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ものづくりLAB
みんなのタイルアートプロジェクト

~みんなのタイルアートプロジェクト・レポート~第3回「タイルアートを設計・試作する」

みなさんから送っていただいたたくさんのタイル(第1回レポート参照)で、何をつくるか?常滑の街のフィールドワーク(第2回レポート参照)の後、東京藝術大学大学院の中山研究室で、さまざまなアイデアが出されました。そして、今回、制作することとなったタイルアートは、「40個の重石(おもし)」です。・・・「重石」って、どういうものをつくるのだろう?なぜ、「重石」なのだろう?中山研究室にお邪魔して、大学院生の岩崎さんと藤井さんにお話を伺いました。

東京藝術大学大学院 中山研究室・岩崎さん(左)、藤井さん(右)
東京藝術大学大学院 中山研究室・岩崎さん(左)、藤井さん(右)

東京藝術大学大学院 中山研究室・岩崎さん(左)、藤井さん(右)

——タイルアートが「重石」に決まった経緯を教えてください。

岩崎さん:プロジェクトを始めた当初は、集まったタイルを砕いて、ベンチや壁画などのひとつの大きなアートをつくろうといった方向性でした。しかしせっかくいろんな時代の、いろんな種類のタイルが一堂に会しているのを常滑の作業場で目の当たりにして、砕いてしまったらその意味が薄れてしまうんじゃないかと強く感じました。割ったり加工したりせずに、集まったタイルをどのように使おう?と考え始めることこそが、今回の枠組みに相応しい態度に思えました。また同様に作品のスケールに関しても、たくさんのタイルをひとつの作品に統合していくのではなく、タイルの持っている特徴や表情を手がかりとしていくつかのかたまりに分けることで、ひとつひとつは持ち運べるくらいのスケールをもった、プロダクトのようなものにするほうがおもしろいんじゃないかと考えました。

藤井さん:「なんかちょっと重いものない?」というように、重みがあると生活のなかで便利なことがありますよね。ひとりが何とか持てるくらいの重さで、風で飛んでいかないように押さえておくもの。タイル自体がそもそも重たいものですし、さらに重いものに張り付けて性能を発揮するものなので、必然的に重いものができます。たとえば、公園などを歩いているとタープやコーヒースタンドの足元には重石が置かれている姿を見つけることができます。重ねればベンチやスツールにもなる。いろいろと、おもしろい使い方ができそうだと思いました。

コーヒースタンドのスケッチ

コーヒースタンドのスケッチ

イメージスケッチがびっしりと描かれたノート

イメージスケッチがびっしりと描かれたノート

——重石の形状は、どのように決めたのでしょう?

藤井さん:さまざまな大きさのタイルが集まっていたので、できるだけ多くの種類のタイルを使うことができるような重石のカタチを模索しました。たとえば、100角のタイルを側面に張るなら、高さ10センチくらいは欲しい。円柱の側面を切り落として、うまくタイルが入る形状を発泡スチロールでつくり、検討しました。タイルのカタチと大きさから、おのずと、重石のカタチが決まっていきました。最終的に、4種類の下地のカタチを用意したんですが、重さはどれも20kg前後です。直径と厚みを変えることで、いろんなタイルを張れるようにしました。

岩崎さん:下地の形状は最終的なタイルの張り方を規定することになるので、慎重に検討しました。一つのカタチに対して様々なタイル割りを考えられる自由度を持ちつつ、寸法が制限されることが逆にデザインのきっかけを与えるよう、バランスの取れた寸法を目指しました。また、真ん中に穴があれば支柱を通して固定できるとか、持ち上げるために指を入れられるようにしたいとか、機能性や操作性も同時に考えていきました。たとえばこの溝は、ロープを通すための溝です。ロープがあったほうが運びやすいんですが、結んだまま積むとロープがはさまってしまうので、逃げ道をつくりました。

溝があればロープが通せて、運ぶ、止めるなど便利になる。

溝があればロープが通せて、運ぶ、止めるなど便利になる。

目地が主役?になってしまったピンクの重石

目地が主役?になってしまったピンクの重石

——研究室で、重石を試作したんですね。

岩崎さん:重石を試作してみて、いろいろとわかったことがあります。一番簡単なところで言えば、色はあまり鮮やかすぎないほうがいい。このピンクのように彩度が高いと目地が主役で、タイルが脇役というふうに見えてしまいます。自然とタイルに目がいく方が良いだろうと考えました。それから、図面上でのタイルはただの四角なので、重石の図面は鎧のような、いかつい印象も与えるのですが、実際に試作してみるとタイルは一枚一枚違って、表情豊かな重石になりました。

藤井さん:コテや材料を買って、僕たちで重石の下地を試作しているんですが、“素人左官”では平にすることさえ難しく、やっぱり職人さんは凄いなと思いました。実際の下地は、常滑の建設会社の方にお願いしたんですが、この穴は規格に合う寸法にしたほうがいいとか、タイルを接着剤で先に張って、後から目地を埋めるとか、そういうことも教えていただきました。

