DTL INTERVIEW麻布十番 イタリアンカフェレストラン ROMANO DUE
採用タイル:マルモア、トリロジーNX
ブラック&ホワイトのコントラストを大理石調タイルの存在感で魅せる
設計:848Design 代表 橋谷 昇 / デザイナー 中村 晴菜
左:848Design 代表 橋谷 昇 / 右:デザイナー 中村 晴菜
壁には採用されたタイル:マルモアが写る
設計主旨|系列店の空気感を継承したコントラスト空間
はじめに
イタリアンカフェレストランROMANO DUEは麻布十番に拠点を構えるシティダイニングの手掛けるイタリアンレストランです。シティダイニングは親会社:不動産会社シティホームズの物件に入居し、数々の飲食店を展開してきました。848Designはシティダイニングとのご縁でこれまで焼肉店、居酒屋業態などの設計をしてきました。
今回のお店は麻布十番にあるシティホームズの新築商業ビル1Fに計画されました。敷地には以前マンションがあり、そこでシティダイニングがマリトッツォ※の期間限定店をやっていた経緯、同じ界隈でイタリアンバル ROMANO 麻布十番があることなどからイタリアン業態2号店を構想していました。
※イタリア発祥。軽い食感のパンに生クリームをたっぷりと挟んだ伝統的なお菓子
土地特性、レストラン事業のコンテクストから紐解く
シティホームズは本社のある麻布十番の活性化を非常に考えています。その中で、マリトッツォショップは地域の方の印象に残りました。真っ白な店舗デザインと開放的な雰囲気に散歩途中に立ち寄る方も多くいました。麻布十番は土地特性として、隠れ家的でダークな色調のお店が多いこともあり、その対極的なイメージが良かったのかもしれません。
MARITOZZO ROMANO
一方、先にオープンしたイタリアンバル ROMANO 麻布十番は落ち着いた雰囲気でお酒と本格イタリアンを楽しめるお店。深夜まで営業し、シェフとの会話も含めて夜の時間をゆっくり過ごせる場になっています。常連のお客様も多く、地域に根差しています。
イタリアンバル ROMANO 麻布十番 http://848.jp/works/202201.htmlより引用
マリトッツオショップの「カジュアルさ、開放感、白」とイタリアンバル ROMANO 麻布十番の「落ち着き、重厚感、ダークさ」、麻布十番という土地、お客様への居心地よさの提供、これらをどのように紐解き、空間を組み立てるかがポイントでした。
設計コンセプト -ブラック&ホワイト コントラストの表現-
建築構造、インテリア的に言うと、マリトッツオショップはスケルトン構造に白塗りしたミニマルでモダンな表情。イタリアンバル ROMANO 麻布十番はヨーロッパ風のクラシックな空気感。家具も木を基調としたしっかりとしたつくりでした。
そこで、相反する要素を入れたコントラストの表現にするアイデアが浮かびました。白と黒、明るさと落ち着き、昼と夜。
これらをコントラストとしてデザインすることでイタリアンバル ROMANO 麻布十番らしさとマリトッツオショップを継承した空気感の表現を目指しました。外観からも白と黒を感じさせ、内観もカウンターは白、テーブル席は黒としました。
外観 白と黒のコントラストが目を惹く
内観 カウンター席は白、テーブル席は黒のコントラストに
マテリアル | 本物の大理石のよさを表現したタイル
ピザと大理石とタイル
空間コンセプトとともに、提供料理はイタリア出身の職人が石窯で焼く本場のピッツァを看板メニューとし、昼夜営業するスタイルと決まりました。本場ピザをつくるうえで、大理石はかかせないものです。イタリアではピザ生地をこねる台として古くから大理石が使われてきました。そのため、厨房のカウンタートップで大理石を使うことは当初から決まっていました。
マテリアルは大理石を基点に、品のよい質感のあるものを選びました。その中で、本来は本物の大理石を使いたいが難しい箇所(壁面やカウンター下の壁)があり、そこにLIXILのタイル、マルモアとトリロジーNXを採用しました。
本物の大理石には自然物ならではの質感がありますが、一方で色柄の個体差が大きく、イメージと合わない柄を引き当てるリスクもあります。特に、今回のような大空間ではない店舗では、使用面積も限られるため、大理石を選ぶ手間やコスト、納期などが折り合わないことが多く、悩ましいのが現実です。
そこで大理石調のタイルが選択肢に入ってきます。本物ではないが、高度なプリント技術や表面仕上げで、大理石調を表現したタイル。従来までは技術が追い付かず、どうしても色や光沢が本物と異なり、ぬめっとした印象でしたが、今回はLIXILのマルモアとトリロジーNXを見てその質感に驚きました。
壁面:マルモア
カウンター壁面:トリロジーNX
本物の大理石と同等の光沢感、色柄のよさ
マルモアとトリロジーNXにはこれまでの大理石調タイルにありがちな光沢感のムラがありませんでした。本物と同等のフラットな光沢感で、いいなと思いました。
色もコントラスト表現として黒と白のタイルを選定したのですが、特に黒の発色がよかったです。印刷技術が上がり、しっかりとしたシャープな深みのある黒になっていました。いわゆる印刷にありがちなビニールがかったような薄っぺらさ、濁った感じがなかったので感心しました。
石柄も印刷の良さが出ていていました。本物でよい石柄部分をセレクトし、印刷されているので、色柄が想定とは違うというハズレの感覚がなく、安心して、柄を含めたデザインができました。
数年前であれば、半ば諦めていた大理石調タイルの質感がここまで進歩しているのは驚きであり、同時にありがたいと思いました。
600角の大判で仕上げましたが、色柄がダイナミックで存在感がありながらも、品のある空間を演出してくれています。
マルモアの表情。フラットな光沢感、ダイナミックながら深みのある色柄。ピザ窯がきれいに映り込む
施工性の良さと照明演出
タイルでは、本物の大理石では難しい施工上のメリットもありました。600角の大判で壁面を仕上げようとすると、大理石の場合、厚み、重みがあるため、石仕上げ用の強い構造や下地を想定する必要があるのですが、タイルの場合は、通常のLGS構造のボード仕上げ程度で対応可能です。
タイルを張り付けた上に、照明の設置もでき、今回もそのメリットを生かしました。テーブル席やハイテーブル席のタイルには、席の良さ、場の雰囲気が出るようにアクセントとして照明を配置しました。タイルにはちょうどその照明や店内がきれいに映り込むので、いい風景ができたと思っています。
照明とタイルの組み合わせ。照明のあたたかさやタイルへの映り込みがあらたな風景をつくりだす
タイルの可能性
今回は本物の大理石に近い質感や色柄といったリアルさの追求としてタイルを選びました。それも一つの方向性ですが、逆にタイル独自の質感表現、自然界にはない色柄といったタイルが出てきたら、設計者としてはアイデアの幅が広がります。このタイルをどう使うか、試されている感じがして、おもしろくなりそうだと思っています。
マルモア / DTL-740/MRM-3P https://www.lixil.co.jp/lineup/tile/designers_tile_lab/design/super_real/marmor.htm
トリロジー NX / DTL-600/TLN-2P https://www.lixil.co.jp/lineup/tile/designers_tile_lab/design/super_real/trilogy_nx.htm
橋谷 昇
1973年東京都生まれ。1997年東京造形大学デザイン学科卒業。藤江和子アトリエを経て、2003年ホワイトベース共同設立。
2006年848Design設立。
中村 晴菜
1988年東京都生まれ。2010年東洋大学人間環境デザイン学科卒業。848Design入所。
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