ヘザー・ブラッキンさん 水と暮らしの関わりを
インタビュー!

私のインテリアのベースにあるのは
ベルギーの暮らしで
見てきたものです

ヘザー・ブラッキンさんホームスタイルプロデューサー、住空間収納プランナー

ヘザー・ブラッキンさんインタビュー前編

イギリス人の父と日本人の母の間に生まれ、イギリス、ベルギー、ドイツに暮らし、感性を磨いてきたヘザー・ブラッキンさん。子供の頃から家の建築やインテリアに興味があり、その仕事に携わる今、彼女が発信するのは、日本に住みながらも海外のような素敵な部屋を実現する方法。メゾネットタイプの自宅を訪ね、ヘザーさん自身のインテリアスタイルを覗かせてもらうことに。

東京、多摩川の土手から数ブロック離れた場所にある、メゾネットタイプの集合住宅。エントランスからは、まるで南仏の町のような蜂蜜色の家が並んでいる。路地伝いに歩いて行くと、ローズマリーの鉢が置かれた家の扉が開いて、ヘザー・ブラッキンさんが満面の笑顔で出迎えてくれた。午前中の日差しがたっぷりと差し込む2階のリビング。窓辺に置かれたソファ、クッション、アンティークの木のテーブル、洋書、鉢植えのグリーン、カゴに重ねられたリネン、さり気なく置かれた石や貝殻・・・。グレーからベージュのグラデーションで統一された空間は、思わず見入ってしまうほど素敵な要素に溢れている。そして何より、居心地がとても良い。インテリアを語るうえで、最上級の褒め言葉として「外国の家みたいな」という形容詞を使うことがあるけれど、ここはまさにその通りだ。

インテリアの基礎となったもの

イギリスの大学でインテリアを学び、卒業後はベルギーのインテリアデザイン事務所で働いていたヘザーさん。現在はホームスタイルプロデューサーとして雑誌やウェブ、インテリアの現場で活躍している。インスタグラムで日々投稿される自宅のワンシーンを納めた写真とキャプションは、インテリアのアイデアと共に、季節や暮らしの様子も伝わってきて、見ている人を心豊かにする。その写真をもとに彼女ならではのインテリアの法則をまとめた『ふつうの住まいでかなえる外国スタイルの部屋づくり』という著書が、4年前に出版された。「インテリアの垢抜けテクニック50」とサブタイトルのついた本は、考え方から具体的な実践のコツまで、日本の住宅事情にジレンマを感じる読者に希望の光をもたらしている。

インテリアの基礎となったもの イメージ1

ヘザーさんの提案するインテリアのアイデアは、古いものを大切にしながら新しいものも取り入れ、良質なものを生かしながらも、気軽に手に入る値段のものも日々の暮らしのなかで活用するというもの。彼女のインテリアの基礎を育んだのは、ベルギーでの暮らしやそこで見たものだったと言う。イギリスではアンティークというと、すべてがそれで統一されていたが、ベルギーでは何百年もたつアンティーク家具がモダンな家に置かれていた。その経験から、コントラストを組み合わせる大切さを知った。さらに自然界で見つけた自分だけの「宝物」やDIYで作ったものなど、さまざまなアイテムがひとつのセンスのもとに集められ、住まいのスタイルが出来上がる。

インテリアの基礎となったもの イメージ2

色と質感の両方が大切

家に足を踏み入れて、最初に感じるのは「色」。著書の第1章は「自分の色を見つけることが、インテリア上手になる一歩」と始まる。ヘザーさんの「色」はグレーと白。その延長線上にある靄がかかったようなグレイッシュなトーンの色が好きで、インテリアも服もそのニュアンスに揃えていることから、「ヘザー・カラー」と仲間内では呼ばれるほど。玄関ホールと仕事部屋のある1階、リビングダイニングとキッチンのある2階、ベッドルームのある地階は、白とグレーのニュアンスカラーで統一されている。

ヘザーさんがご主人とこの家に住み始めたのは20年前。戸建とマンションの良さを併せ持つメゾネットタイプの家の住み心地はとても良いと言う。ただ当初は日本の建売ならではの、ある意味「普通」のインテリアだった。そこはインテリアの専門家、どんどん手を入れて今がある。

色と質感の両方が大切 イメージ1

白一色だった壁は、ペイントや壁紙でグレーをアクセントに入れた。「白とグレーは色じゃないと思う人もいますが、白もグレーも限りなくニュアンスがあります」。その微妙な彩りが好きで、家の中の色として組みわせて使っている。よく見るとリビングの壁は白だけではなく、陰影のようにベージュを数滴落としたようなニュアンスで変化をつけている。見事な計算。壁の色で部屋が引き締まったり、広がりが生まれたりするのだとか。ただ「色だけではフラットになってしまうから、質感にも変化が必要」と言う。質感が生み出す「生き生きとした感じ」がインテリアには大事なのだと。

色と質感の両方が大切 イメージ2

買うより、作るという考え方

「壁を塗るのはハードルが高いのでは?」と問うと、「とにかく小さいところからでも塗ってみるといいですよ。器用でなくてもできますから」。ヘザーさんのDIY魂は、父の影響によるところが大きい。「イギリス人の父はいつも何か作っていました。まず自分でやるのが当たり前。買うより、作る」。その考え方が彼女の中にも根付いている。2階への階段は塗り直しのためにサンディングされている途中だったり、作業部屋ではペンキを塗ったばかりのデスクが乾燥中だったり、現在進行形のリフォームの過程が各所にある。

ヘザーさんの本の中には、「ペイント・パーティを開き、友人を集めワイワイと壁を塗る」といったアイデアもある。作業のあとには、手伝ってくれたみなさんを手料理でもてなすという企画だ。インテリアに限らず、料理やお菓子作りも、暮らしの中の「手間」を楽しみながら。そんな考えのもと、DIYで常に手を加え続けているだけに、この家は住んできた年月による老朽化がまったく感じられない。

買うより、作るという考え方 イメージ
撮影/名和真紀子 取材・文/山根佐枝 取材日/2021年2月4日
ヘザー・ブラッキン

ヘザー・ブラッキン

ホームスタイルプロデューサー、住空間収納プランナー
東京生まれ。東京のインターナショナルスクールを卒業後、イギリスの大学でアートを専攻。インテリアデザインの知識を深め、卒業後はベルギーのインテリアデザイン事務所に就職。2000年に帰国後は、フリーランスでインテリアカウンセリングや収納コンサルティングなどを行う。雑誌の企画や連載、執筆も手がける。アメリカで最大の住宅関係ウェブサイト「Houzz」の日本版の記事を担当、コントリビューターとしても活躍する。