——常滑にも何度か行かれたんですね。

岩崎さん:フィールドワークの後も、2回、常滑に行っています。研究室で極度に抽象化された(タイルの)図面を引いているだけでは検討が難しく、常滑で直接タイルをみて設計する段階が何度か必要でした。

岩崎さんと藤井さん

——重石の使い道まで、考えられたんですね。

藤井さん:最初に考えたのはベンチです。重石が2、3個あれば座れる高さになるので、あとは天板をどう固定しようかと考えていきました。それから、テーブル、タープ、スツール・・・。模型をつくりながら、天板、支持する棒、ロープなどのパーツをつくりました。大事にしたかったのは、できるだけ簡単に使えて、みんながつくれるような仕組みにすることです。たとえば、ホームセンターで買えるものだけでつくれば、今回のプロジェクトが終わった後も誰でもつくることができますし、僕たちの思い付かなかった使い方が見つかるかもしれません。今回は、記念オブジェのようなものではなく、そういった、誰にでも「開かれたもの」をつくりたいと思いました。

テーブルの模型を制作して検証する。

テーブルの模型を制作して検証する。

穴に支柱を通してみる。組んだ後に重石の位置を少しずらすことで、摩擦が起きて抜けにくくなる。

穴に支柱を通してみる。組んだ後に重石の位置を少しずらすことで、摩擦が起きて抜けにくくなる。

藝大の構内でタープを試作。

藝大の構内でタープを試作。

9月26日と27日の2日間、岩崎さんと藤井さんのおふたりは常滑に行き、40個の「タイルアートの重石」の制作を行いました。常滑の建設会社の方が用意してくれた40個の下地を前に、どのタイルをどう張るか、部屋中に敷き詰められたタイルからセレクトして「仲間をつくり出す」ことから始まりました。

下地にあててみながら、タイルの「仲間」を見つけ出していく。
下地にあててみながら、タイルの「仲間」を見つけ出していく。
下地にあててみながら、タイルの「仲間」を見つけ出していく。

下地にあててみながら、タイルの「仲間」を見つけ出していく。

——タイル選びがたいへんでしたね。どうやって「仲間」をつくったんでしょう?

藤井さん:直径が大きくて厚みの薄い下地からつくり始めたんですが、それに合いそうなサイズのタイルを持ってきて、大きい机にバーッと並べて、組み合わせていきました。「これとこれ、合うかもしれない」「ギリギリ仲間かもしれない」などと何回も何回も繰り返して、ひとつのかたまりができていく。その瞬間がいちばんおもしろかったです。普通なら絶対に出会わないタイルが隣り合っている、そう考えるとわくわくしました。

岩崎さん:色、カタチ、釉薬の感じなど、いろんな要素がありますよね。たとえば色なら色、と先にルールを決めて組み合わせを作る場合と、あらかじめそういったことを決めずに、もっと感覚的に選んできたものに対して、名前をつけるような場合があったように思います。たとえば、ネットに整然と貼り付けてあった雫型のタイルを、はがして並べ替えてみた後に、そのまわりに、どんなタイルを持ってきたらどんなストーリーができるだろう?と想像してみるなど、特定の要素で選ぶことと、感覚で選ぶことを、行ったり来たりしながら集めていきました。

——最後に、目地の色を決めたんですね。

藤井さん:東京に戻る前に、目地の色をすべて指定する必要があったのですが、それがすごく難しかった。色見本をつくって、それをタイルが張られた下地にかざしながら、思い切り想像力を働かせて決めていきました。ベースとなる色は白も入れて5種類あって、白を何パーセント、赤を何パーセントなどと混ぜて、最終的に15種類くらいの色をつくり、40個すべてに指定しました。

目地の色を検証する。

目地の色を検証する。

——40個、タイルが張られた下地を見て、どうでしたか?

藤井さん:感慨深かったですね。まだ目地がなく、下地に直接タイルが張り付けられている状態だったので、かなりいかついものにも見えるのですが、バラバラなタイルでもなんとなく似たものが集まっていて、見たことのない不思議な光景でした。

岩崎さん:いちばん最初のコンセプトは「時代も種類もバラバラのタイルが、自然とつくった“群れ”」というものでした。そのちょっと手前の段階というか、さまざまな種類のタイルがまだバラバラにあって、そこに“群れ”ができかけている。そんな感じがしました。目地が入ったときにどんな”群れ“があらわれるか、楽しみです。

さまざまな種類のタイル
さまざまな種類のタイル
タイルを下地に張り、仕上げてくれたタイル職人の方々と

タイルを下地に張り、仕上げてくれたタイル職人の方々と

今回は、東京藝術大学にお邪魔してお話しを伺いましたが、研究室に置かれた「重石」の試作品や、さまざまな模型、大量のスケッチが描かれたノートからも、彼らの情熱がひしひしと伝わってきました。「みんなのタイルアートプロジェクト」も、いよいよ大詰め。次回は、タイルアートの完成から、INAX ライブミュージアムでの設置をレポートします。

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