黒ずんで見えてしまう。また、一旦水アカが付いてしまうとブラシでゴシゴシこすっても落ちない。
    この水アカに対し、これまで同社のトイレは、プロガードという技術で対応していた。このプロガードは、陶器の表面を親水性とは逆の「撥水性」(水を弾く性質)にすることで水アカを付きにくくしていたが、陶器の「親水性なので汚れが付きにくい」という本来の良さは犠牲にしていた。
    しかし、奥村が開発した『アクアセラミック』は、そうしたジレンマ、つまり“「親水性」をさらに高めながら水アカ固着も防ぐことができる”という画期的なものであった。

    この世界初の新素材『アクアセラミック』の開発がスタートしたのは、プロガードが発売されてから実に15年後、谷口が驚愕の声をあげる、およそ1年半前のことであった──。

    唯一の弱点を克服せよ

    「うーん……」

    2013年の夏。
    陶器や樹脂製品の表面部分の改善を職務としている奥村承士は、自社のトイレを見ながら思わず唸った。

    「親水性を維持しながら、水アカも防げ、か……」

    数日前、奥村は上司から新しい研究開発への参加を告げられていた。
    親水性を維持し、「汚物汚れ」を防ぎながら、「水アカ汚れ」も防ぎ、「キズ汚れ」にも、「細菌汚れ」も同時に防ぐ新素材の開発。
    この、“トイレの4大汚れ”を同時に防ぐ素材の開発は、LIXILの研究員にとっては長年の課題、いや“夢”であった。

    1997年にプロジェクトチームが発足。
    部署の垣根を越え、全社一丸となって取り組んできたが、当時の技術では「水アカ汚れ」を防ぐには撥水性の素材を用いるしかなく、「汚物汚れ」と「水アカ汚れ」を同時に防ぐ完璧な対策は見出せなかった。もはや、これまでとは違った発想が求められていた。

    そこで白羽の矢が当たったのが奥村だ。
    奥村は当時、撥水性とは逆の「超親水性」という技術を研究していた。
    「超親水性」とは、陶器に水となじみやすい性質を持たせることで、付着した汚れを底から浮かび上がらせ、洗い流す技術だ。

    超親水性の素材で水アカを防げ

    奥村がまず取り組んだのは、今まで、何度となくトライして実現できなかった「親水性」の素材で水アカの固着を防ぐこと。

    そもそも、水アカが陶器に固着するのは、陶器の表面に出ている水酸基(-OH)に水道水中の水溶性シリカ(ケイ酸)が化学的に結合してしまうため。既存の「プロガード」は、この水酸基が陶器表面に出ないよう、撥水性の素材で覆っていた。
    「親水性」の素材で水アカの固着を防ぐ──言葉で書くと至極簡単に見えるが、宿命的に親水性の素材は表面に水酸基が出る。これを克服し、製品として世に送り出すためには、特殊な「親水性素材」を探す必要があった。
    特殊な素材を一から探し始めるのには膨大な時間が必要だが、同社には様々な素材を試行錯誤した経験、つまり長年培った先人達の財産があり、奥村はそれを活かすことができた。

    そして、いよいよ、試作品を作り、モニタリングしてみることにした。

    超親水性の素材で水アカを防げ

    奥村がまず取り組んだのは、今まで、何度となくトライして実現できなかった「親水性」の素材で水アカの固着を防ぐこと。

    そもそも、水アカが陶器に固着するのは、陶器の表面に出ている水酸基(-OH)に水道水中の水溶性シリカ(ケイ酸)が化学的に結合してしまうため。既存の「プロガード」は、この水酸基が陶器表面に出ないよう、撥水性の素材で覆っていた。
    「親水性」の素材で水アカの固着を防ぐ──言葉で書くと至極簡単に

    見えるが、宿命的に親水性の素材は表面に水酸基が出る。これを克服し、製品として世に送り出すためには、特殊な「親水性素材」を探す必要があった。
    特殊な素材を一から探し始めるのには膨大な時間が必要だが、同社には様々な素材を試行錯誤した経験、つまり長年培った先人達の財産があり、奥村はそれを活かすことができた。

    そして、いよいよ、試作品を作り、モニタリングしてみることにした。

    1000回のモニタリング

    モニタリングした数はなんと、1000回以上。

    従来技術を使った便器に比べ、汚物のこびりつきは半数以下という結果がでたのである。
    理想は0%だが、超親水性に汚物汚れを防ぐ力があることは立証できた。
    もちろん、水アカも固着しない。

