こんにちは、PINT代表の中地です。
これまでのコラムでは木やリネンの素材、コーヒー関連の道具をご紹介してきましたが、今回のテーマはPINTでも人気のある「打ち刃物の包丁」です。
そもそも「打ち刃物って何?」という方も多いかと思うので、製法や材質の違いなど細かくご紹介したいと思います。
包丁の伝統的な製法、打ち刃物とは?
包丁の製法は、大きく「打ち刃物」と「抜き刃物」に分けられます。
量産品の包丁は抜き刃物といって、金型で抜いて成型することでコストを抑えた、大量生産に向いた製法です。
一方、打ち刃物は日本刀の製造方法から受け継がれた製法で、一点一点打ち鍛え、成型します。一般的にイメージされる、ハンマーで叩いて作る鍛冶職人の仕事です。ひとつずつ製作するため、価格は高くなりますが、自由度高く形を作ることができます。
PINTでは、山形の島田刃物製作所に製作を依頼して、オリジナルの包丁を作っています。山形打ち刃物は、武具や農具から始まり、650年もの歴史を持つ伝統工芸。使う人によって農具のサイズや刃の形をカスタマイズしたりと、生活に寄り添い使われ続けてきました。
写真の左から、包丁が出来上がるまでの工程です。炉で熱し、地金に鋼を付ける鍛接を行い、包丁の先の形をつくり、鍛錬します。ハンマーで叩く工程は、素材の不純物を外部に放出し、さらに素地を細かく整えるため。これにより、刃物が強くなるのです。
「鍛造」という名の通り、金属は叩くことで「鍛える」ことができます。刃の強度が増すと、たくさん、そして長く使える包丁になります。
島田刃物製作所について
島田刃物製作所は、山形県山形市内にある小さな打ち刃物の工場。島田さんご一家で営まれています。PINTが行っている「みんなのどうぐ」プロジェクトで「たがる包丁」の製作をご一緒してから、ほかのさまざまなアイテムの製作も依頼しています。
今回のコラムで使用した写真は、直接工房にお伺いした際に撮影させていただいたもの。刃作りから柄付けまで全工程を手掛けられるので、仕様の細かな相談も製品に反映させてくださいます。また、お客様のご購入後の研ぎや修理などの対応もしてくださる、頼れる作り手です。
本格的でありながら、日常で使いやすいサイズの打ち刃物
PINTでは、「毎日使える打ち刃物の包丁」をテーマに商品を展開しています。包丁はほとんどの方は既にお持ちで、日常的に使っている道具。比較してみないと違いも分かりにくいので、なかなか買い替える機会がないですよね。
PINT「たがる包丁」
こうした理由から、PINTで一番最初に作ったのは小さなサイズの包丁(たがる包丁)。「メインの三徳包丁はみなさん既に持っているので、二本目の包丁として、まずは使ってもらい、違いも感じてもらえたら」という考えでした。
「毎日使える」には、使い心地の良さはもちろんですが、メンテナンスの手間がかかりすぎないことも大事。PINTの包丁では、刃には良質の鋼を使い、刃を支える地金には一般的な鉄ではなく、扱いやすいステンレスを使うことにしました。
また、出刃包丁を除いてですが、利き手を選ばずにみなさんが使い慣れている両刃を採用しています。
牛刀にも出刃包丁にも使える、打ち刃物の種類と用途
PINTでは、たがる包丁のほかにも文化包丁(三徳包丁)、牛刀、菜切り包丁、出刃包丁、小さな包丁(ペティナイフ)など、たくさんの種類を作っています。出刃包丁だけは片刃で地金も鋼、ほかは全て両刃仕様です。
PINTの包丁で特徴的なのは、木の柄部分もすべてオリジナルなこと。通常、木の柄は既製のものを合わせることが多いですが、この包丁は島田刃物製作所さん自ら木材を削り製作してくださっています。刃自体は本格的ですが、いわゆる和包丁という感じではなく、ナイフのような雰囲気を持ったバランスが特徴です。
メインの包丁としておすすめなのが「鍛冶職人の包丁」
文化包丁(三徳=肉・魚・野菜)、牛刀(肉)、菜切り(野菜)、出刃(魚や硬い食材)など、調理時の用途まで想定し、それぞれの理に適った刃の大きさや厚みになっています。ただ、便宜的に区分されているという面もあるので、お好みのものを使っていただけたらと思います。
今は大きな野菜も丸ごとではなく半分にカットされていたり、家族構成からも少量の調理が多かったりするので、文化包丁よりもやや短く、刃の幅も小さくて小回りの利く牛刀のみを使うという方もいらっしゃいます。
打ち刃物の包丁のお手入れは?
打ち刃物の包丁には取り扱いに特別なことはありません。
イメージしやすいように、一般的な抜き刃物のステンレス包丁と比べて紹介します。
使用後はステンレス包丁と同じく、洗剤を使って洗えます。ただ、刃の部分が鋼なので、錆び付かないよう水気は布巾などで拭き取ってください。木の柄の場合は、この部分も水気は残さずに。
次に「研ぎ」ですが、使う人の感覚と使用頻度などによってさまざまです。こまめに研ぎたいという方もいれば、数年研がずに使い続けているという方も。もちろん研げば切れ味は上がりますが、私自身も数年研がずに使い続けている包丁があります。
たがる包丁のような特徴的な形状の包丁もありますが、ご自身でも研ぎやすいよう、刃の部分は真っ直ぐにしています。また、自分で研がずとも、お近くの研ぎ屋さんやホームセンターの研ぎサービスを使うのもひとつの手。もちろん、島田刃物製作所さんでも研ぎを行っていますし、刃こぼれのある場合などは可能な限り修理対応してもらえるので、安心して長くお使いいただけたらと思います。
実際に触れることで、伝統的なものづくりへの入り口に
打ち刃物と抜き刃物の違いは、見た目だけではあまり分からないと感じられる方も多いように思います。使い心地はお好みがありますが、量産技術の発展の一方、長く続けられてきた打ち刃物の製法や素材にはやはり意味があります。
いろいろとご紹介させていただきましたが、やはり情報だけでは違いは分かりにくいもの。ご興味がある方は、ぜひ一度、使って試していただけたら嬉しいです。
文中に何度か出てきた「たがる包丁」は、2015年に「みんなのどうぐ」という取組みで生まれたものでした。打ち刃物について、ほとんど知らない10名ほどのユーザーさんたちと、打ち刃物を勉強し、打ち刃物の特徴を知って、毎日使える包丁を考えました。
誕生以来今もPINTの定番商品として、たくさんの人に選んでいただき、打ち刃物の包丁の存在が少しずつ知られてきています。
PINTでは打ち刃物に限らず、天然素材や伝統的な製法のものづくりへの「入口」としての役割を担えたらと思っています。道具を使う時間や暮らしのシーンが楽しくなることはもちろん、知的な発見や喜びも感じていただけたら嬉しいです。
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