キッチン会議

キッチンは「料理をつくる」から「コミュニケーションの道具」へ。

ondesign & Partners 西田司さん

取材 | 2016.7.5

「キッチン会議」では自分らしいキッチンを見つけ出すためのヒントを、
みなさんと真面目に、時には頭をやわらかくして話し合っていきたいと思います。
毎回コラムで話題を提供したり、建築家や専門家の意見を紹介したり、
アンケートを通してみなさんの暮らしぶりや考えをうかがったり。
さまざまな視点でキッチンを見つめながら、「キッチンの答え」を一緒に考えていきましょう。

横浜アパートメント
所在地 神奈川県横浜市
竣工年月 2009年6月
担当 西田司+中川エリカ
撮影 鳥村鋼一

取材は西田さんを一躍有名にさせた横浜アパートメントの話から始まりました。このキッチンは6人の住人が使う共同のキッチンですが、同時に地域の人々にも開放されています。と言っても見ず知らずの人が来るわけではなく、住人が企画するアートイベントや地域の人との交流を目的とした場所として塀もなくだれでも入れるのです。この場所の象徴がキッチン。人々が一緒に集まり、一緒に食べる。その時間を演出するのがキッチンです。それはキッチンが料理をつくる機能としての意味以上に、人との関係性を表現するコミュニケーションツールになっているのです。メニューもそこに置かれている道具や食材もあらゆるものが話のきっかけを作り出す道具として使われ始めます。
その後この作品は、地域再生手法の成功例として多くの人の目にとまるようになります。西田さんにとってキッチンはとても重要な建築を構成する要素になっているようです。この横浜アパートメントのような集合住宅だけでなく、戸建ての住宅でも「キッチンをコミュニケーションの道具」として同じようなことを考えるそうです。

人が集まる家

下の写真をごらんください。クライアントは御夫婦2人お子さんはいません。ともに人を呼ぶことも好きな方々だそうです。

所在地 神奈川県鎌倉市
竣工年月 2014.07
設計 西田司+海野太一+一色ヒロタカ
撮影 鳥村鋼一

キッチンはリビングとダイニングの間にあり、そこが暮らしの中心となっているといいます。置いてあるものは特に料理に限らず、自分のお気に入りのものを置き、そこが自分を表現する場所でもあるのだそうです。キッチンは主婦の場所、料理をつくる場所だったのが、今は家族の、そして友人たちとのコミュニケーションの場所へと変化しています。それは空間と機能が単純にかさならなくなってきたことをも意味します。寝る場所、食べる場所、本を読む場所というように場所ごとに意味をもたせるというより、様々な場所で様々な営みがその時々の状況によって行われると考えた方が自然なのかもしれません。ダイニングで仕事をすることもあるでしょうし、リビングでご飯を食べることもあるでしょう。それらの中心になるのがキッチンです。なぜなら食べる、飲むといったコミュニケーションには欠かせないことですし、料理をするという、とても創造的な行為や、一緒に作るということでさらにコミュニケーションを活発にさせてくれるからです。その中心となる場所に自分を表現する場としてお気に入りの物やこだわりの物を置いておくというのもわかる気がします。

料理研究家の家

次の写真のクライアントは料理研究家で、本格的キッチンスタジオです。壁際にガスコンロとシンクを配置しています。真剣に料理をする場合そちらで行い、オープンキッチン側にもあるIHとシンクではできた料理を温めながら家族と一緒に過ごしたり、人が訪れた時は、パーティーシンクとして使われるといいます。意識的に人と関わっていこうという姿勢を感じます。料理をしている間もキッチンの前で子供が遊び、吹き抜けの上階からも常にキッチンにいる本人とコミュニケーションができるようになっていて、家の中心にキッチンが置かれ、暮らしの中心に料理があるのです。

所在地 東京都世田谷区
竣工年月 2015.6
設計 西田司+神永侑子
撮影 鳥村鋼一

最後に紹介するプロジェクトは、隠岐の島のプロジェクト「隠岐の国学習センター」。古い民家をリノベーションし、みんなで使える大きなキッチンも設置しています。この村は全国でも有数な過疎化の村です。高齢化、少子化、経済の衰退など日本の地方の典型的な社会課題がここにもあります。この場所に都会から何ヶ月か学生たちが島留学と称して研究に訪れて、その課題について研究すること、実態を体験しながら考えることを目的として作られたそうです。この学習センターで重要なのがやはりキッチン。留学生たちの食事を村のお母さん達が交代でつくり、みんなで食べながらこの村のことについて意見を交換するのです。料理も大切ですがそれ以上にコミュニケーションの道具にキッチンはなるのです。おいしいものは人と人の距離を縮めます。子供たちは愛情のこもったお母さんたちの料理や豊かな食材を体で味わいながらこの村の未来を、また日本の未来にとって何が大切かを語り合うというのです。

キッチンがコミュニケーションの道具であるということ。みなさんは、どのように思いますか。あらためて自分の家のキッチンを考えてみてはどうでしょうか。そこにはどんなものが置かれ、どんな会話がされているでしょうか。

隠岐の国学習センター 所在地 島根県隠岐郡海士町
竣工年月 2015.03
設計 西田司+萬玉直子
撮影 鳥村鋼一

ondesign & Partners
西田司
1976年 神奈川県生まれ
1999年 横浜国立大学卒業
2002年 東京都立大大学院助手(-07 年)
2004年 オンデザインパートナーズ設立

受賞歴 
2016年 イタリアベニス建築ビエンナーレにて日本パビリン「EN」に若手6人の建築家の一人として選ばれ横浜アパートメントを展示、日本チームは特別審査員賞を受賞。
以下主な受賞歴
2014年 神奈川建築コンクール優秀賞
2014年 SDレビュー2014入選
2014年 グッドデザイン賞 SEA DAYS
2013年 横浜・人・まち・デザイン賞 ヨコハマアパートメント
2013年 東京建築士会 住宅建築賞 FIKA
2012年 グッドデザイン 復興デザイン賞 ishinomaki2.0 石巻voice
2012年 JIA新人賞 ヨコハマアパートメント
2012年 住まいの環境デザイン・アワード 住空間デザイン優秀賞 ヨコハマアパートメント
2011年 日事連建築賞 小規模建築部門 優秀賞 ヨコハマアパートメント
2011年 JCDデザインアワード 銀賞 六本木農園FARM
2008年 グッドデザイン賞 ムシェット夏の家
2007年 SDレビュー2007入選 GREEN DESTINATION
2006年 グッドデザイン賞 伊豆アネックス
2005年 神奈川建築コンクール2005優秀賞 カレイドスコープハウス
2004年 ForestMore2004優秀賞 辻堂の家
2004年 街並み100選 西田邸
2003年 東京建築士会住宅賞 茅ヶ崎の家
2002年 日本建築学会作品選集 葉山の別荘

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