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昭和のタイルから考える「これまでの100年、これからの100年」第2回

INAXライブミュージアムで開催された、タイル名称統一100周年記念「蔵出し!昭和のタイル再発見」。東京藝術大学大学院中山研究室の湯浅良介先生がこの展示をご覧になり、INAXライブミュージアム主任学芸員・後藤泰男と語り合いました。第2回レポートでは、「昭和のタイル」をヒントに、タイルの未来を考えていきます。

INAXライブミュージアム主任学芸員・後藤泰男

INAXライブミュージアム主任学芸員・後藤泰男

東京藝術大学大学院中山研究室・湯浅先生

東京藝術大学大学院中山研究室・湯浅先生

タイルの何が人を惹きつけるのか?

——まず、今回の展示の感想を聞かせてください。

湯浅先生:タイルって、本来は建築装飾の代表選手ですよね。それが、ガラスとか金属、樹脂など工業化されている別の素材が台頭してきたときに、タイルより均質性がある、使いやすいということで置き換えられてしまいます。タイルが下火になるのと、建築がどんどん均質化されていくのとは、本当にリンクしているのだと思います。
タイル自体も均質な方向に向かいましたが、やっぱり、ゆらぎや装飾性が魅力です。タイルそのものがもつ素材としての装飾性もそうですし、色やサイズ、割付を少し変えたりするだけで、さらにイメージが広がります。そこは他のマテリアルとの大きな違いだと思います。

後藤:今回の「昭和のタイル」、懐かしいというだけではなくて、これからのタイルを考えるヒントにしたいと思っているのですが、いかがでしたか?

湯浅先生:今日見たタイルは、作った人の主観だったり、偏執性、個別性だったり、そういうものがそのまま表れていると思います。作る人やデザインする人の「私はこういうものがきれいだと思う」という想いをそのまま反映していて、それが装飾性にもつながっています。そのおもしろさを、今日はすごく感じました。それは、世界にくまなく広がるようなものではないけれども、ある世界で、誰かを強く惹きつけます。工業化して普遍性・均質性が求められる時代のなかで、文化や風土をつくるのは、実はそういうものではないか、タイルは根源的にそういうものを持っているのではないかと思います。

東京藝術大学大学院中山研究室・湯浅先生

後藤:タイルって個人の思い入れが入りやすい感じがしますよね。

湯浅先生:「焼く」という行為が関係しているのかもしれませんが、タイルの生産工程を見せてもらっても、「人がつくっている」という感じがすごくしました。そういう人間の手が入りやすい素材というのは、人間の主観が反映されやすい。均質化して、安全性や機能性が求められる時代のなかで、昭和のタイルに見られるような「この人がいいと思っているんだからこれでしょ」という偏りのある感覚が僕は好きだし、意外と重要なんじゃないかと思います。

人間の感覚に重きを置いてつくる。

後藤:昭和のタイルに見られる「手作りの良さ」というのは確かにあるんだけれども、今からもう一度、職人さんが1個1個つくる「手作りの世界」が復活するかというと、たぶんそれはなくて、その手作りの良さをどうやったら機械でできるか、最先端の技術で再現できるか、ということでしょう。機械でつくりながらも、人間の感覚が入っているタイル、人間の想いが込められたタイルというのを、つくらなくてはいけないのだと思います。

INAXライブミュージアム主任学芸員・後藤泰男
東京藝術大学大学院中山研究室・湯浅先生

湯浅先生:確かに、近代化・工業化してからは、どちらかというと工業化したものに人間が合わせていくという時代でしたが、ケータイやパソコンが普及してからは、人間が感じるままに操作できるインターフェイスなど、人間の感覚に近づけるにはどうすればよいかという時代になりました。タイルにしても、つくるのは機械かもしれないけれども、人間の感覚に重きを置いてつくるというのは可能性があるなと思います。

後藤:昭和のタイルに見られる「手作りの良さ」というのは確かにあるんだけれども、今からもう一度、職人さんが1個1個つくる「手作りの世界」が復活するかというと、たぶんそれはなくて、その手作りの良さをどうやったら機械でできるか、最先端の技術で再現できるか、ということでしょう。機械でつくりながらも、人間の感覚が入っているタイル、人間の想いが込められたタイルというのを、つくらなくてはいけないのだと思います。

後藤:そうですね、そこまでつきつめないと、タイルの良さって出てこないんじゃないかなと思います。いま注目されている泰山タイルは、「手工固有の美」、手で作った工業製品が固有の美しさを持つんだという考え方で、プレスでタイルを大量生産する時代に、職人さんが石膏型で1個1個つくっていました。職人さんによる気持ちのいい不均質さというのは間違いなくあるんだけれども、それをどうやって量産化するか、ということが、これからのポイントになると思います。

湯浅先生:人が気持ちいいと思うもの、ゆらぎとかむらとかを、本気で考えないといけないんでしょうね。

後藤:焼き物の世界では「一窯、二土、三細工」と言われるように、最後は、人間の手では制御できない「窯」にゆだねられる世界でした。工業化の時代に入って、それをいかに均質化するか、ということをやってきた。昔は、均一のものをつくろうとしても、技術がなくてつくれなくて「ゆらぎ」ができてしまった。でも、今はそれができてしまう。そして、できてしまえばしまうほど、魅力がなくなってしまう。

湯浅先生:ものをつくる会社の宿命的に難しい問題ですよね。均一でないことを、消費者や使う側が認めないと、なかなかできません。でも、時代も少しずつ変わってきていますよね。

東京藝術大学大学院中山研究室・湯浅先生

装飾性にみるタイルの可能性

——タイルの10年後、20年後を考えたとき、こういう方向もあるのではないかというタイルの新しい可能性についてはいかがでしょう?

湯浅先生:今日見たなかでは、壁紙の代わりに使うタイルに可能性を感じました。タイルの使用場面は、水回りに代表されるように、用途や性能、機能と結びついている場合が多いと思います。でも、そういったこととは関係なく、柄とか色とか素材感だけでタイルを選ぶ、そのくらい気楽に使えるタイルもあっていい。用途や性能、機能といった縛りを超えて、「装飾するならタイルを使おう」くらいの気楽さです。実は、建築って「装飾的にしよう」というとき、あんまり選択肢がないんです。だからタイルの装飾性は、本当はすごく可能性があるのではないかと思います。
実は、タイルのサンプルを集めるのが好きで、自分の家の床いっぱいに敷き詰めてみることがあるんです。そうすると、急に「特別感」が出る。その特別感も、タイルの大きな特徴だと思います。逆に言えば、特別感が出るゆえに使いづらいというのもあるのですが・・・。

後藤:タイルは工業化の過程で均質性にも振れているので、両方いけるというのもあります。

湯浅先生:そうなんです、普遍性と個別性、両方いけるのはすごい特徴ですよね。すごく振り幅が広いがゆえに、「自分から選択してこう使う」という能動的な姿勢が必要ですが。

後藤:タイルって面倒くさい素材ですよね。自分から積極的に関わらないと返って来ない。

湯浅先生:そうですね、だから思い入れが入る素材なんですよね。

湯浅先生、ありがとうございました。
昭和のタイルには、タイルの未来をひらくヒントがたくさん詰まっていました。LIXILとしては、今後もタイルの魅力について考え、発信していきたいと思います。

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