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ベルリン・モダニズム集合住宅と変貌を遂げるダッチデザイン国・オランダ

INAXタイルコンサルティングルーム大阪 オンラインセミナー

安藤眞代(インテリアデザイナー、studio Ma 代表)

安藤眞代
安藤眞代

世界文化遺産に指定されているドイツ、ベルリンのモダニズム集合住宅。20世紀初めにブルーノ・タウトとその仲間たちは、新しいデザインと機能性を併せ持つ建築を生み出しました。オランダでは近年、ロッテルダムやアムステルダムに建築家集団MVRDVなどが手掛ける現代的な建築物が多く建てられています。その建築デザインはダッチデザインを継承しつつも大胆でありユニークです。

海外デザインを長年ウォッチされているインテリアデザイナーの安藤眞代さんに、現地訪問した街の印象も含め、ヨーロッパ二か国のデザイン事情についてお話いただきました。

注)安藤さんが二か国を訪問されたのは新型コロナウイルス感染拡大前の2017~2019年になります。

セミナーは新型コロナウイルス感染防止のため、「ZOOM」を活用したオンラインセミナー形式にて開催されました。

世界遺産「ベルリンのモダニズム集合住宅群」

ベルリンには世界遺産に指定されているモダニズム集合住宅群が6ヶ所あります。その多くが1920年代後半から1930年前半、ドイツがまだワイマール共和国だった頃に建設されました。設計に携わったのはブルーノ・タウト、ハンス・シャロウン、バウハウスの初代校長ヴァルター・グロピウスといった有名な建築家たちでした。ベルリンは20世紀になって急速に人口が増えたため、労働者、低所得者向けの公営住宅として計画されたものでした。6つの公営住宅は建築自体の評価はさることながら、のちの世界の集合住宅における様式に大きな影響を与えた点でも高く評価され、世界遺産に指定されています。

―ブルーノ・タウト「ジードルング・シラーパーク」(1924-1930)

今回私はこの中の2ヶ所の集合住宅を訪れました。最初はブルーノ・タウト設計の「ジードルング・シラーパーク」でした。ジードルングはドイツ語で集落という意味です。当時、ベルリンの西側には高級住宅地が広がっていたため、6ヶ所の公営住宅は市の北側や東側、南側に建設されました。いずれも最寄り駅からほど近く、駅から遠いイメージのある一般的な世界遺産よりも利便性の高さが特徴にあげられます。

現地に着いてまず目に飛び込んでくるのは、 レンガ造りで重厚感がありながらもシンプルなデザインのファサードです。装飾を排したシンプルな箱型のシルエットは、100年前のベルリンにおいて初めて採用された形でした。まさに、建築的モダニズムの幕開けを象徴するような外観です。住宅は3階建てでバルコニーが各住戸についた新しいデザインで、間近で見ても100年の時を感じさせないとてもモダンで芸術性の高い住宅でした。

敷地内をまわるとわかるのですが、集合住宅の各棟は広い緑に囲われるようにゆったりと配置されています。広くて開放的な中庭もありました。緑の中を散策している人も見かけられ、空間としての心地よさを感じました。建築だけでなく、ランドスケープ、都市計画にも重きを置いて計画されたことが見て取れます。当時としてそこまでのグランドデザインを描くことがいかに斬新だったかに思いを巡らせました。

住む人々にとってもこの集合住宅が快適であったことは言うまでもありません。それを裏付けるように、この住宅には世界遺産に指定された今でも多くの方が入居しています。100年前の建築当時から現在まで連綿と次の世代へ継がれ、また若い方からお年寄りまで人気があるということには驚かされます。話を聞くと、価格的にもリーズナブルなため、入居待ちが出るほどだそうです。

