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昭和のタイルから考える「これまでの100年、これからの100年」第1回

INAXライブミュージアムにて、2022年9月15日から10月4日まで、タイル名称統一100周年記念「蔵出し!昭和のタイル再発見」と名付けた展示が開催されました。タイルは実物を見て選ぶことが望ましい素材なため、写真のカタログ以上に大きな役割を果たしてきたのが、タイルの実物を貼り付けた「見本台紙」です。この企画では、高度経済成長とともに伸び盛りだった「昭和のタイル」の見本台紙を、9つのテーマ別に展示。その魅力を再発見できるよう構成しました。

今回、東京藝術大学大学院中山研究室の湯浅良介先生がこの展示をご覧になり、タイルの「これまでの100年、これからの100年」について、INAXライブミュージアム主任学芸員・後藤泰男と語り合いました。第1回レポートでは、後藤が展示をご案内しながら「昭和のタイル」の魅力を探ります。

東京藝術大学大学院中山研究室・湯浅先生

東京藝術大学大学院中山研究室・湯浅先生

昭和のタイルを振り返る意味

後藤:昭和の時代は、高度経済成長とともにタイルも右肩上がりで伸びていき、魅力的なタイル、手作りのタイルがたくさん生産されました。いろんなメーカーが競争し、さまざまなタイルを参考にしながらチャレンジしていったのです。しかし、平成になると、どんどん機械化され、安く大量に、均一につくるという世界に。そうなると、価格競争になっていきます。

湯浅先生:寂しいですね。

後藤:限度を超えた価格競争によって、タイルの魅力が下がり、使われなくなるという悪循環に陥ってしまいました。昭和で上がっていったのに、平成で下がっていく、ちょうど富士山の稜線のようなカタチです。ただ、ここ数年、また上がる兆しが見えています。そんな今こそ、昔、元気のあった時代のタイルを見直すのは重要じゃないかと。

湯浅先生:ノスタルジックに昔は良かったね、というのではなくて、あの頃はみんなタイルの何に惹かれていたのか、もう一度見直して、現代にフィードバックすることは、とても重要だと思います。

後藤:そうなんです、タイル名称統一100周年記念は、100年を振り返るだけではなくて、100年先を見据えるという意味を持たないといけないんです。前置きが長くなってしまいましたが(笑)、では、ご案内させていただきます。

INAXライブミュージアム主任学芸員・後藤泰男(左)の説明を受ける湯浅先生。

INAXライブミュージアム主任学芸員・後藤泰男(左)の説明を受ける湯浅先生。

強い思いを感じるパッケージ

入口に設置された「I♡パッケージ」のコーナー。

入口に設置された「I♡パッケージ」のコーナー。

後藤:今回は、とても文系的というか情緒的な分類なのですが、昭和のタイルを9つのテーマで展示しています。最初にご紹介するのは「I♡パッケージ」です。

湯浅先生:これだけパッケージに凝っているのは、こういうシリーズとして打ち出したいという強いイメージがあったということですよね。

後藤:思いが強すぎるんでしょうね。バビロニアタイルとか、ニューアンデスタイルとか、いま見るといったい何だって思いますけれど(笑)。

湯浅先生:今は、どちらかというと、パッケージは製品をよりわかりやすくするためにつくられますが、昭和のパッケージを見ていると、わかりやすさよりも、つくった人の主観とかイメージが打ち出されていますよね。タイルのように「作り手」がちゃんといるものって、その人の主観とか、人のゆらぎのようなものが大切で、そういうわかりづらいものを表現しているのがおもしろいですね。

ちっちゃいタイルで何が表現できる?

