INAX
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ものづくりLAB

―タイル名称統一100周年企画―
ツバメアーキテクツ×LIXILやきもの工房
ツバメとつくるタイル 最終回

HORA BUILDINGに完成したタイルを張ってみて

鈴木志乃舞しのぶさん

鈴木志乃舞さん

立体的につながったHORA BUILDINGの空間に合わせて、タイルもエントランスからドーナツ屋、オフィスまでつながっていきます。同じ「みたらしタイル」でありながらも、それぞれの場所の特性に合わせて釉薬などの調合を少しずつ変化させているので、それが表情の違いとタイルの奥深さを感じさせておもしろいと思いました。今回のプロジェクトを経て、タイルは選ぶだけの建材というイメージから、試作を重ねて唯一無二のものをつくれるということを知ることができたので、今後建築とタイルのデザインを一体的に考えていくきっかけとなるような貴重な経験となりました。

千葉元生もとおさん

千葉元生さん

産業プロダクトとしてのタイルは同じものを大量につくり、誰でも同じように張ることができますが、一方で民芸的に一品生産する方法もあって、今回はその間くらいに位置するものをどうしたらつくれるか、ずっと考えてきたように思います。汎用性がありながら、張る人によって全く違う表情が生まれる。それでいて誰が張っても、いい雰囲気に仕上がるバランス感のあるもの。なかなか難しいお題ですが、今回、何度も芦澤さんに試作をお願いし、みんなでスタディを重ねたおかげで満足いくものができて、とても良かったと思います。

西川さいかわ日満里ひまりさん

西川日満里さん

タイルが完成したタイミングが現場の内装を決める最終段階と一致していたこともあり、手元に材料がある状態から、改めて空間の質を想像しつつタイルの配置を決めていく経験に、可能性を感じました。1階と3階で光の量が異なることによって同じタイルでも色味が変化して見えること、垂直の壁と水平の天板ではタイルを張る方向性が変わるため、ささやかな凹凸による表情の違いが際立つこと、個体差のあるタイルの質感と現場の環境から学び、即興的に良い方向に向かっていけるような感覚がありました。集合する密度や、単位によっても印象が変わりそうなので、手元に残っているタイルは、今後も実験的に事務所内外で使い方を試していきたいです。

山道さんどう拓人さん

山道拓人さん

いろいろな人にこのタイルプロジェクトの話をすると「タイルってつくれるんだ?」と驚かれるし、興味を持つ建築家がこれから増える気がします。ぼく自身、タイルに対する解像度がめちゃくちゃ上がったなという実感があって、タイルの次のフェーズに入ったのかなと思っています。建築だけでなく、プロダクトとしても可能性は大きい。タイルを張った移動カウンターをつくり、それを持って出張イベントを開く先々でツバメのタイルが記憶されたり、SNSなどで拡散することが起きて、どんどんプロジェクトが連鎖していきそうな予感がしますね。

芦澤忠さん(LIXILやきもの工房)

芦澤忠さん

ドーナツ屋「洞洞」のメインカウンターのタイルって写真に撮ったとき、すごくかわいい。その画像がひろがれば、多くの人にタイルの魅力が伝わりそうですし、ドーナツを食べるサブカウンターも、触ったときにやきものタイルの良さを感じてもらえます。いいところにいいタイルが納まっているなとうれしくなりました。試作を通してずっとやりがいがあり、ツバメアーキテクツのみなさんのリクエストもおもしろかった。テクスチャーがこの空間にしっくり来ているし、300角から切り出すというやり方でつくった他にはないサイズ感もよかったですね。タイルメーカーとして、本来のタイルの魅力をもっと伝え、体験していただくことが必要だとあらためて思いました。これからも、こういう機会をつくっていければと思います。

タイルを経験して、楽しくなる建築、人、まち

タイルへの解像度が上がったというツバメアーキテクツの面々。タイルプロジェクトは終わりではなく、じつはスタートラインに立ったところのようだ。「HORA BUILDINGにはまだ看板がないんです。ぜひこのタイルでつくりたい。文字は手書きがいいかな」と千葉さん。「タイルが繁殖していくように、時間の経過とともにHORA BUILDINGの中で今回のタイルを張る場所をどんどん追加していってもいいと思うし、下北沢の他の建物までタイルが連鎖していったりするのもおもしろそう」と言う鈴木さん。山道さんは「タイルを持ってプレゼンに行くのがいいんです」。現場でタイル一枚一枚に向き合った西川さんは「建築はものづくりであり、それはとても楽しいことなんだとあらためて感じました」。タイルがもたらす熱量と楽しさは、建築空間とそれをつくる人、集まってくる人にもっともっと伝播していきそうだ。

今回の試作の過程で検討された「水たまりタイル」はその後、梅干し店のプロジェクトで施主の目に留まり、梅干しを展示する器として、サイズと釉薬の色・テクスチャーをブラッシュアップして使われることになった。

取材・文/清水潤 撮影/梶原敏英、白石ちえこ(★) 写真提供/LIXILやきもの工房(☆) イラストレーション/ニッパシヨシミツ 編集/アイシオール

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