柘植審査委員長総評

昨年来の新型コロナウイルス感染症は今年も猛威をふるい、社会を混乱させた。医学、薬学、除菌抗菌、空気清浄など人類がこれまでに開発した科学技術の足し算で感染症に汚染された環境の浄化を目指した。更にテレワーク、Eコマースなど情報通信など科学技術の足し算も実施され、十年の成長を一年に短縮するような勢いでDXを加速させて社会生活や産業を復活させようとした。

しかし感染の勢いを止めることはできない。そこで採られたのが科学技術の足し算とは対極にある引き算である。例えば三密、つまり密接、密集、密閉を避ける行動規制だ。距離をあける、窓をあける、時間をあける、また飛沫防止の仕切りやマスクの徹底などの衛生の基本に立ち返る対策、言い換えれば原点回帰のデザインが功を奏して感染拡大を収束に向かわせている。

これらは技術やコストに頼らず、専門家に頼ることなく誰でも出来る予防策だ。つまり感染というそもそもの事の起こりに対して再び忠実になって空間を操作するデザインは、原点回帰であり今後の社会のありようを示唆している。こうしたコロナ渦を経験してニューノーマルと呼ばれる社会の到来は、科学技術の足し算でコロナ前に戻ることではなく、原点に立ち返る引き算により見えてくるのである。

先進国だけのデザインではなく、地球上の多くの地域に存在する社会、経済、文化に対応できるデザインの取り組みである。現地の資本で、現地の技術で、生産、流通、販売、使用、廃棄ができるデザインだ。これまでの技術を足し算して生み出される先端的な産業デザインとは異なる引き算によるデザインを超えたデザインである。

翻って「仕切る」という空間操作は、フロント材に課せられた社会的使命である。そのなかで人々の関係性を豊かにするフロントデザインは、SATOのように引き算により生まれるデザインの原点回帰と成り得る可能性を秘めている。本年度はこうした基本に立ち返るデザインと、コロナ後の社会を志向する視座をもって審査に臨んだ

小規模施設部門

大規模施設部門

新商品賞

特別賞