まどからはじまる5つの物語 Episode04「おかえりまど」 まどからはじまる5つの物語 Episode04「おかえりまど」

LIFESTYLE まどからはじまる5つの物語
Episode04「おかえりまど」

日々の暮らしに合わせて窓を選びたい。そんな思いを込めて「まど」と「住む人」の心地よい関係を模索するプロジェクトを立ち上げました。
新たな“まどのカタチ”を提案してくれるのは、暮らしまわりの快適さ、豊かさを追求する「心地よい暮らし研究会」(略して、ココ研)のみなさん。住む人の目線で考え、日常から生まれた窓についての暮らし提案を5回シリーズでお届けしています。
4回目は「おかえりまど」。家族の帰りをあたたかく迎えてくれるまどとは――――

家族をやさしく迎えてくれる
ちょっぴり個性的な窓

京都のお寺、源光庵には「悟りの窓」という窓がある。
円形の窓で、夏には庭園の緑、秋には紅葉、そして冬は雪景色が、丸く切りとられたフレームに絵画のように浮かび上がる。他にはない、世界でたったひとつの美しい窓。

それに比べてわが家の窓はぜんぶ四角。大きいか、中くらいの腰窓か…。わが家だけじゃなくてご近所も一緒。どの家も四角いのが並んでいて見た目は特徴のない窓ばかり。

もちろん、「悟りの窓」のような神々しい窓は望めないけど、もう少しその家の個性がわかる窓はないものかしら? 通りかかる人の目にふと留まるような――例えば、丸い窓や三角の窓。小さな四角い窓がモザイクのように並んでいたっていい。その家を象徴するような自由な形の窓……。

もしそんな窓が私の家にもあればわが家にもっと愛着もわくはず。きっとそれはわが家のシンボルになるだろう。家路を急いでいるとき、通りから目立つその窓にポッと明かりが灯っていたら……疲れていてもきっと心が癒される。なぜならそれは、家族が自分の帰りを待ってくれているサインだから―――

さて今回は「窓にもいろんな形やデザインがあってもいいのでは?」という疑問からスタートしました。内側からだけではなく外側から見たときにも魅力的な窓。ほんの少し個性的なデザインにするだけで、外観が素敵になるうえ思わぬ効果が生まれる窓。それがこれからご紹介する「おかえりまど」です。
ご自宅に素敵な「おかえりまど」を持つ大木聖美さんが、その魅力を語ってくれました。

憧れの「悟りの窓」が
わが家の丸窓の原点

「学生時代から京都の源光庵の『悟りの窓』が好きで何度も見に行きました。美しい庭の景色を丸く切り取ることで、風景が美しいアートになる。はじめて目にしたときは衝撃的でした」

という大木さん。とはいえ、まさか自分の家に似たような窓を作ろうとは思っていなかったそう。

「『悟りの窓』は神々しくて、思わず正座して眺めてしまうような窓です。家を新築するとなったときもそんな特別な窓をとり入れるなんて思いもよりませんでした。」

そんなある日、新築にあたって住宅展示場めぐりをしていたとき、小さな丸い窓に出会いました。大木さんの頭に浮かんだのは「悟りの窓」から見える丸く切りとられた風景です。

「普通の住宅にも丸窓がつけられるんだ!って感動しました。私は空が好きなので、丸く切り取られた空が部屋の窓に浮かび上がったらどんなに素敵だろうと思ったんです」

家にひとつくらい目で見て楽しむ贅沢な窓があってもいい。暮らす人の心に寄り添うような窓があってもいい。そう考えて大木さんはゆっくり眺めることができるリビングに、丸窓を設置することを決めました。

憧れの「悟りの窓」がわが家の丸窓の原点 憧れの「悟りの窓」がわが家の丸窓の原点
憧れの「悟りの窓」がわが家の丸窓の原点 憧れの「悟りの窓」がわが家の丸窓の原点

2 階に設置したことで
いつしか家のシンボルに

「じつは家を建てるとき、わが家のシンボルになるようなものがほしいねって家族と話していたんです。思いがけず丸窓がその役割を果たしてくれました。いつの間にかわが家の目印のようになっていたんです」

丸窓のあるリビングは 2 階にあります。そのため、離れたところからでもパッと目に留まって何かと便利なのだとか。例えば、はじめて訪れるお客さまに「丸窓がある家です」と伝えると、いちいち表札を確認しなくても探し当てることがでできる、なんてことも。知らず知らずのうちにご近所でも友だちの間でも、大木さんのご自宅は「丸窓の家」として親しまれるようになっていったそうです。

そんなふうに、ちょっと特別なものとしてわが家を見てもらえるって素敵なこと。大木さんも家への愛情が増し、大切に住み続けたいという気持ちがいっそう強くなったと言います。

