丸山紗加さん 水と暮らしの関わりを
インタビュー!

その土地の水を使うことが
大切だと思っています

丸山紗加さん中国茶講師

丸山紗加さんインタビュー後編

大阪、東京、葉山で中国茶の教室を開く丸山紗加さん。「中国人の誇り」である茶の魅力を伝えようと、丁寧に設えた空間でゆっくりと茶を入れ、自らが学んだ知識や、中国、香港、台湾で目にしたエピソードを織り交ぜながら、中国茶の楽しみを教えてくれます。美味しいお茶とは切り離せない「水」の存在について、考えていることとは?

「茶」を通して知る、中国の歴史や文化。背景を紐解きながら飲む茶の楽しみは尽きることはない。なんといっても1500種以上の茶があり、常に新しい種の登場がある。いいお茶は金などと同様に、投資の対象ともなるらしい。それほどに人々を魅了する「茶」。日本に伝わって、今なお残る抹茶の文化もかつて中国で生まれたもの。ただ当時納税の品目として使われていた茶は、抹茶にする工程が農民への負担となるため廃止され茶葉として形が残る。それ以前に日本に伝わったことにより日本にのみ「抹茶」が現存するなど、興味深いエピソードが語られる。教科書通りではない、紗加さんのお茶の知識は、引き出しが多い。

心豊かになる喫茶の文化を伝えたい

教室で伝えていきたいこととは?と聞くと、てらうことなく正直に、「まだ自分が納得できるほどのことが見つかっていないんです」。ただ「お茶を飲むと人は表情がほころびますよね。初めての人同士でも、仲良くなるきっかけになるから、お茶を通してそんな時間を過ごしてもらえたらいい」と。中国で見た「喫茶の文化」を自分なりに消化して伝えていくことができたら、と謙虚な姿勢で模索中だ。教室での内容はとても心豊かになる要素がたっぷり。

心豊かになる喫茶の文化を伝えたい イメージ1

今回用意してくれたお茶は、日本の緑茶のもととなった「径山茶」の新茶。「甘さがあって、うまみがぎゅっと詰まった味がするでしょう」と説明を加える。二服目は、新しいタイプのお茶で「月光白」。茶葉の表が黒く、裏が白いことから、月明かりを思わせる命名だ。「プーアル茶で有名な雲南省の品種です。産毛がいっぱいあって神秘的。月や星を思わせるお茶は、秋に楽しみたいですね。味はカカオっぽい甘さがあるんです」と、自慢の我が子をほめるように説明をしてくれる。お茶に合わせて選んだ菓子やドライフルーツ、ナッツなどが、一緒に出される。

心豊かになる喫茶の文化を伝えたい イメージ2

土地の澄んだ水をお茶に使う

「お湯の温度が大切なんです。温度計を使わないで適温を判断するためには、湯相を見ます」。グツグツ煮立ってきた状態を魚眼湯といい100度、蟹の目のようにフツフツしたら95度くらい、静かにフラットになったら90度くらい、ゆらりと龍が動くのが85度くらいと、湯の表面の様子で見ていく。温度を慎重に気にしながら入れる様子は、ぎゅっと閉じた茶葉をくすぐるように喜ばせて開いてあげようとしているかのよう。ミネラルウォーターは使わない。「中国ではその土地土地の水を使っていました。だから土地の水を使うのがいいと思っています。葉山の水はもともと美味しいから、浄水器を通してカルキ臭や雑味がなくなればそれでいい」と。「今在るその土地での茶の時間を楽しむ」ということにつながっているのかもしれない。

土地の澄んだ水をお茶に使うイメージ1

以前はポット式の浄水器を使っていたけれど、やはり一度に使用できる量に限りがあった。最近カートリッジがシンク下に設置された浄水栓へと替え、葉山の澄んだ水をふんだんに使えるようになったと喜んでいる。食べることが大好きな紗加さん、料理も好きで、茶を入れるだけでなく、出汁やスープに使う水ももちろん浄水。野菜を洗ったり、米を研いだりするのにも使っている。

土地の澄んだ水をお茶に使うイメージ2

手間を省くことで、実践につながる

「浄水は柔らかくて、角がないというか、飲み水としてもスルリと喉に入っていきます」。食事のとき「お酒かお茶か」に加えて、「水にする?」という選択肢が加わったのだそう。「タッチレス水栓にしたのも大きいですね」。まるで家に湧き水が出るようになったみたいでうれしくて、水を飲む頻度が増えたと言う。水を飲むことが健康にいいとは知っていても、それまでなかなか実践できなかったと振り返り、「ひと手間を省くだけで習慣が変わるんですね」と笑いながら、そういえばと教室の生徒さんのことを思い出したよう。「水出しジャスミンティーは、最初、茶葉を湯で湿らして少し開かせてあげてからボトルに入れて水を注ぐという手順で伝えていたのですが、今はもっと手軽にそのまま茶葉を入れて水を注ぐだけというプロセスに。ほんのひと手間減るだけでご自宅でもやられる方が増えたようで、『すごく簡単でおいしかったです!!』と反響も大きくて」と。

手間を省くことで、実践につながる イメージ

葉山での教室は、2019年の12月にスタートしたばかり。春からのコロナ禍で思ったような展開は難しいものの、富士山を眺めながらのお稽古をイメージして、紗加さんはゆったりとまた時が動き出すのを楽しみにしている。話をしているうちに、中国茶を通して何を伝えたかったのかが少し明確になってきたのかもしれない。「幸せなことをお教えできたらいいですね」と、頬にえくぼを凹ませながら話してくれた。

撮影/名和真紀子 取材・文/山根佐枝 取材日/2020年8月27日
丸山紗加

丸山紗加まるやますず

中国茶教室「Sobae」主宰。兵庫県出身。学生時代より中国茶を学び始め、2007年より大阪府のカフェにて中国茶教室を開く。2009年、大阪、豊中市の築100年以上の建造物をリノベーションして茶室空間に仕立て、活動の拠点とする。2018年、東京で教室を開始。2019年には、葉山の自宅にサロン空間を設け、稽古を始める。一方、レストランの茶部門監修や従業員育成、テーブルコーディネートなど、食の現場でも活躍している。