キッチン会議

デザインの環境をデザインする作り手の人と一緒に取り組む「ものづくり」

家具デザイナー小泉誠さん取材を通して

取材 | 2017.2.14

「キッチン会議」では自分らしいキッチンを見つけ出すためのヒントを、
みなさんと真面目に、時には頭をやわらかくして話し合っていきたいと思います。
毎回コラムで話題を提供したり、建築家や専門家の意見を紹介したり、
アンケートを通してみなさんの暮らしぶりや考えをうかがったり。
さまざまな視点でキッチンを見つめながら、「キッチンの答え」を一緒に考えていきましょう。

今回は家具デザイナー小泉誠さんにお話を伺いました。小泉さんは家具デザイナーですが、食器や椅子といったプロダクトのみならず家の設計までも行っています。独立した当初からも家もつくりたいと考えていたそうです。元来日本の家は、しつらえが家と一体になっているもので、家と家具とは切り離せて考えられないというのです。

photo : Nacása & Partners Inc.

2014 士気の家 千葉県千葉市

photo : toshihide kajiwara

2006 国立の家 東京都国立市

photo : murazumi soichi

2003年 9坪ハウス 滋賀県甲賀

小泉さん設計の住宅:隅々まで丁寧に作られていて、家具も家も同じ密度で設計されている様子がうかがえます。

小泉さんは、プロダクトは道具であると話されます。椅子は座るための道具ですし、テーブルは本を読んだり、書き物をしたり、そして食事をするための道具です。またそれらをつつむ家も暮らしのための器という道具です。小泉さんは若い頃、学童椅子(昔の小学校にあった木製の椅子)に惹かれていきました。それは堅牢で無駄のない、そして使い続けられたその形は日本人にとって椅子の原型を見るようなものだと。その後、古道具にも惹かれていったともいいます。単に形が美しいというのでなく、どうしてこんな形になっているのかという疑問に答えてくれる「理」(ことわり)があるというのです。小泉さんは著書(*1)の中で日本のデザインは「足し算のデザイン」だと。多くの人が日本の美意識をミニマルで「引き算のデザイン」と言いますが、反対に「足し算のデザイン」だととらえたほうがいいというのです。そのことを「うどん」を例えに説明しています。それぞれの要素を極めていくこと、さらにそれを納得のいく組み合わせにすること、究極の出汁と麺が組み合わさって、最高の「素うどん」が生まれる。さらにそこに具が組み合わされ「○○うどん」という料理になるのです。全体像から削ぎ落としていくのでなく、それぞれの素材から何ができるかを考えていく、その結果が形になる、つまり足し算なのだと言うのです。

(*)著書 地味のあるデザイン-日本の家具に導かれて 2015年 六耀社

キッチンについて

キッチンは料理をするための道具です。キッチンについての考えを聞いてみました。小泉さんのつくる家はあまり大きな家はなく、面積が小さいこともあってキッチンはダイニングやリビングと一体になってオープンになっているものが多いようです。上の写真は3年ほど前、徳島の家具屋さんの店主の自宅についての図面です。これは古い自宅のリノベーションで、写真中央の図面のようにキッチンを真中に置いています。特にオープンキッチンを意識したのでなく、間取りやキッチンの位置やかたちもクライアントと相談していくなかで自然と決まっていくものだと言います。このキッチンは厚み60ミリの栃を天板、側板に使っています。一般にはあまり木製のトップは使われませんが、木のことを知り尽くしているクライアントで「木の天板にしたい!」という意向を受けて木になりました。家もキッチンも万能なひとつの形はありません。クライアントごとに違うはずですし、押しつけることもしません。クライアントを良く理解することで、暮らしぶりなどを想定して作り上げていくのです。収納は家具や大工工事で製作しますが、気をつけるのは、どこかに逃げ場(余裕)をつくること。このキッチンであれば何も置かずに、あとからカゴやゴミ箱を自由における空きスペースを作っています。すべてを作り込まずに、ちょうど良いバランスを想定して、ある部分は空きを作っておくことが大事なようです。そして収納を計画するときには、持ち物を書き出してもらうようなことをしなくても、仕事を進めるうちにクライアントの持ち物の量が想像できるそうです。そして多少誤差がでてもクライアントがうまく使いこなしてくれることを見込んで作っているのです。このクライアントの娘さんは、オープンキッチンは「絶対に嫌だ」と言っていたそうですが、きっとうまく使ってくれると思って作ったそうです。その想像通り実際出来上がったら娘さんもとても楽しんで使いこなしてくれているそうです。大事にしている、「話し合うこと」や「押し付けないこと」、しかしそれは単に言うことを聞くということではなさそうです。

