キッチン会議

キッチンの前には座らない立って集うというキッチンのかたち(後編)

PUDDLE Inc. 加藤 匡毅・加藤 奈香さん

取材 | 2016.5.24

「キッチン会議」では自分らしいキッチンを見つけ出すためのヒントを、
みなさんと真面目に、時には頭をやわらかくして話し合っていきたいと思います。
毎回コラムで話題を提供したり、建築家や専門家の意見を紹介したり、
アンケートを通してみなさんの暮らしぶりや考えをうかがったり。
さまざまな視点でキッチンを見つめながら、「キッチンの答え」を一緒に考えていきましょう。

キッチンにこだわる

取材のために伺った加藤さんの事務所ですが、以前に自宅としてリノベーションした場所とのことで、入るとすぐに大きなキッチンが出迎えてくれました。人をもてなすことが大好きな加藤夫妻は、多い時には50人以上もの友人たちがこの場所に訪れていたそうです。今は自宅ではなく事務所として使っているそうですが、キッチンはそのままにし、仕事場でもキッチンが中心となっているよう。二人にとってキッチンは夫婦だけでなく仲間やクライアントとコミュニケーションをする大事な場所のようです。加藤さんは「キッチンは家の中で何かを創造する唯一の場所、キッチンが豊かだと創造的になれる」とも言っています。

この建物は古いクリーニング屋さんをリノベーションしようとしたクライアントが、設計者として加藤さんに依頼したものでした。しかし途中でオフィスとして入居予定の人が辞退したため、加藤さんが自分たちの新居とすることにしたそうです。そこに置かれるキッチンは賃貸だったのであまり作り込まず、ひとつの家具として考えたとそうです。後ろから見える透けた素材は、電子レンジと炊飯器を格納した時に熱を逃がすために考えたパンチングメタルです。機能がそのままデザインになっています。このカウンターの高さを考えるのに検証したことが先の城崎邸のキッチンにもつながったと語っていました。

キッチンの周りに立ってコミュニケーションをする

加藤さんの事務所には、とにかくたくさんの人が訪れるそうです。910ミリメートルというカウンターの高さは、人が立ったまま自然に会話をするのに快適な高さだそうです。加藤さんは、食事の時間は準備する時間も後片付けする時間も合わせて「食事の時間」だと言います。準備をしながら、飲みながら、話しながら、片付けながら、そういった時間を何よりも大切にしたい、そう思った時、キッチンは家の中で一番気持ちのいい場所に置きたいと考えたそうです。ここでも城崎邸と同じように2つのダイニングがあります。ひとつはキッチンの前のダイニング、そしてもうひとつは屋外のテラスダイニング。ダイニングは食事をする場所だけではなく、仕事をしたり、打ち合わせをしたり、そしてキッチンでもパソコンを広げて仕事をすることもあるといいます。「ひとつの場所やものが様々な機能を持ち、様々な顔を持つことが暮らしの豊かさにつながる。モノも大切なものだけを厳選してミニマムかつ十分なもの選びに、そしてひとつの道具が様々な用途に使えるようにと日頃から考えている」そうで、整然と置かれているひとつひとつのモノは、深い愛着があるものばかりだと言います。このキッチンは幅が2900ミリメートル、奥行きが800ミリメートルですが、実際はもっと大きくも見えます。料理を作っている時は、プレゼンの舞台に立つようでもあり、それでも孤立することなく、みんなとの会話に入りながらおもてなしをすること、そして知らないうちに訪れた人も一緒に料理に参加できるのがこのキッチンの魅力だそうです。

オープンキッチン、仕切らないということ

商業空間、特に飲食の空間を手がけることが多い加藤さんは、それらの経験から、昔は飲食店の厨房は奥にあり、出来上がったものをサーブするという形から、料理する人の姿も見えてくるようになっているのが時代の流れだと語ります。単にショーと見せるというのでなく、料理をしている人が気持ちのいい場所で気持ち良く料理を作り、そして食べる人とのコミュニケーションできることがおいしい料理や良いサービスにつながると考えています。
若い時から旅好きで、そして都会の限られたスペースでの生活を考えた時、少ないもので身軽に、オープンにという考え方に行き着いたそうです。キッチンだけではなく空間をつなげながら、あえて仕切りのない空間の中で、いかに居心地のいい空間をつくっていくのか、そして人と人のコミュニケーションを生み出す空間をつくることに加藤さんのデザインの妙味がありそうです。
下の写真は加藤さんが手掛けたコーヒーブランド、京都嵐山のARABICAの写真です。ここでもバリスタが美しい自然をお客様と一緒に楽しみ、そしてコーヒーを淹れる時間でありながら、一緒に会話をできるようにと考えたのだそうです。今このARABICAは日本のみならず、世界へと広がり、中東のクゥエート、ドバイ、香港と広がり、PUDDLEがそれぞれのお店のデザインを手がけているそうです。

いかがでしょうか。今回の加藤さんが設計されたキッチンとその考え方。たしかにモノをたくさん持つことの豊かさとは違った意味で、より少ないモノで暮らしを楽しむこと、そして仕切らないことでコミュニケーションの機会を自然につくること。キッチンを、暮らしの最も居心地の良い場所に置くということ。設計者としても、自分たちの暮らし方としても、一貫した姿勢を伺ったような気がしました。

PUDDLE Inc.
Architect / Designer 加藤 匡毅
一級建築士
工学院大学建築学科卒業後、隈研吾建築都市設計事務所、IDÉE、GEOGRAPH共同設立。2012年3月PUDDLE Inc.設立。
受賞歴:「宇宙エレベーター デザインコンペ」最優秀賞・特別賞受賞。博報堂ケトルオフィス:グッドデザイン賞受賞。LIXIL主催「“キッチンで暮らす”施工事例コンテスト」金賞受賞。

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