キッチン会議

キッチンは家族のかたちの象徴キッチンを通して夫婦の役割が見えてくる

成瀬・猪熊建築事務所

取材 | 2016.2.9

「キッチン会議」では自分らしいキッチンを見つけ出すためのヒントを、
みなさんと真面目に、時には頭をやわらかくして話し合っていきたいと思います。
毎回コラムで話題を提供したり、建築家や専門家の意見を紹介したり、
アンケートを通してみなさんの暮らしぶりや考えをうかがったり。
さまざまな視点でキッチンを見つめながら、「キッチンの答え」を一緒に考えていきましょう。

今回は建築家成瀬・猪熊設計事務所の代表の成瀬友梨さんと猪熊純さんにお話をうかがいました。

キッチンは家族のかたちを象徴し、時代の価値観を反映しています。かつては、キッチンは食事の場からは見えないところにあって、料理をして家族や来客をサーブする妻のための場所というイメージがありました。戦後、団地では「ダイニングキッチン」の間取りが開発されて一時的に壁付けのキッチンが多くなりましたが、その後クローズドキッチン(独立した部屋)、セミオープンキッチン(シンクの前が一部あいている)、オープンキッチン(壁がなく他の部屋に開けている)へと進化していきました。今ではマンションのモデルルームや住宅広告ではオープンキッチンが主流となりつつあります。

しかし、近年では夫婦共働きの世帯や料理をする男性も増え、友達を招いてのホームパーティーをする場合も見すえて、考え方も変わってきました。キッチンのかたちはより開かれたものへと進み、オープンキッチンも多くの家で使われるようになってきています。

しかし、成瀬さんと猪熊さんは「オープンキッチンでは、サーブをするホストとゲストの関係ができてしまう」といいます。そこで、ホストとゲストの関係がよりフラットになる壁付けキッチンを見直してはどうかというのがお二人の意見です。壁付けキッチンの良いところは、出入りが自由なことです。料理をしたい人、座ってお酒を楽しみたい人、後片付けをする人など、だれもがさっと思い立った時にキッチンの前に立つことができ、テーブルにつくこともできます。そこではホストもゲストも同じように振る舞うことができます。このことを猪熊さんは「フラット化するキッチン」と呼んでいます。

成瀬・猪熊建築事務所で手がけた壁付けキッチンのある2つの家を見せてもらいました。
下の写真のA邸は、長さ6mのカウンターの下に冷蔵庫、電化製品、大容量の収納を設けて、ダイニング側からの視線も意識しています。レンジはIHとガスのレンジを並べた本格的なキッチンとなっています。友人が来ると、だれもが自由にキッチンに立ち、それぞれが自分の得意料理をしたり、片付けをしたりしながら料理と食事を楽しんでいるそうです。

下の写真のB邸は独立した住宅で、キッチンの手前には長さ2.6メートルの大きなダイニングテーブルがあり、家族の中心の場所になっているそうです。

お客様のもてなしは料理好きの夫が担当する

キッチンはカウンターの長さが3.5mで、料理は夫が担当します。シャイな人柄の彼は後ろに人の気配を感じながらも、壁に向かって料理をしたいのだといいます。引き渡し時にはカウンターだけだったキッチンには、一週間を経ないうちにご夫婦の手で鍋や道具類がぴったり収まる棚がつくられていました。
この2つのキッチンは、たしかにオープンキッチンが多くなりつつある時代の中で、もう一度「キッチンと家族」や「キッチンと来客」の関係を考えるよい機会となりました。

成瀬友梨(なるせ ゆり)
1979年愛知県生まれ。一級建築士/成瀬・猪熊建築設計事務所共同代表/東京大学助教。東京大学大学院博士課程単位取得退学後、05年に成瀬友梨建築設計事務所を設立。07年に成瀬・猪熊建築設計事務所を設立。10年から東京大学助教。

猪熊純(いのくま じゅん)
1977年神奈川県生まれ。一級建築士/成瀬・猪熊建築設計事務所共同代表/首都大学東京助教。東京大学工学部建築学科、東京大学大学院工学系研究科建築学修士修了後、千葉学建築計画事務所を経て、07年に成瀬・猪熊建築設計事務所を設立。08年から首都大学東京助教。

成瀬・猪熊建築事務所
受賞歴:JIA東海住宅建築賞 優秀賞(2014年)、 グッドデザイン賞(2012、2007年)ほか多数。共著に『シェアをデザインする:変わるコミュニティ、ビジネス、クリエイションの現場』(学芸出版社)、『やわらかい建築の発想‐未来の建築家になるための39の答え』(フィルムアート社)などがある。

商品の詳細はコチラ
このページをシェアする

ページトップへ