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ものづくりLAB

TORAFU's TILE LAB 連載記事素材からコンセプトを導くという逆の発想でタイルをみる

柔軟な発想でさまざまな条件に応じながら、多彩な表現と世界観をつくりあげるトラフ建築設計事務所(以下、トラフ)。彼らの表現やデザインアプローチの鍵となっているのは、空間に使われる素材である。タイルを用いるときには、どのような視点で採用し、タイルの持つ特徴を生かしながら設計しているのだろうか。トラフの鈴野浩一氏に、話を伺った。

トラフのデザインでは、必ずしも全体のコンセプトありきで基本設計、実施設計へと進むのではない。具体的な素材を手に取って観察することから、全体のデザインへと発展させていくこともある。

「素材からしかできない発想はあります。料理人が決まったレシピ通りにつくるのではなく、素材からメニューを発想することがあるように、逆のアプローチがあってもいい。普段から気になる素材をストックし、身の周りに並べておいたりしています」。

気になる素材をストックし、身の周りに並べておく

素材からインスピレーションを引き出し、コンセプトが固まっていく。すると、素材とコンセプトが一致して不可分なものになり、空間の魅力がいっそう高まる。トラフの手がけた空間で見られる、一つの手法といえる。

例えば〈パパブブレ ルミネエスト新宿店〉(2018年)では、奥行きの少ないテナントスペースで、奥の横長の壁面全体に大理石のモザイクタイルを張り、壁画のように見立てた。画のモチーフは、ショップで扱うアート・キャンディをつくる際に見られる形状をイメージしたもの。所々に、金色のタイルを飴に見立てて配されている。小さなものを寄せ集めてデザインすることは、商品の特性やブランドの世界観との相性も良かったという。

イソップ 神戸BAL店〉(2017年)では、港町で古い石造りの洋館が周囲に残る街の様子から、メインマテリアルを上質な磁器質タイルに選定。床から立ち上がる曲面壁が、連続的に空間を囲む構成とした。どの曲面もタイルの密度が均一に見えるように、14mm角のタイルに対して目地を幅広の6mmに設定。目地はレンガ用の荒々しい仕様とし、焼き色が1つずつ異なるタイルと一体で奥行きが感じられるようにした。カウンターの天板には腐食させた銅板を使い、タイルとコントラストを持たせている。

鈴野氏は複数にわたる素材の決め方について、次のように語る。

「1つのマテリアルを決めると、その素材を引き立てるような素材が続けて3つ4つと決まります。素材はお互いにケンカするのではなく、連鎖的におのずと決まってくる感覚です」。

タイルを検討

現在、東京・表参道で計画している〈パパブブレ 表参道店〉でも、床のタイルから検討するうちに、壁の色などが決まっていったという。奥まったスペースに引き込むようなテナントの形状に対して、アプローチ部分を街路の路地に見立て、床には質感の高いボーダータイルを大きめの目地を設けて張る予定。外壁のような左官壁には、グラフィカルな絵をタイルでポイント的にあしらうことを考えているという。

鈴野氏がタイルの世界に興味を持つようになったのは、いつからだろうか。そして、タイルの魅力をどこに感じ、引き出すことを考えているのだろうか。

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