あいにく建物の中に入ることはかなわなかったのですが、外から見ることのできる範囲で見学をしていると、丁寧に手入れされながら住み続けられていることがわかります。

窓際の写真

Photo:Studio Ma

各住戸にベランダがついていますが、サンルームにしている部屋もありました。窓周りに花を飾って綺麗にしています。

玄関の写真

Photo:Studio Ma

これは玄関です。レンガ素材を活かした、重厚ながらもモダンな今でも通用するデザインになっています。

階段ホールの写真

Photo:Studio Ma

玄関の奥を覗き込むと、レトロで美しいタイルが階段ホールから壁面にかけて貼られていました。住戸のエリアによってタイルの色は変えられていました。現在では当たり前になっている内装の配色計画が、当時から周到に考えられていることがよくわかります。一枚一枚がその当時のタイルとは思えないほど美しく丁寧に手入れされていました。

―「ヴァイセ・シュタット」(1929~31)

次に訪れた世界遺産のモダニズム集合住宅は「ヴァイセ・シュタット」でした。ヴァイセ・シュタットはドイツ語で白い街という意味で、1929~31年に建築された集合住宅です。マルティン・ヴァーグナーが責任者となり、オットー・ルドルフ・サルフィスベルク、ブルーノ・アーレンツなどによって設計されました。その名の通り真っ白な建物が並び、他の建物とは異なる白一色で統一された集合住宅群です。

ヴァイセ・シュタット

Photo:Studio Ma

ヴァイセ・シュタット

Photo:Studio Ma

この集合住宅は敷地内に店舗や託児所、診療所、カフェ、ランドリーといった施設が整備され、生活しやすい環境が整えられています。集合住宅でありながらも一つの街としても機能しており、のちの世界の公共団地のシンボルとなっています。住宅の配置写真を見ても、道路の幅は広く、緑豊かな中に、ゆるやかな曲線状に棟が配置されているのがわかります。日本ではUR都市機構(旧日本住宅公団)が戦後に公団住宅を展開しましたが、その原点であり手本となったのはこのベルリンの集合住宅群でした。

完成当時から話題を集めたヴァイセ・シュタットですが、使用した建材も大きなポイントとなっていました。建築費のかさむ建材を避け、新建材として当時出初めだった鉄筋コンクリートを駆使し、機能的で新しいデザインの建築にしたのです。現地で見ていても外観の窓枠やドアの配置、またその配色といったデザイン要素が多くちりばめられているのがわかりました。

現地の写真

Photo:Studio Ma

現地の写真

Photo:Studio Ma

外壁は基本的には白ですが、画一的にならないようにアクセントとして、窓枠やドアの色がオレンジや青になっています。外壁の白と対照的でとてもモダンで優れたデザインです。また棟によっても色に変化をつけることで全体として飽きがこないようになっていました。

部屋のタイプはワンルーム、2部屋、3部屋タイプなどバリエーションがありました。各部屋にキッチン、トイレ、バスルームがつき、当時の低所得者向けの住宅としては画期的でした。さらに各部屋に給湯設備、暖房設備が整っており、衛生的で豊かな生活ができるよう配慮されていることがわかります。

建築当時のままのキッチンです。折り畳み収納式のテーブルがあります。部屋が狭いため、小さなキッチンでも作業がしやすいように考案されたものです。当時、無駄のない間取りと収納計画が素晴らしいと評価されました。

内装の配色計画でも独特のデザインが光ります。階段の手すりは赤と黒が用いられ、日本の神社のような印象も受けますが、細部の色まで建築家がこだわっていたことを強く感じます。また、そのデザインが100年経った今でも古びていないことに驚かされます。

ベルリンの街に息づくタイル、新旧入り混じる建築デザイン

世界遺産「ベルリンのモダニズム集合住宅群」は、ベルリンの中心部から地下鉄を乗り継いで行くことができます。その移動中、駅や街中で素敵なタイル仕上げの壁面や建築デザインにしばしば目がとまりました。

ホームの柱 グリーンのタイル

ホームの柱 グリーンのタイル Photo:Studio Ma

地下通路 レトロな色味のきれいなタイル

地下通路 レトロな色味のきれいなタイル Photo:Studio Ma

ホームの柱にあった深いグリーンのタイルや、地下通路のレトロで色味のきれいなタイルなどです。哀愁を感じさせるデザインのものが多く、タイルが街に息づいていることがよくわかります。ベルリンは気候的に寒いので、色味を取り入れるのが上手だと感じました。

