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ものづくりLAB

世界のタイルづくり現場レポート〜タイルの一大産地、イタリア〜

世界のタイルトレンドの発信地である、国際見本市「CERSAIE(チェルサイエ)」

世界のタイルトレンドの発信地である、国際見本市「CERSAIE(チェルサイエ)」

多種多様なスペシャリストが形作るタイル産業

今、世界的なタイルの一大産地であるイタリア。そのタイルづくりには、日本と異なる点が多く見られます。まず一番の違いは、日本では一つのタイルメーカーが主導して、製造過程を全体的に手掛けることが多いのに対し、イタリアでは分業的なタイルづくりが行われている点です。タイルには原材料だけでなく、製造機械や顔料といった、様々な素材や機械、職人の技が必要になりますが、それらの工程を専門メーカーや工房が分業していて、「タイルの○○を作る」という専門性に特化しても経営が成り立つような産業の基盤が出来上がっています。素材の他にも、タイル専門のデザイナーや、見切り材をだけを作るメーカーなどがあり、イタリアにおけるタイルメーカーの役割は、これらの様々なメーカーやプロフェッショナルをアッセンブル(集める)していくことにあります。同時にタイルメーカーだけでなく、様々な人や企業から新しいタイルのアイデアやトレンドが生まれてくる可能性があるのです。

イタリアのタイルデザイン専門の企業
イタリアのタイルデザイン専門の企業

イタリアにはタイルデザイン専門の企業も存在する。これらの企業では毎年トレンド調査と共に、デザインの元になる様々な異素材(天然石・木・セメント・瓦・テラコッタ等を収集し、そこからデジタルデザインデータを制作。グラフィックデザインだけでなくレリーフ型の開発も行い、プロタイプ試作モデルも自社で作り、世界中のタイルメーカーと協働している。

そもそも、イタリアでタイル産業が活発になったのは、中世に宗教施設や公共施設でセラミックタイルが使われるようになった頃のこと。当時のタイルは主に手作業で装飾を施していく「マジョリカ」と呼ばれるもので、職人たちがヨーロッパだけでなく、イスラム圏のタイル装飾を取り入れながら、新しいスタイルを生み出していきました。
その後、19世紀初頭には、大きな装飾タイルが使われる機会が減っていき、タイル製造の工業化の流れと共に、幾何学的なパターンの繰り返しなど、シンプルでありながらタイルの特性を活かした使い方が主流になっていきます。また、原料や製造技術の革新によって、耐久性などの機能を重視したタイルづくりも増え、この潮流は現代にもつながっています。

進化し続ける技術と、現代の生活者のニーズを捉えたものづくり

チェルサイエ
チェルサイエ

チェルサイエは、毎年秋にボローニャで開催される。イタリアを中心に世界中から多くのメーカーが出展する。

TECNARGILLA(テクナルジーラ)

毎年、チェルサイエと同時期にリミニで開催される国際窯業設備見本市「TECNARGILLA(テクナルジーラ)」。
タイル産業の安定した基盤があるイタリアらしく、タイル製造設備メーカーも多く出展する。

Salone del Mobile. Milano(ミラノ・サローネ)

毎年、ミラノで開催される国際家具見本市「Salone del Mobile. Milano(ミラノ・サローネ)」。世界中から家具メーカーやデザイナーが集まり、インテリアトレンドを発信している。

1980年代になると、タイルは工業製品として大量生産されるものとして、世の中に浸透していきますが、同時に転写や加飾技術も発展したことで、製作者のアイデアを発揮した様々なデザインのタイルが生み出されていきます。そのなかで1983年に始まったタイルの国際見本市「チェルサイエ」は、世界に対してイタリアのタイルの広く発信する存在として注目されてきました。毎年、多様な製品が展示される様子は、イタリアのものづくりへのこだわりを感じさせてくれるものです。

一方で、近年はデジタルプリントを始めとする加飾技術が進歩し、各メーカーがその最新技術を取り入れていった結果、多くの製品のレベルが上がり、今度はそれ以外の技術の面での差別化を図る動きが見られます。例えば、今、同じくイタリアで毎年開催される家具の国際見本市「ミラノ・サローネ」に出展するタイルメーカーが増えています。これまでは、新しい素材や技術を中心に生産者側がタイルのトレンドを発信していましたが、世界的にSDGsを始め、人々のライフスタイルが見直される中で、ユーザーが求めるものを捉えた製品づくりがタイルメーカーにも求められており、家具やインテリアといった空間全体を意識した製品づくりの必要性をメーカーが感じていることの表れだと思われます。
タイルがイタリアの基幹産業として発展してきた背景には、ビジネス面での激しい競争と共に、人々の芸術や文化に対する教養、そして、ものづくりを常に進化させていくクラフトマンシップがあるのではないでしょうか。

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