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デザインLAB

DTL INTERVIEW等々力の工芸スタジオ チルコロ

自然にゆだねたタイルの表情を生かす
採用タイル:一円相(いちえんそう)

設計:楠元 彩乃/ayarchitects 施主:松島 沙蘭/工芸スタジオチルコロ

工芸スタジオチルコロの写真1
工芸スタジオチルコロの写真2
工芸スタジオチルコロの写真3

左から、施主:松島 沙蘭/工芸スタジオチルコロ 設計:楠元 彩乃/ayarchitects
奥には採用されたタイル:一円相が写る

設計主旨|広い開口部からつながるスタジオ空間

楠元 工芸スタジオチルコロは等々力駅から徒歩8分程度に位置し、目黒通りと前面道路に挟まれた三角洲のような区画にあります。すでにオープンされているスタジオ(陶芸教室チルコロ)の隣が空き店舗となり、スタジオの拡大とともにタイミングが重なり、2号店の位置付けで計画が進みました。

松島 新しいスタジオは陶芸と金継ぎの会員プランがメインとなります。スタジオの性格は違うものの、従来の陶芸教室とのつながり、親和性のあるデザインにしたいと、楠元さんにお願いしました。陶芸教室チルコロに入ってきて皆様が喜ぶのは光が入ってきてすごくいい空間ということ。陶芸というのはわりと内に向く行為ですが、その中で光が差し込むというのはメンタル的にも大事なポイントです。それもあり、新スタジオでもできるだけ光を取り込める空間にしたい思いがありました。

楠元 従来スタジオとのつながりや、光の取り込み方を考えた際、キーとなったのは開口部(エントランス)の構えでした。南面の通りに対してスタジオの空気感を通りに対してきちんと示すこと、どなたに対してもウェルカムな設(しつらえ)にすることを考えました。既存のサッシは撤去し、木製建具を親子扉で新設し、ガラスを通してスタジオ空間が見通せる透明感がある空間を目指しました。

工芸スタジオチルコロの写真4

右側の茶色の窓枠部分が従来の陶芸教室チルコロ。左側が今回改修した工芸スタジオチルコロ。南面から両スタジオに気持ちの良い光が差し込む

工芸スタジオチルコロの写真5

基本設計時のパース。開口部から設計イメージを膨らませていったと言う楠元さん

工芸スタジオチルコロの写真6

既存のサッシを撤去し新設した開口部。大きなガラスとグレーの木枠、木製の親子ドアの組み合わせが印象的

素材と仕上げ|陶芸との親和性 左官仕上げのモールテックスとタイル

楠元 陶芸、金継ぎは土や漆などの天然素材からひとつひとつ手を加えていき、作品を完成させていきます。言い換えれば、土から作る、大地からの恵みを享受する行為だともいえ、使用する素材もなるべく自然由来のものを目指しました。

開口部の枠や壁にはモールテックスという左官素材を使用しています。モールテックスはモルタルに近い風合いをもち、耐水性・耐久性にも優れた鉱物性の左官塗り材です。素地から複数の工程を丁寧に積み重ね、職人さんにより仕上げていきます。仕上がりや色むら、塗むらなどで不揃いな表情になり、空間に奥行きを持たせることが可能です。

工芸スタジオチルコロの写真7

開口部の壁、枠のグレーのモールテックス仕上げ。色むらや塗りむらの不揃いな質感が魅力。真鍮の照明やサイン、木製ドアと表情が調和している

楠元 上述のように空間も陶芸の行為と親和性の高いものにしたいと思った際、左官仕上げと共にタイルという素材もとてもマッチしました。陶芸もタイルも広い意味では同じ焼き物です。タイルをどこかで使いたいと考える中で、空間中央にある壁をエントランスから入った時に視線を受け止めるアイスポットとしてタイル仕上げにすることを提案しました。

工芸スタジオチルコロの写真8

タイルの採用経緯|一円相のもつ優しい表情に魅力

松島 タイルは私が選びました。様々なサンプルを取り寄せて、見比べた中で、一円相にしました。陶芸では仕上げとして釉薬を使うのですが、その色は多岐にわたります。スタジオが稼働して、生徒さんが様々な作品をつくると、その分だけ釉薬が使われ、器や釉薬サンプルとして空間に色が増えていくのが想像できました。