街にある建築はカラーリングに目を惹かれるものが多い印象でした。ベルリンは北欧に近いこともあるためか、水色のような北欧的な薄い色味がうまく用いられていました。

また、ベルリンは第二次世界大戦の戦禍に見舞われた街故に、ヨーロッパの他の街と比べ、昔の建物よりも戦後の建物が多くあります。戦禍を免れた古い建物は「アルトバウ」(ドイツ語で「古い建築」の意)と呼ばれ、19世紀後半から20世紀初頭に建てられた石造りの建築のことを指します。戦後の建築は画一的ではないデザインのものが多く、窓を多くとりガラス張りで自然光を取り入れるという建築もよく見られました。

アルトバウ

Photo:Studio Ma

アルトバウ。築年数は経っていますが、外壁を綺麗な色で塗り替えるなど、改装されているようでした。アーティストやミュージシャンなどのクリエイターにはアルトバウの古さが良いデザインとして受け入れられ、非常に人気があるとのことです。タイルを活かした建物も多く、建物は古いですがしっかりと手入れされていました。新旧の建築が入り混じる街の様子は、他のヨーロッパとは違うベルリンらしさだといえるのではないでしょうか。

アルトバウに住んでいる知人の部屋のキッチン

Photo:Studio Ma

アルトバウに住んでいる知人の部屋のキッチン。前に住んでいたクリエイターが壁に貼っていた、日本語の貼り紙「トヨタ」「東芝」はおしゃれという感覚でそのままにしています。照明のシェードは、ペットボトルを再利用していました。

1階部分がタイル張りになっている建築

Photo:Studio Ma

1階部分がタイル張りになっている建築。番地表示のタイルがデザイン的に可愛らしかったです。

店舗の外壁タイル

Photo:Studio Ma

こちらも水色の使い方が印象的な店舗の外壁タイル。街のいたるところにタイル仕上げの建築が見られました。

ベルリンのカフェ

Photo:Studio Ma

ベルリンにはカフェが多く、人々はくつろいだ時間を過ごしているようでした。古くからのカフェもあれば、新しくてデザインの素敵なカフェもありました。こちらのカフェは古い建築の枠やステンドグラスをうまく活かした内装になっており、枠の色を塗り直してとても可愛らしい印象の空間になっていました。

ベルリンのル・コルビュジェ「ユニテダビダシオン」(1957)

ベルリンには世界遺産のモダニズム集合住宅群とは別に、建築界の巨匠ル・コルビュジエによって建てられた集合住宅もあります。ベルリンの「ユニテダビダシオン」です。コルビュジェのユニテダビダシオンというと、フランス(マルセイユなど)が有名ですが、唯一フランス国外で建設されたユニテダビダシオンがベルリンにあり、現存しています。フランス語でユニテは単位や集団、ダビダシオンは住居や家をあらわしています。コルビュジェは当時、新しい都市の理想像を持っていました。その一つが街を垂直に構成していくというものでした。そうした考え方を形にしたものがユニテダビダシオンで、ベルリンには1957年に建てられました。

ベルリンのル・コルビュジェ「ユニテダビダシオン」

Photo:Studio Ma

ベルリンのル・コルビュジェ「ユニテダビダシオン」

Photo:Studio Ma

こちらも、先ほどのモダニズム集合住宅群と同様、60年前に建てられたとは思えない美しい状態で維持され、現在も人が住み続けています。建物は17階で、全部で500戸以上の部屋数があります。ファサードではどの部屋も綺麗な色味でデザインされていて目を引きます。
1階部分はピロティになっています。ピロティはコンシェルジュが提唱した近代建築の5原則の一つとして知られています。
ピロティの秀逸な使い方としては、フランスのサヴォア邸が有名ですが、このユニテダビタシオンでもピロティが採用され、駐車場としても活用されています。
部屋のタイプはメゾネット的に部屋の中が2階建て構造になっている部屋もあれば、ワンルームタイプもありました。どの部屋も状態がよく今でも人気だそうです。ほぼ満室で、空き部屋待ちが出ているとのことでした。
現地の案内ツアーでは当時の写真や開放されたモデルルームを見ながら説明を受けました。建設当時の住人たちの素敵な写真が多く残され、ここに住むことが一つのステータスだったことをしのばせるものでした。