ちっちゃいタイル

後藤:こちらは「ちっちゃいタイル」です。ゴブランモザイクなど、織物の意匠をタイルで表現しようという時代もありました。

湯浅先生:タイルで何を表現できるか、チャレンジしている感じがしますね。これもひとつひとつがアートケースのようですごくきれいです。

壁紙のように使えるタイル。その上は織物の意匠のタイル。

壁紙のように使えるタイル。その上は織物の意匠のタイル。

後藤:これは昭和9年につくられた商品なんですが、厚さが1.3ミリ、30センチのシート張りにして、「壁紙」の代わりになってしまおうという意識でつくられたモザイクタイルです。実際に、天井に張った事例もあります。戦前に、こんな挑戦的なタイルをつくっていたというのがおもしろいですよね。

湯浅先生:壁紙の代わりっていうのは、盲点ですね。タイルって、値段が高いイメージがありますし、使う場所も水回りとか限定されたイメージになってしまうのですが、薄くて壁紙のように使えて施工も簡単なら、今でも普通に、選択肢としてあがりそうな気がします。

装飾性とモードタイルの流行

ブルーノ・ムナーリがデザインしたシリーズ

ブルーノ・ムナーリがデザインしたシリーズ

後藤:続いて「モードタイル」という世界です。戦後、いちばん伸びたのは、真っ白い内装タイルなんですが、その白いタイルにデザインを施すという時代がありました。昭和40年代くらいにぐっと伸びるんですが、その後、他の素材に代替されていきました。

湯浅先生:もしかしたら、モードタイルが廃れたときは、装飾性というもの自体が廃れていった時代なのかもしれないですね。

後藤:一時期流行って、すぐに廃れていったものって、改めて見るとおもしろいですよね。

湯浅先生:これは、ムナーリがつくったんですか?

後藤:ムナーリのデザインです。

湯浅先生:すごく気になりますね(笑)。

さまざまなデザインを生むパズルタイル

パズルタイルのコーナー

パズルタイルのコーナー

後藤:続いて「パズルタイル」。要するに組み合わせなんですが、カタチでタイルのおもしろさを表現しています。これなんかは、カタチだけでなく、釉薬の光沢の差まで表現していて素敵だなと思います。

湯浅先生:いろんなパターンがつくれますね。

同じカタチから、さまざまなデザインが生み出せる

同じカタチから、さまざまなデザインが生み出せる

後藤:当時、これを職人さんたちが手作業でやっていました。手間もかかります。

湯浅先生:小さなタイルだからこそできるバリエーションにチャレンジしていますね。こう張ればこうなると、延々とつくれそうです。こういう文様的な感じになると、ちょっと和モダンっぽいというか使う場所は限定されそうですが、もっと抽象度の高い、ニュートラルで使いやすそうなものもありますね。

後藤:これなんか、大きいものでは普通にあるカタチですが、小さくするとまた変わって見えますよね。

抽象度の高いパズルタイル

抽象度の高いパズルタイル

焼き物の世界、クラフトっぽいタイル

「クラフトっぽいタイル」のコーナーで。

「クラフトっぽいタイル」のコーナーで。

後藤:こちらは「クラフトっぽいタイル」です。こうしてみると、焼き物らしさというか、手作りという世界が広がっているのもタイルの特徴だと感じます。

湯浅先生:確かにそうですね。先ほどのパズルタイルは、工業製品としてどんなことができるか、ということでしたが、これはもう「ザ・焼き物」で、どんな表情ができるかとチャレンジしています。

後藤:お茶碗や壺から意匠をもらってきて、タイルで表現するという世界ですね。

特別感・存在感あふれるタイル

特別感・存在感あふれるタイル

湯浅先生:これなんか、マテリアルとしての存在感がとてもいいですね。

後藤:「窯変」といわれる窯の中の変化をタイルで表現するのは、昔から取り組んでいることです。

湯浅先生:この予測できないというか、制御しきれないゆらぎの感じが、特別感につながっていますね。

後藤:一時、古くさいと言われてしまう時代もありましたが、今ではまた新しく見えます。「泰山タイル」という美術タイルが注目されていますが、まさに手作りのタイル。民芸的でもあります。

