“スーパーリアル”タイルの進化を追う。
大理石、石、木、金属などにそっくりな“スーパーリアル”と言われるタイル群があります。これを可能にしたのは、デジタルプリントという画期的な施釉技術です。たとえば大理石なら、実際の柄の写真を印刷するようにして施釉を行い、焼成します。これにより、“スーパーリアル”な、魅力的なタイルが次々に登場しました。
そしていま、エフェクトインクという最新の加飾技術により、“スーパーリアル2.0”とも呼ぶべき時代が見えてきています。より本物に近いタイルとは、どんなタイルなのか?今回は、「タイルのリアル表現の進化」を追いながら、エフェクトインクを使った最新の大理石調タイルがどこまでリアルになり、どんな魅力を備えたのかレポートします。
スクリーン印刷~ロール印刷時代のデザイン。
最新の加飾技術を紹介する前に、タイルのリアル表現の歴史について少し振り返りたいと思います。
写真01 シルクスクリーン印刷でつくられた床タイル「ビアンコソフィア」(1998年発売)
1990年代は、絹の細かい孔(あな)にインクを通して印刷する「シルクスクリーン印刷」の時代です。たとえば花柄なら、花柄の部分だけインクが通るようにし、まわりは樹脂でふさいで「型紙」のようなものをつくり、圧力をかけると印刷できるというシンプルなものです。花びらの部分、茎の部分、葉っぱの部分などと柄を分解し、何種類かのシルクスクリーンを用意してつくるのですが、基本的に1つのパターンしかできません。「花柄のアクセントのあるタイル」なら良いのですが、「大理石調のタイル」のように1枚1枚違う柄が要求されるデザインには向いていませんでした。(写真01)
また、版を合わせるときにズレが生じやすいという問題や、周囲にぐるりと5ミリくらいの隙間をあけねばならないなどデザインの制約も多くありました。
写真02 ロール印刷でつくられた床タイル「フロストマルモ」(2007年発売)
次に、表面に凹凸のついたロールで印刷する「ロール印刷」の時代がやってきます。
初期は凸の部分にインクをつけタイルに押し付ける凸版転写でしたが、凸部が押しつぶされて柄が不鮮明になることから、凹の部分をインクで埋めてインクを凹版転写する方式が主流になりました。
ロール印刷は、タイルの表面全体に大理石柄や木目柄のような「地模様/地紋」を、同じ柄が繰り返されずに印刷できることから、長年タイル加飾の主力として重宝されてきました。しかし、ロールの凹凸加工の解像度も粗く、ロールを複数連ねても4色印刷が限度だったので、本物の大理石や木目柄と比べるとデザインの再現性に限界がありました。この時代が長く続きましたが、いまから10年余り前に、タイルの表現を根本から変える「デジタルプリント」が登場します。
デジタルプリントが“スーパーリアル”表現を実現。
写真03 デジタルプリントでつくられた床タイル「プレジャート」
写真に撮れる柄なら、すべてタイルの上に再現できる。デジタルプリントによって、タイルのデザインは画期的に進化しました。
デジタルは、データさえ用意すれば何パターンでも製作可能です。たとえば、本石であれば1つとして同じ柄のない大理石を表現したい場合でも、デジタルプリントによって何十種類もの柄を用意することで、繰り返し感のない“スーパーリアル”な大理石調床タイルが可能となりました。(写真03)
デジタルプリントは画期的な技術でしたが、“スーパーリアル”を追い求める情熱は、ここで終わりませんでした。
たとえば、Tシャツの「刺繍」には、柄の盛り上がりや糸の光沢など、単なるプリントでは表現できない“本物感”があります。タイルでも、柄の凹凸や光沢といった、さらにリアルな表現はできないだろうか?そんな情熱が、新たな技術を生みました。
エフェクトインクが実現する“次世代スーパーリアル”。
さらなるリアルを追い求めて考えられたのが、特殊な機能を持った「エフェクトインク」です。CMYKのような通常の4色に、エフェクトインクをプラスすることで、たとえば、写真の柄の一部を盛り上げる、光らせる、つやを消す、金属の質感を出すなどといった効果を付け加えることができます。
「3Dインク」は最新のエフェクトインクのひとつで、狙った箇所を“沈み込ませる”ことができます。LIXILの新しいタイル「マーブルタッチ」は、このインクを使用しています。
写真04 エフェクトインクを使用したLIXILのタイル「マーブルタッチ」
写真05 「マーブルタッチ」の表面。柄と凹凸がシンクロしている。
3Dというと、飛び出す絵本のようなものを思い浮かべてしまうかもしれませんが、タイルの場合、そのような劇的な立体では特殊な用途にしかなりませんので、もっと“繊細”なものです。 特筆すべきは、「柄と凹凸がシンクロする」ということ。本物の大理石の柄は、石の組成が違っていたり、亀裂部分があったりすることで柄ができているので、手で触れば柄に沿って“感触”が違います。「マーブルタッチ」の場合、エフェクトインクによって大理石模様の柄に沿って繊細な「くぼみ」がつけられているので、大理石の柄がこれまで以上にリアルに表現されています。触ったときはもちろん、見ただけでも「平面的な印刷とは何か違うな」というリアルな立体感があります。
エフェクトインクによって、タイルは、“本物”にさらに近づいています。大理石以外でも、たとえば、木の年輪や導管といった自然の複雑な柄を、感触まで含めて再現するなど、さらなるリアルな表現が可能になってきました。これからどんなタイルが登場するか?建築デザイナーのみなさんをわくわくさせるタイルの新しい世界は、ますます広がっています。
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