当時の部屋の内部の写真展示

Photo:Studio Ma

当時の部屋の内部の写真展示

Photo:Studio Ma

当時の部屋の内部もこうした形で写真展示されていました。今見ても全く古びていない、素晴らしいデザインです。奥がキッチンでダイニングとはガラスで仕切られているようなレイアウトだった部屋もあるようです。私が見学したモデルルームはガラスがなく、オープンになっていました。1戸あたりは決して広くないのですが、無駄を排して省スペースにレイアウトされている間取りでした。

メゾネットタイプ(2階構造)の部屋の図面

Photo:Studio Ma

こちらはメゾネットタイプ(2階構造)の部屋。1階にキッチン、ダイニングがあり、 2階にはベッドルーム、お客様のゲストルームもあります。子どもがいても十分に家族で暮らしていける広さがあるものでした。

各階の廊下

Photo:Studio Ma

各階の廊下。非常に通路幅が広くとられています。また、玄関ドアの色は統一されずに、アクセント的に色を変えているドアがありました。このフロアは深い赤と黄色の2色、また階が変わるとブルーやオレンジの組み合わせになるなど、デザイン的に変化がつけられていました。これはこの集合住宅の内部にいることが、実際の街にいるのと同じような感覚になるように、空間の色に変化をつけて、オリジナリティが生まれるように配慮されているためです。

部屋の内部

Photo:Studio Ma

部屋の内部

Photo:Studio Ma

部屋の内部

Photo:Studio Ma

部屋の内部

Photo:Studio Ma

部屋の内部はとてもシンプルでした。無駄をそぎ落としたミニマルな内部に、ブルーが巧みに用いられている壁、キッチンは当時からオープンキッチンのスタイルできれいなタイルも当時のまま残っていました。機能性を考えられた動線になっています。

目の前は公園で緑があふれているような落ち着いた環境

Photo:Studio Ma

ユニテダビダシオンもとてもいい立地にありました。近くにオリンピック会場があり、駅も近く、目の前は公園で緑があふれているような落ち着いた環境です。実際に現地にいても、とてもリラックスできる雰囲気があり、今も多く支持されているのも頷けます。一階には住人が使用できるコミュニティールームがあり、そこでくつろいだり、勉強したり、小さい子供が遊べるスペースになっていました。家族連れにもこの住環境は魅力的だと思いました。

ダッチデザイン国・オランダ

オランダには一昨年(2019年)の10月、ロンドンデザインウィーク視察後に訪れました。一般的なオランダのイメージは、風車やチューリップ、運河というものかもしれませんが、建築やデザインの分野では先進的なでユニークなものが次々と生まれ、「ダッチデザインの国」としても知られています。そのデザインを肌で感じたいと思い、アムステルダムに住む知人の車で色々な場所に足をのばしました。

―ロッテルダム、MVRDV「マクトハル」(2014)

アムステルダムからロッテルダムを目指しました。ロッテルダムは世界的に活躍するMVRDVという建築家集団の本拠地であり、多くのモダンな建築がありました。歴史的にはベルリン同様、第二次世界大戦の戦禍に見舞われたため、戦後に現代的な建築が建てられている街です。

ロッテルダム中央駅

Photo:Studio Ma

建物に配管が巻き付いているような建築

Photo:Studio Ma

左はロッテルダム中央駅。駅がこのように独創的な建築です。右の写真のような建物に配管が巻き付いているような建築など、街中どこを見ても水平垂直な建物が見つからないという印象でした。知人に聞いても、「まっすぐで四角い建物はない、他を見渡しても変わった建物しかないのがロッテルダムだ」と言っていました。

