柘植審査委員長総評

今地球規模で広がる気候変動の対策としてカーボンニュートラル社会への転換が急がれる。各国の政府や民間企業はGX・グリーントランスフォーメーションに取り組み始めた。有史以来人類は自然と対峙して人工環境を作り続けた結果、環境に負荷をかけすぎ、地球温暖化や異常気象など様々な環境問題を引き起こしている。

そのソリューションとて、建築やデザイン分野では自然と人工環境を融合するハイブリッド環境が検討され始めている。ハイブリッド環境とはこれまで人工環境に頼りすぎた人間社会を見直し、自然環境を復活させてバランスを保つ試みだ。そして近年この理念を基にした建築や都市が現れ始めている。例えば、グーグルキャンパスと呼ばれるGoogleの California headquartersは、メンブレンで覆われた空間に細かな軽い町並みが展開する。またSoFiスタジアムは壁面を取り払った屋外型スタジアムとして、スポーツ観戦だけでなく2028年の夏季オリンピックに対応するなど諸施設が気持ちの良いハイブリッド環境の中に点在する。こうした先端事例を踏まえて、今年度は自然環境と人工環境の異なる要素をどのように操作したり複合しながらハイブリッド環境を作り上げたのか、環境要素に焦点を当て審査を行った。

昨今の建築や都市開発では、デューデリジェンス重視など外資の参入で不動産価値の評価や投資基準が見直されている。タイパ重視など有期限という条件で、建築の素材や技術などを見直すと、折れ戸やメンブレンなどこれまでとは異なる要素が浮かび上がる。更にそうした様々な環境要素が交わる境界において、自然環境と人工環境をどうのように融合させたか、仕切ったか、その場合物理的に仕切りながら、心理的な誘引・融合させたのか、そのデザインや演出、さらにハイブリット環境の中で起こる出来事をどう体験するのかといったUXデザインなど、審査では社会が渇望する与件に対して解を導く優れたデザインが散見されたのでこれを贈賞対象とした。ここで得られた知見は今後GXを推し進める上で、具体的事例として建築都市デザイン分野に寄与する極めて示唆に富んだソリューションになると確信している。

小規模施設部門

大規模施設部門

特別賞