    しかし実用化には課題があった。

    「最初は特殊素材をコーティングする方法を考えていたんですが、それだと塗る手間などでコストが10倍以上かかってしまう。また陶器の質感や耐久性も失われる。何らかの方法で陶器と“なじませる”必要があった」

    では、どうすればいいのか?
    ふと浮かんだのは、自身が入社当初に関わっていた、ある“技術”だった。

    活きた既存の技術

    奥村は入社当初、レーシングカーのボディにも使われる素材「FRP」(繊維強化プラスチック)の配合・成型技術の研究に携わっていた。この技術を活用すれば、「汚物汚れ」を防ぐ超親水性の特殊素材を陶器表面になじませ、陶器に一体化させることができるのではないかと考えたのだ。

    果たしてその狙いは的中。
    しっかりと「汚物汚れ」を防いだ上、水アカの固着も防止。更には、後からコーティングする手間が省けるため、コストがそれまでの10倍から2倍にまで激減。また、耐久性も飛躍的にアップした。

    さらに細かい改善を繰り返し、技術的な“OK”が出たのは2015年の3月。

    「なんとか、合格点をもらえました」

    そこから先は、商品開発を担当する谷口に委ねられた。
    しかし、思わぬトラブルが沸き起こる。

    7万品番相当の製品を一気に変更

    奥村の「発明」に、“おおーっ”と驚いた谷口。

    「これはすごい技術だ」と素直に感服した。

    しかし、“すごい”からこそ起きた予想外の問題があった。

    それは、“水の勢いが良くなりすぎてしまう”こと。

    LIXILのトイレは、少ない水で汚物を効率的に流すため、水の流れ方をミリ単位で設計していた。そのため、超親水になったことで水の流れが良くなりすぎ、勢いで洗浄水が外に飛び出してしまうトラブルが続出したのだ。

    「水の流れを修正する“チューニング”が全商品で必要だ」

    全商品とは、品番でいうと7万点以上。とてもそんな時間的余裕はない。

    「まずは“新商品から順番に”という考え方も当然あったのですが、“一気にやらなければ意味がない”と営業側の担当者は頑として譲らない。確かにその方がインパクトがあるし、ラインナップに一本軸もできる……」

    谷口は決断した。
    「すべてやろう。」
    営業側もこの新素材にかけていることがわかっていたからだ。

    そして、1997年にプロジェクトがスタートしてから約20年。ついに衛生陶器の常識を覆す『アクアセラミック』が、世に送りだされたのである。

    より多くのお客様に知っていただくために

    『アクアセラミック』は、まさに画期的な商品だった。
    しかし、それをわかりやすく伝えなければ“絵に描いたモチ”。

    「より多くのお客様に知ってもらい、一人でも多くの人に使ってもらいたい」

    谷口、奥村は商品開発だけに留まらず、その良さを伝えるためのプロモーション手法も追求した。そこで作り上げた“インパクト”のあるデモンストレーションと、“100年クリーン”というキーワード。『アクアセラミック』はたちまち巷の話題となった。

    お客様の反響を聞いて二人は、

    「初めて自分が中心となった商品開発で、正直プレッシャーもあったけど、他社にはない、自信を持ってお客様に使っていただける商品になった」(奥村)

    「4つの汚れすべてに対応する商品は、自分たちの長年の夢。“汚れをなんとかして!”というお客様の願いにも応えられる」(谷口)

    と、そろって胸を張った。

    当たり前の贅沢を作れる喜び

    2016年4月。
    様々な苦難を乗り越え、世に送り出された『アクアセラミック』。現在、“あらゆる汚れに強い”トイレとして、注目を集めている。

    しかし、奥村と谷口が目指すのは、便器の内側だけでなく、外側や空間全体も“汚れない”トイレの開発。
    それはあまりに“贅沢”なことかもしれない。

    しかし──

    「そうした贅沢さが当たり前に存在していることが、よりよい暮らしの証拠。そうした“当たり前の贅沢”を作れる機会は、そう多くない」(奥村)

    「トイレ掃除の時間や回数が減れば、その分を趣味の時間、休息の時間、家族と一緒に過ごす時間に使って、大勢の人がハッピーになれる」(谷口)

    彼らは単にトイレを作っているのではない。
    “幸せな暮らし”を作っているのだ。

    谷口にとってものづくりとは……

    「ずばり“チームワーク”。今回も、研究、開発、工場、それぞれのメンバーが一致団結してできた。自分一人ではできない」

    奥村にとってものづくりとは……

    「仕事であり、楽しみであり、苦しみであり……でもそれを乗り越えた時の嬉しさこそが醍醐味」

    キレイがつづくトイレINAX

    知っておきたいトイレ製品誕生ストーリー

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