「これが目立たない位置だったら違っていたと思います。周囲から目立つ位置にあるからこそシンボルになるんでしょうね。形は丸じゃなくても、その家々で違っていてもいい。小さな四角が並んでいたり、ダイヤモンド型だったり、ほんのちょっと個性的なデザインであれば、その家のシンボルになると思うんです」

2 階に設置したことでいつしか家のシンボルに 2 階に設置したことでいつしか家のシンボルに
2 階に設置したことでいつしか家のシンボルに 2 階に設置したことでいつしか家のシンボルに

窓の明かりは
家族が待っているサイン

丸窓がもたらす効果はほかにもあります。

「子どもたちが帰ってくるとき、家に近づいてくるとまず丸窓の明かりが見えるらしくて。その明かりが目に入ると心からホッとする、思わず早足になっちゃうって言ってくれるんです」

窓の明かりは家族が待っているサイン 窓の明かりは家族が待っているサイン

丸窓があるのは家族の滞在時間が長いリビング。つまり、リビングの明かりが灯っている=家族が家で待っている、ということなのです。大木さんの子どもたちもきっと、丸窓の明かりで家族が家にいることがわかって、きっとほっと温かい気持ちになるのでしょう。「お母さんが待っててくれる!」と急に足取りも軽くなってしまうのではないでしょうか?

「そうなんです! 子どもにとっても、それから夫にとっても、家で誰かが待ってくれているかどうか、というのはとても大切なことのようです。窓に明かりがついているときは、鍵を持っていても私が『おかえり』って玄関ドアを開けるまで、ドアの前で待っているんです(笑)。家族が出迎えてくれるって、本当にうれしいことなんだなぁってつくづく思いますね」

帰り道、家族が家で待ってくれていることが遠くからわかる。これこそが、大木家の丸窓の一番のメリット。「おかえりまど」たる所以です。

「だから、『おかえりまど』は家族がいつも集まる場所にあったほうが断然いいですね。寝室や書斎なんかだと、いないことも多いからあまり意味がありません。家族の誰かしらがいて明かりが灯っている、リビングかダイニングあたりが最適だと思います」

子どもたちも大きくなって、今は帰宅が夜になることがほとんどだとか。そのため余計に、「おかえりまど」が家族を結ぶ大切な存在となっています。

内側からも
暮らしを豊かにしてくれる

そんなふうに、訪れるお客さまや家族のみんなをあたたかく迎えてくれる「おかえりまど」ですが、それだけではない、もうひとつの魅力があります。それは、内側から見たときの景色。

「丸窓のあるリビングはダイニングキッチンとひと続きになっているので、家事をしながら眺めることもできます。ふと丸窓に目をやると、壁に丸い空がぽかんと浮かんでいるみたいに見えて、なんだかフッと肩の力が抜けるんです」

内側からも暮らしを豊かにしてくれる 内側からも暮らしを豊かにしてくれる

ときには、リビングのラグに寝転がって、しばし丸窓を見上げることもあるそう。そんなひとときが、大木さんにとって何よりのリラックスタイムになっています。
源光庵の「悟りの窓」の円形は、大宇宙を表していると言われています。丸という形は、どこかやさしげで、人の心を癒してくれる効果があるのかもしれません。

「それと、丸窓からさし込む光で季節と時間がわかるんです。夏はさほど日が届きませんが、季節が秋から冬にかけてはだんだんと部屋の奥まで日の光がさし込んできます。一日の時間も一緒。日が暮れていくにつれて光が奥までさし込んでくるので、時計を見なくてもだいたいの時刻がわかるんです」

おひさまの光を利用して季節や時間を感じとる――ちょっと粋な窓だと思いませんか?

いつもと違う景色を見せてくれたり、家族をあたたかく迎えてくれたり…そんな「おかえりまど」があったらいいなと思ったら、まずは、家族みんなでわが家にぴったりな窓の形やデザインを話し合ってみるのもいいかもしれません。わが家の個性を表す窓からは、きっと他にはない景色が見えるでしょうし、家のシンボルとして家族の絆をさらに深めてくれるはずです。

大木聖美さん

大木聖美さん

整理収納アドバイスや片づけサポートを行う他、生前整理・掃除に関するセミナーも開講。幅広い年齢層から支持を得て、現在までに 100 誌以上の雑誌に登場。WEB コラムの連載も数多く持つ。
ブログ「我が道ライフ」

http://seikatsunomemo.com

心地よい暮らし研究会

整理収納のプロ、雑誌やテレビで生活提案をする暮らしのエキスパートが集まり、掃除、洗濯、片づけ、料理など、暮らしにまつわるすべてのことを、いかに自分にとってラクで心地よくするかを追求。メンバーは、宇高有香さん、マキさん、中山あいこさん、大木聖美さん、近藤こうこさん。