湯浅先生:こういうのって、繰り返されるというか、なくならない強さがあります。それにしても、これ、すごくいい感じの赤ですね。

後藤:赤はいろんな赤があって、鉄赤、辰砂の赤が有名です。中にはセレン赤のように毒性があるということで、今では使えない赤もあります。

湯浅先生:こういう濃淡のある、均質ではない色にも、すごく可能性を感じます。

色数の多さを誇るカラーパレット

後藤:色ということで言えば、こちらのテーマは「カラーパレット」です。色のグラデーションや色数の多さを誇った時代があって、それを見本台紙で表現しているのが、この一連のパレットです。これは1色で5パターンのグラデーションをつくっています。

湯浅先生:ここまでグラデーションがあると、もうタイルということをあまり気にせずに使ってしまいそうです。

グラデーションが美しいカラーパレット「カラコンモザイク(伊奈製陶)」

グラデーションが美しいカラーパレット「カラコンモザイク(伊奈製陶)」

記憶に残る、ザ・玉石

後藤:こちらは一時代を築いた「ザ・玉石(たまいし)」です。お風呂や洗面台が、ほとんどこれで覆われていた時代もありました。

湯浅先生:自分の経験ではなく映画の記憶かもしれませんが、「家族のいい時間」を象徴するようなタイルですね。こういう装飾的なもののほうが記憶に残って、何かを象徴するものになっていく気がします。

後藤:ご年配の女性の方たちがこのコーナーの前で、「これ知ってる!」と話に花が咲くのは、よく目にした光景でした。

湯浅先生:逆に、均質的な方向にいくと、あまり記憶に残らない。どの時代でも、記憶のなかに定着するくらい強いものというのは、いい商品なのだと思います。

みんなの記憶に残っている玉石(たまいし)

みんなの記憶に残っている玉石(たまいし)

角のないタイルで雰囲気が変わる

後藤:こちらは「角のないタイル」です。いまはあまりないですが、ランプ型とか、四角でないこういったカタチが流行った時代がありました。

湯浅先生:ちょっと丸みをおびるだけでも、ぜんぜん雰囲気が変わりますね。

後藤:目地の効果ってありますよね。

湯浅先生:いまは基本的にネットに張ってあって目地幅が決まっていますが、最近、目地幅を自由に設計したいと考えて、ネットから切って張ってもらう、ということをやりました。そうやって、タイルと目地をいっしょに設計するなら、カタチが少し変わるだけでもバリエーションが一気に増えるでしょうね。

個性が光る舶来タイル

インクを垂らしたような個性の強い舶来タイル

インクを垂らしたような個性の強い舶来タイル

後藤:最後のテーマは「舶来タイル」です。

湯浅先生:これ、すごくいいです。欲しいし、使いたい。壁一面に張ったら、石でもなくテラゾーでもなく、すごく不思議な壁がつくれるんじゃないかと思います。

後藤:これはニューヨークから持ってきたタイルですね。今は、輸入タイルが非常に多くなっている時代でもあり、海外とやりとりすること自体、非常におもしろいと思います。

タイルならではの特徴が見えてくる

後藤:今回は、膨大な数のタイルのなかから、スタッフの誰かが何らかの反応したものを展示しています。みんなの反応する場所がそれぞれ違うというのも、タイルの特徴かもしれませんね。

湯浅先生:これだけバリエーションがあると、反応するものが人によって違うでしょうね。それぞれの記憶を呼び起こしたり、思い入れを持たせたり、そういう何かがあるのもタイルの特徴だと思います。それは、装飾的な部分がちゃんとあるからなんでしょうね。

湯浅先生と後藤

湯浅先生は、「蔵出し!製品型録(カタログ)」のコーナーや「蔵出し!タイルと建築『Tile & Architecture』」もじっくり見学。展示をすべて見終わった後、後藤とともに「昭和のタイル」の魅力、さらには「タイルの未来」について語り合いました。
昭和のタイルから考える「これまでの100年、これからの100年」。第2回レポートでは、「これからの100年」を考えます。

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