三ヶ島真由美さん 水と暮らしの関わりを
インタビュー!

「インテリア」という言葉を知らない
子供のころから
家のデザインを考えるのが大好きでした

三ヶ島真由美(みかしままゆみ)株式会社IRIDARE代表取締役

三ヶ島真由美さんインタビュー前編

都内にそびえるタワーマンションをはじめ、数多くの個人宅や別荘を手がけてきたインテリアデザイナー、三ヶ島真由美さん。「住まう空間」という、人生において大切な場を整える仕事を、丁寧に見事に仕上げる姿勢。その根底にある思い、そしてこれまで歩んだ道筋はとても興味深い物語です。

横浜市北部、住居、職場、農業が一体となった街づくりをテーマに60年代に計画され、80年代から90年代にかけて開発が進んだ港北ニュータウン。月日は流れ、種を蒔いた土地に植物が成長するかのごとく、街は実りを結んでいる。その中に広がる住宅街の一角にインテリアデザイナー、三ヶ島真由美さんの家はある。ドアベルを鳴らしエントランスホールに入ると、インテリアの本を開いたかのような素敵な空間が目の前に現れた。大きな窓から差し込む光が天井から下がるテキスタイルを透かし、ダイナミックなモチーフを浮き上がらせている。正面にはアンティークのミシンがアートピースのように佇む。

プロフェッショナルの住む家

すぐ右手のリビングダイニングから、よく通る明るい声が聞こえ、黒いラブラドールレトリバーが歓迎の挨拶に走り出してくる。シームレスに繋がった奥のキッチンに三ヶ島さんの姿があった。ダイニングの外にはテラスが続き、隣接した公園の緑が借景となって、まるで森の広場の一軒家のようだ。三ヶ島さんは、家の中を案内しながら、こちらの興味に応えるかのようにリズミカルな口調でインテリアの説明や品々のエピソードを話してくれた。

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チャコールを基調にしたシックなインテリアは、リビングの赤い壁やそこに飾ったオーナメントの有機的なフォルム、ところどころに置かれたグリーンの鉢や柔らかな灯りで、「ぬくもり」というエッセンスが加えられている。さらにソファに並んださまざまな個性のクッションが「楽しさ」を添えている。クッションカバーコレクションは、なんと80枚以上もあるのだと、三ヶ島さんは笑いながら教えてくれた。

プロフェッショナルの住む家 イメージ2

エントランスの左手にある仕事部屋は、「白」の世界。壁、棚、デスク、ウッドシャッターを白で統一。ただしドアから入って正面の壁にはエルメスの壁紙が貼られ、天井は爽やかな紫。内側が金色の巨大なランプシェイドをはじめ、スタイリッシュな冒険心がこの空間で絶妙に調和する。さすがはプロフェッショナルの住む家、どこを見回してもさり気ないセンスの良さに溢れている。インテリアデザインの仕事を天職とする三ヶ島さん。そのキャリアはどうやって始まったのだろう。

プロフェッショナルの住む家 イメージ3

「家のことを考えるのが好き」
という気持ちから

「古い日本家屋に住み、インテリアデザインなんて皆無の環境に育ったのですが、覚えている3つのことがあって」と幼少期の思い出を語ってくれた。ひとつは、土曜日の新聞に入る不動産のちらしの平面図を眺めては、「これが自分の家なら、ベッドやソファはどこに置こうか」など、描き込んで遊んでいたこと。ふたつ目は、近所の手芸屋で大切なお小遣いを使ってギンガムチェックの端切れを買い、畳のヘリに巻いて自分の部屋を「洋風化」しようと試みたこと。3つ目は、デパートで母の買い物を待つ間、近くの住宅展示場でゴージャスな家を見て回っていたこと。

「家のことを考えるのが好き」という気持ちから イメージ1

思わず笑いを誘う可愛らしいエピソードだけれど、三ヶ島さんのインテリア熱は、子供の頃から筋金入りだった証拠。さらに「お家のデザイン」に心奪われるきっかけとなったのが、小学校の低学年の時に見た映画「ゴッドファーザー」のワンシーンに登場したウッドシャッターだった。「震えるほど感動しちゃったんです!」と、一瞬、そのときの少女のような純粋な表情になる。インテリアコーディネーターという職業さえ知らなかったけれど、「自分は家のことを考えていることが好き」という気持ちはその頃からずっと変わらない。

「家のことを考えるのが好き」という気持ちから イメージ2

短大を卒業するタイミングに日本経済はバブル期を迎え、大手企業の電気メーカーに難なく就職。そこに2年間勤め、潤沢に支払われた給料を資金に、再び学校に戻ることを決意する。実は短大では生活文化学科を専攻。「食、衣を含めて、住を学べたことが、今の仕事の考え方のベースに繋がっているかもしれません」と振り返りつつも、プロフェッショナルな住の知識を深めるべく都内の専門学校ICS(インテリアセンタースクール)のインテリアデコレーター科に通ったのだと言う。課題をこなすためには、徹夜も当たり前だったという密度の濃い1年を経て卒業した。

「家のことを考えるのが好き」という気持ちから イメージ3

「23歳。4年制大学の新卒とさほど年齢は変わらない」という意気込みがあった。世の中はバブル崩壊で就職氷河期に入っていたが、幸いハウスメーカーで能力を活かせる職に中途採用が決まった。いよいよ憧れの世界にと思いきや、配属の関係で春の入社予定が秋へと延期された。

アルバイトをした寺の住職から
教わったもの

一喜一憂で揺れ動いた20代の日々。突然ぽっかりと空いた5か月間の出来事は、のちに人生の心の拠り所となる経験だったのかもしれない。三ヶ島さんは北鎌倉のお寺で短期のアルバイトを始める。四季折々の庭園の美しさで有名な場所。御朱印を書く仕事や拝観料をいただく仕事、それに加えて住職から言われたのは、「毎日、決まった花の絵日記をつけること」。来場者がないときは、書道、華道、茶道のうちのどれかを住職に習った。

アルバイトをした寺の住職から教わったもの イメージ1

27年前を懐かしむように三ヶ島さんは話を続けた。7月が誕生日の彼女は、「一週間、京都に行ってらっしゃい」と送り出され、「何年かに一度の御開帳に予約を入れてくださったり、いろいろなものを見せていただきました」と。その頃から寺や仏像への興味も増したと言う。9月になる直前、浮世離れした世界に心地よさを感じて「ここでずっと働かせてください」と住職に言うと、そのときばかりはきっぱりと断られた。「『あなたはもっと世の中に揉まれなくてはならない。いつか戻ってきてもいいけれど、居付く場所ではない』と」。

アルバイトをした寺の住職から教わったもの イメージ2

「満月の夜に、閉門したお寺の庭を見ながら、働いていたみなさんと一緒に精進料理でお別れ会をしていただいて、号泣しながら帰りました」。言葉の端々に三ヶ島さんの実直さや、人懐っこさが感じられ、そんな彼女への住職の気持ちも伝わってくる。

撮影/名和真紀子 取材・文/山根佐枝 取材日/2021年8月10日
土屋由美

三ヶ島真由美みかしままゆみ

株式会社IRIDARE代表取締役
デザイナー・二級建築士
大手ハウスメーカー、デザイン会社を経て独立。
個人邸を中心に、これまで2000件以上のインテリアデザイン、コーディネイトに携わり28年。主にマンション、戸建、別荘を手がけるほか、企業の企画等に参画するなど、多岐に渡って活躍。プライベートでは、大学生の息子、高校生の娘と5歳になる黒いラブラドールレトリバーの母。