工芸スタジオチルコロの写真9

様々な色の釉薬で彩られた器 チルコロ instagramより

そのカラフルな空間の中でも、かち合わないタイルがいいと思っていた時、一円相の色味と質感はとても素晴らしいと思いました。

一円相は釉薬の質感が一つ一つ違いながらも、全体的な統一感があり、優しい表情があります。空間を優しく包み込んでくれる母のような雰囲気が一目で気に入りました。面状と色味は2パターンあり、結果的には明るい色味の方が空間を照らしてくれると思い選びました。

工芸スタジオチルコロの写真10
工芸スタジオチルコロの写真11

一円相の表面をよく見ると、ぽつぽつとした表情がありました。これは焼き物特有の焼成後に土の成分が表面の釉薬に染み出たものだと見てわかりました。この仕上がり感は陶芸をやっている身からすると魅力的でした。

陶芸の最後の工程は器を窯に入れて火にかけます。焼きあがりはその時の窯の状況や器の状態、温度湿度などで変わります。その部分を人がコントロールすることは難しく、火にゆだねるということになります。火にゆだねて出来上がったときの表情の良さ。つやや色のばらつき、凹凸の質感など不揃いなものであることの魅力がこのタイルには詰まっていると思いました。

タイルの設計テクニック|タイルの魅力を引き出す見切り材と目地

楠元 本スタジオでは金継ぎのワークショップも行われるということで、金の素材や色味を空間のアクセントとしました。具体的には開口部の照明や、ドアのハンドル、クローザーです。タイルの見切り材もそのつながりを持たせ、金色の真鍮にしました。エントランスから入った際に金の縦のラインが目に入り、空間にシャープさを持たせるように設計しました。

工芸スタジオチルコロの写真12

模型上のタイルの金の見切り材。意図をもって配されているのがわかる。(模型提供:ayarchitects)

工芸スタジオチルコロの写真13

実際の見切り材。優しくもシャープにタイルの印象を引き締めている

実際、金の見切り材にしたことで、壁のタイルが強調されながら、輪郭を作ってくれています。目地の色味はタイルと同系色のベージュにし、目地幅も細めにすることで、バランスをとりました。

工芸スタジオチルコロの写真14

スポット照明をうけた一円相。金の見切り材とベージュの細目地を組み合わせることで、タイル一枚一枚の生きた表情がより豊かに見える

見切り材と目地を工夫することで、タイルの光の反射や陰影、立体感、色味の表情が一層印象深くなりました。これこそがタイルの面白さだと改めて感じます。この壁が、スタジオを優しく見守る大樹のような存在になれればと思っています。

工芸スタジオチルコロの写真15

松島 完成して、想像以上の空間になっていてうれしいです。楠元さんの感性が陶芸やタイルの良さを理解して、優しくも華やかな空間にしてくれました。スタジオ名のチルコロとは、イタリア語で輪、循環という意味です。この素敵な空間で陶芸や金継ぎなどの創作活動ができることをありがたく思います。

使用商品

タイル:一円相(いちえんそう) / DTL-125/ENZ-1
https://www.lixil.co.jp/lineup/tile/designers_tile_lab/design/yakimono_diversity/ichiensou.htm

装飾見切り材:壁見切りL / SM-2700L/PG-10N
https://www.biz-lixil.com/product/tile/548/

松島 沙蘭(まつしま さらん)
楠元 彩乃(くすもと あやの)

松島 沙蘭(まつしま さらん)

1983年東京都生まれ。スタジオチルコロ主宰。
青山学院大学卒業後、商社や広告制作会社勤務を経て2013年よりフリーランスで企業プロモーションのプロジェクトマネージャーとして国内外の展示会やイベント運営に携わる。同時に、幼少期より陶芸や彫刻をする父の影響から陶芸を志し、京都芸術大学陶芸専攻(通信)を卒業。複数陶芸教室勤務を経験し、2021年7月に陶芸教室チルコロ等々力店、2023年6月に駒沢店をオープン。
HP: www.ceramic-circolo.com

楠元 彩乃(くすもと あやの)

1988年東京都生まれ。ayarchitects主宰。
早稲田大学、大学院(教育学)修了後、2019年横浜国立大学大学院Y-GSA修了。妹島和世建築設計事務所、佐野健太建築設計事務所を経て、2023年ayarchitectsを主宰。主な受賞歴にJIA神奈川学生卒業制作コンクール金賞、横浜国立大学大学院Y-GSA山本理顕賞受賞など。
HP: https://ayarchitects.my.canva.site/
instagram: https://www.instagram.com/ayarchitects_/

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