建築集団MVRVDVによるマクトハル

Photo:Studio Ma

建築集団MVRVDVによるマクトハル

Photo:Studio Ma

その中でもひときわダイナミックでユニークな建築が建築集団MVRVDVによるマクトハル(2014年オープン)です。MVRVDVは1991年に設立した設計事務所で、名前の由来は設立時の3人のメンバーの頭文字から取られたものです。ロッテルダムの中心地にある巨大なアーチ状の外観が印象的な、集合住宅とフードマーケットの複合施設です。

アーチの外側が約200戸以上の集合住宅、アーチの内側つまりトンネル状の真ん中部分は全てマーケットになっている斬新なデザインに本当に驚きました。高さが40mほどもある巨大なトンネル内は2階構造で、1階は約100店舗もの店舗が出店する市場、2階はフードコートやレストランが入っています。屋内食品市場としてはオランダ随一だそうです。外壁には全て天然石を使用していて、内部には全て写真のような鮮やかで美しい壁画が描かれています。

集合住宅部分にあたる外壁には大きな窓やテラスなどがあり、光を多く取り込めるようになっています。アーチ状の内部のマーケット側には各住戸のリビングダイニングが配置されるように設計されているそうです。リビングダイニングから見下ろすとマーケットにつながっているというのは大変稀有なデザインです。
巨大なトンネル空間の外側に住む人と、内側のマーケットを行き交う人が交差する空間性は、集合住宅の中に街が内包されたものでした。土地不足といわれるオランダだからこそ、集合住宅と街の構築アプローチとして独特で素晴らしいものだと実感しました。

―ロッテルダム、ピート・ブロム「キュービックハウス」(1984)

マクトハルの広場を挟んで向いには、黄色の立方体が斜めに重なり合ったようなユニークな建築があります。こちらはピート・ブロムという建築家による集合住宅、キュービックハウスです。

ロッテルダム、ピート・ブロム「キュービックハウス」

Photo:Studio Ma

ロッテルダム、ピート・ブロム「キュービックハウス」

Photo:Studio Ma

目の前でみると存在感が圧倒的でした。3階建なのですが、敷地の地上部分の一部は交通量の多い道路であり、トラムの路線にもなっているのです。道路の上の歩道橋の役割もありながら、その上がキュービック上に集合住宅になっているという、デザインだけでなく機能としても他に類を見ない建築です。

建物内部も外から見た通り、斜めに傾いている

Photo:Studio Ma

建物内部も外から見た通り、斜めに傾いている

Photo:Studio Ma

建物内部は見学できるようになっています。内部も外から見た通り、斜めに傾いています。
立ち上がると頭をぶつけそうな壁がいくつもあり、そういった面白さが逆に人々に受け入れられ、完成から30年以上経った今も大人気で住みたいと訪ねてくる人が後を絶ちません。家具も壁が傾いているため、最初から机などが造り付けになっていました。逆に採光面では一般的な垂直面の窓と違い、斜めになっている分、光が多くとりこまれ、空間が明るくなっている印象でした。寒さの厳しいロッテルダムではより機能的な設計といえます。

ダッチデザインがユニークな理由

ダッチデザインがここまでユニークとなった理由はいくつかあると思います。戦禍によって新しい建築が必要とされた点、狭い国土での住宅不足、移民を受け入れてきた多様性などです。その中でも、オランダでは公共建物の建築費の約5%をアートに使わなければならないルールが特徴的です。そのため、オランダでは街や公共施設のいたるところにアートの要素があります。図書館や美術館などの家具も、ダッチデザインを身にまとったユニークで遊び心があるものがセレクトされています。この国の取り組みがダッチデザインの先進性を後押ししているところがあると、街を歩きながら強く感じました。日本にはない制度ですので、私もクリエイターという立場としては羨ましく感じる部分がありました。

