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ものづくりLAB

タイルはどこまで天然石に近づけるか?~その2

このタイル(写真01~03)のキラキラ感やガサガサ感は、どのように生まれたのか?LIXILの新商品「ストーンタイプコレクション・ボーダーL」の開発に携わったメンバーのみなさんに、引き続きお話を伺いました。

写真01

写真01

写真02

写真02

写真03

写真03

——天然石を割ったかのようなガサガサとした質感は、どのようにして出していったのでしょうか?

加藤「まず面状を工夫しておりまして、天然の石から型をつくっています。原石ならではのツブツブ感までトレースすることで、実際の石に近づけています。
それに加えて、光沢を押さえることですね。いろいろ改良をして、なんとか光沢を落とした釉薬をつくることができたのですが、釉薬を変えるとその釉薬のためのプログラムを一から作成し直さなければならないというのが非常に大変でした」

製造担当 加藤公一(新興窯業)

写真04 製造担当 加藤公一(新興窯業)

河野「インクジェットの発色は土や窯の温度、釉薬などの条件で変わってしまうため、それぞれの条件に合わせてプログラムを設定する必要があります。デジタルプリントデータは、これらの条件が固まった世界の上に構築されるので、ベースとなるプログラムの設定が変わってしまうと、発色がまったく違う世界になってしまいます。だから、プログラムの設定はとても重要で、それをベースにデジタルプリントデータを制作し、発色が異なった場合はデジタルプリントデータの補正をし、精度を上げることが大切なのです」

デザイン担当 河野吉樹

写真05 デザイン担当 河野吉樹

今井「焼成温度が変わると発色だけでなく、生地の『収縮』の仕方が変わってきますし、寸法も気にする必要があります。今回の商品は本石を意識した、500mm幅という大きな商品なのですが、これくらい大きいと、焼成の間に反ったり曲がったり、変形するんです。インクの発色を優先すると、生地のほうで調整しなければならず、そこが難しかったですね。その反りをコントロールするのに非常に試行錯誤を繰り返しました」

製造担当 今井一夫(新興窯業)

写真06 製造担当 今井一夫(新興窯業)

満園「私は、主に品質面でフォローしていきました。施工する上で不具合が発生しないか、使っている間に不具合が発生しないか、といった品質です。
『施工のしやすさ』も重要な要素のひとつです。いままで500mm幅のタイルを施工するとなると、実場面では下地の精度がいいとは限らないので、接着剤を全面に付着させるためにはタイルの裏側と壁側の両方に接着剤を塗る必要があったのですが、いま話に出たように、反りを抑えて品質を安定させることで、壁側に接着剤を塗っただけで施工できるようになりました。今回の施工の簡便さは、高い窯業技術をバックボーンにしているというわけです」

設計担当 満園葉月

写真07 設計担当 満園葉月

今井「天然石の質感に近づけるために、インクジェット加飾以外にも、素地や釉薬などタイルの土台となる構成要素を工夫しており、さらにインクジェット加飾の表層部にも一工夫しています」

河野「プリントしただけだと二次元なんですが、いくつかの要素の積み重ねで、奥行きというか深みが出て、天然石に近づけることができるんです」

——“キラキラ”とした粒状光沢は、どう出したのでしょうか?

加藤「釉薬でキラキラを模したような表現ではなくて、鉱物系の粒状光沢を目指しました。今回の意匠に合う原料を選定し、粉加飾という技術を使っています。実は、この粒状光沢にも2種類あって、繊細なきらめきと、大き目の強いきらめきという2つが融合して、より天然石に近い質感を表現しています。デジタルプリントだけでは、ここまでの質感はなかなか表現できません。ただ、鉱物系の粉なので、粉をかければかけるほど質感は上がりますが、粉が溶けずに落ちて来て、部屋の中が汚れてしまう。そこを調整するために、試験を重ねました」

満園「今回、家の中にも張っていただくことを想定しています。使っていただくなかで、鉱物のキラキラが落ちて家が汚れてしまってはいけないので、実際の使用場面を想定して、しっかりとテストをして、気持ちよく使っていただけるよう細かいところまで確認をしています。質感は落とさずに、品質を高くする、その合致するところを突き詰めていきました」

河野「これだけこだわりの強いメンバーがつくっていますので、値段もどんどん上がってしまう。コストという要素も考えないといけません」

写真08 製造担当 松尾英樹

写真08 製造担当 松尾英樹

松尾「私は調整役のような立場だったのですが、最終的には商品として販売するものなので、コストの部分や安定供給といった部分が必要で、そのあたりの調整をやっていました。裏方です」

河野「たくさんのこだわりがあるなか、意匠、品質、価格、そして安定して生産できるようにトータルに調整していくという、単なる裏方というよりは本当に大きな役割で、きちんと商品としてまとめ上げてくれました」

——最後におひとりずつ、できあがった商品「ストーンタイプコレクション・ボーダーL」に対しての想いや、お客様へのメッセージがあればお願いします。

河野「相当にこだわった商品なので、「使って良かった」と感じていただければ嬉しいですね。そして、次の意匠も考えていきたい。今回のさらにバージョンアップというか、みなさんの技術を使って何か新しいものを創出していきたいですね」

満園「1色のなかでも色の幅がかなりあって、総面積でもかなり幅の広い仕上がりになると思います。これ家に張りたいなと自分たちも思えるような商品を開発できたのは、すごく良かったですね」

今井「この商品は開発に最初から携わりましたし、わが子を世の中に出すような思いです」

加藤「モノは本当にいいと思います。早く実物件が見てみたいですね」

松尾「お客様に気づいてもらえないようなところまで、妥協なくいろんなところにこだわって、最高峰に良くできたタイルになったと感じています。ぜひとも使っていただき、『ああ、いいなあ』と感じていただけたら嬉しいですね」

今回、従来のスーパーリアルを超えるような商品がどうつくられたのかをテーマにお話を聞かせていただきましたが、デジタルプリントという進化だけでなく、それぞれの持っている技術やこだわりがひとつになって、商品ができあがっていくことを強く感じました。みなさん、ありがとうございました!

開発メンバー
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