柘植審査委員長総評

昨今の情報通信分野の飛躍的な進歩は、私達の社会に産業革命以来の変革期をもたらしている。デジタル・テクノロジーは様々な分野にイノベーションを興し、建築分野でもBIMによる情報管理、AIによる通信、移動など情報処理が加速する。デジタルツインと呼ばれる仮想空間の操作により、企画設計管理運用業務は専門化・細分化されていく。一方でオープン・イノベーションが注目されはじめている。専門特化した企業内、業界内の枠を超えて、他社や大学、地方自治体、社会起業家など異業種が自由に参加するプラットフォームは、異分野が持つ技術やアイデア、データ、知識などを組み合わせ、革新的なビジネスモデルから製品開発、ソーシャルイノベーションまで仮想空間に生み出している。
翻って実空間を見ると、そこには様々なモノ、人が集まり、異質なものが混在することで化学反応を生み、新たなイノベーションが生まれる潜在性があるものの、情報通信革命の影に隠れた感は否めない事実だ。
本年度のコンテストの応募作品には、こうした現代のデジタルコミュニケーションにより細分化され孤立していく要素を、もう一度実空間の中に繋ごうとする作品が散見された。特に生産と消費、地域と個人、自然と都市など異なる要素を実空間の操作により繋いでいく空間コミュニケーションに焦点を当てた作品が際立った。
新しい社会制度に対応するデザインは更新しなければならない。これを見抜いて、土地利用、施設用途、建築、デザインを再編集しようとする作品であり、社会的意味において、建築内外の要素・用途を検証してそれらを繋ぐ開口部のありようを提示した。グランプリと大規模・小規模金賞作品はデジタルテクノロジーの進展により分断され孤立していく現代社会の諸相をもう一度繋ぎ直す空間操作であり、とりわけ開口部に於ける最先端なデザインとして未来のフロント材の可能性を強く示唆する時代を画した功績として高く評価したい。

小規模施設部門

大規模施設部門

特別賞