―アイントホーフェン、ピート・ハイン・イークのデザインスタジオ

ロッテルダムの次は、アイントホーフェンに向かいました。アイントホーフェンはオランダ最大のデザインイベントDDW(ダッチデザインウィーク)の開催都市となっていて、街中にアートや建築の見所があるダッチデザインシティーの1つです。ここでは工業用廃材などを使った作品で有名なピート・ハイン・イークのデザインスタジオを視察することができました。

デザインスタジオ兼工場

Photo:Studio Ma

デザインスタジオ兼工場は元々フィリップスの工場を改装したもので、大きな空間にはデザインスタジオやショールーム、レストランが併設されています。建物のいたるところに廃材を使った、ピート・ハイン・イークの小さな作品(物や家具など)が無造作に置かれていて、売っているのか並べているのか迷うような不思議な雰囲気になっていました。

ピート・ハイン・イークの小さな作品(物や家具など)

Photo:Studio Ma

ピート・ハイン・イークの小さな作品(物や家具など)

Photo:Studio Ma

このように彼の作品は、スクラップ木材や廃棄物の素材を利用したリサイクル、サスティナブルな環境を意識したものになっています。一つずつ手作りのため、大量生産では出せない表情豊かな作品が多く、そこが人気となっています。左の写真の家具は彼を一躍有名にした、スクラップ木材を利用したテーブルと椅子です。さまざまな廃材を利用しながらも、手をかけ、配色を含めたデザインは、シンプルに手にしたくなるようなおしゃれさを感じます。サスティナブルとデザインの本質について問いかけてくるようなデザインだと思いました。

レストラン

Photo:Studio Ma

レストランでもスクラップ物や工業廃棄物を利用した家具がみられました。

女性用

Photo:Studio Ma

男性用

Photo:Studio Ma

左が女性用、右側が男性用です。シンプルながらも直感的に伝わる可愛らしいトイレサインです。

―アムステルダム、 MVRDV「オクラホマ」(1997)

旅の最後は、アムステルダム郊外にあるMVRDVのオクラホマという高齢者向け集合住宅を訪れました。ユニークな建築が多いオランダの中でもひと際目を引く建築として有名です。
MVRDVの初期の代表作といわれています。

アムステルダム、MVRDV「オクラホマ」

Photo:Studio Ma

アムステルダム、MVRDV「オクラホマ」

Photo:Studio Ma

建物がカラフルでバルコニーがバラバラに配置されおり、立体的なファサードをつくりだしていました。住宅は100戸あるのですが、当初の計画では87戸だったところを、途中クライアントから100戸にしてほしいとリクエストがあり、足りない13個を付け足して飛び出すように設計し、それが採用されたというものです。建物本体から道路側に突き出た住戸部分の長さは最大で11mあり、キャンティレバー(片持ち構造)が特徴的なデザインでした。
高齢者住宅においても遊び心を感じさせる斬新な設計が受け入れられるのは、建築家とクライアントの双方にデザイン的な理解があることを思わずにはいられません。

最後に

以上、ベルリンとオランダを建築、デザインという視点でご紹介しました。

ベルリンでは100年前、60年前に建てられたモダニズム集合住宅が手入れされながら現存し、そこに今も人が住み続けていることに感銘をうけました。街と住宅があいまってデザインされ、今も古びずにいることは素晴らしかったです。芸術と技術が高度に融合した建築は現代においても生き続けられることを示しているのではないでしょうか。

オランダは、街や建築がユニークなダッチデザインに溢れていることを肌で感じると同時に、驚きの連続でした。先述したようにダッチデザインの源流としてオランダの土地不足があると思いますが、そういった制約の中で自由に発想する建築(トンネルにしたり、持ち上げたり、飛び出したりする)が生み出されていると感じました。また、クリエイターだけでなく、国も公共施設に5%のアートを入れなくてはならないという施策を打ち出すことで、自由なデザインを許容できる社会にしていると感じます。特にMVRDVの活躍は今後も楽しみにしています。
新型コロナウイルスが収束し、世界中の人々が自由に外国を行き交い、その土地の空気や人々の雰囲気、建築、デザインなどを肌で感じられる世界に戻ることを心より願います。

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