クライアントへのはじめの説明

小泉さんは家をつくるときには、まずクライアントに建築家も施工者も、完璧ではないということを話します。完璧ではないがしかし一生懸命努力をすること、それはクライアントも同じこと、どこかで許しあえる関係をもつこと、そして話し合えること、それが仕事をよいものにしていくということを説明されるそうです。キッチンの話に戻りますが、オープンキッチンには、いつも綺麗にしていなくてはならないというデメリットもあります。そうしたことも良く相手を見て考えるといいます。でも考え抜いていくことで、どこか腑に落ちるところに到達するにちがいありません。

家具デザイナーとして考えること
家具デザイナーは生活道具をデザインすることなのですが、そのこと以上に家具をつくる環境をデザインすることに興味があるといいます。こだわるのは作り手です。つくる人と一緒に考え、その人たちが誇りを持ってその仕事ができる環境を考えること。そういう仕事には命が宿り、そして使う人にもその気持ちが伝わっていくのだと。「ものをつくるデザイナーがものをつくることをゴールにおいていない」という言葉がとても新鮮です。たしかにこの数十年、我々の歩んできた近代化のプロセスは合理化を命題にし、手仕事の作り手を軽視してものを供給してきた歴史があるかもしれません。製作におけるあらゆるプロセスを分断して機械化してきた時代です。しかし再び作り手とデザイナー、そして使い手も含め、分断から統合へと進むことが必要なのかもしれません。その3者が価値観を共有していくのです。そして作り手に誇りをもってもらうことが必要だと言います。

全国の工務店の人たちとの取り組み:大工の手による家具作り
出典:http://wazawaza.or.jp/

今回の取材はこいずみ道具店という看板のかかったお店の二階の事務所で行いました。彼の生み出した生活道具を見ながら、そしてそれを生み出している背景を伺いながら、さらにそれを考え抜くための場所を垣間見ながら話を伺いました。時間をかけて丁寧に、そして自然体で取り組んでいる様子が印象的でした。改めて誰とどう作っていくのか、そのことをもう一度考える時期にきたのかもしれないと感じた取材でした。

事務所の中にあるキッチン、コンロの上には小泉さんの道具が実際に使われている。

以下に小泉さんのホームページを記載しておきます。
こいずみ道具店ホームページ
http://www.koizumi-studio.jp/?douguten

プロフィール
小泉誠(こいずみまこと)
家具デザイナー

1960 東京生まれ
1990 Koizumi Studio設立
2005- 武蔵野美術大学空間演出デザイン学科教授
2007- 日本デザインコミッティメンバー

著書
2003 こいずみ道具店 開設
「デザインの素」出版
2005 「と/to」出版
2015 「地味のあるデザイン」出版

受賞
2015  日本クラフト展大賞(mageita stool)
2012  2012毎日デザイン賞
JCDデザインアワード 金賞(こいずみ道具店)
2009  JCDデザインアワード 銀賞(VEGA)
2007  JCDデザインアワード 銀賞(SAYA)
2006  JCDデザインアワード 金賞(tocoro cafe)
他多数

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