INAX
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ものづくりLAB

―タイル名称統一100周年企画―
ツバメアーキテクツ×LIXILやきもの工房
ツバメとつくるタイル 第二回

いよいよ、試作チェックも大詰め

3度目の試作の検討も、ツバメアーキテクツのオフィスで。新たな試作素地に選んだ乾式と湿式タイルの見本を見る。左はやきもの工房の芦沢さん、中はツバメの西川さん、右は千葉さん。山道さんと鈴木さんは、今回リモートでの参加。

なんと、素地の種類と色をもう一度変えてみる

5月中旬、第3弾の試作ができあがった。前回3月の検討で、「みたらしタイル」を使うことでほぼ収束したかに見えたが、コーティングを検討するなかで、もう一つ試したいことが浮上した。「素地と柄の違いがもっとはっきり、わかりやすいほうがいいかもしれない。それなら素地を白ではないものに替える選択肢もあるのでは、と話し合いました」と千葉さんが振り返った。化粧材料、手法はそのままに、素地を乾式プレスタイルの色違いと、粘土を押出し成形した湿式タイルの色違いでサンプルをつくることにした。濃い色の乾式プレスタイルや、湿式タイルのラフな質感など、それまでと違う角度からの試作。新たな方向でいくのか、最後の決断は?

上は前回の白素地のタイル。下4点は素地を変えた新たな試作。

乾式 茶系

乾式 茶系

湿式 茶系 

湿式 茶系 

乾式 ホワイトグレー

乾式 ホワイトグレー

湿式 白系

湿式 白系

上4点写真すべて、右列は化粧材料が泥のみ、左列は泥+多めの透明釉薬、コーティング少量。
素地色によって化粧がどれくらい目立つか、どんな魅力が生まれるかの確認だったが、それぞれにおもしろさはありつつ、茶系(上2点)は色のコントラストが大きすぎ、乾式・湿式ともに見送ることにした。湿式の白系はやや工芸的に見えて素地の印象が勝つことから、乾式のホワイトグレー(下左)か、これまでの白い素地かに絞られた。「ぱっと見たときに化粧が泥のほうは白い素地がよさそう。化粧が泥と透明釉薬のほうはホワイトグレーの素地のほうがはっきり見えるので、迷いますね」と西川さん。鈴木さんは「いままで白は光沢があると冷たそうな清潔感が前にですぎる気もしましたが、ホワイトグレーの素地と並べるとそんなことはないですね」。4人が白に納得し、さらにコーティングなしの前々回のサンプルを加えて、下の8種類を選んだ。

泥の色がはっきり見えるタイプは素地にコーティングの光沢があっても立体的に見え、透明度の大きいタイプは素地のざらざら感との対比で柄が見える方向性だ。化粧材料は上2段が泥のみ。下2段は泥+多めの透明釉薬。コーティングなしだった1回目のサンプルから4種類(1段目、4段目)、コーティングを施した第2回目のサンプルから少量と中間量のコーティング4種類(2段目、3段目)を選択。防汚が必要な場所はコーティングありとするなど、使い分けや混ぜて使う方向性を検討する。

千葉さんが持っているのは、試作のほかに芦澤さんがツバメ好みなのではとつくってきた、150角湿式タイルのディップ。「うーん! 素地の色が曖昧になって、これもいいですよね」。奥にあるのは、下北沢BONUS TRACK近くに設計中の建物模型。1階のドーナツ屋と2、3階のツバメアーキテクツのオフィスに試作中のタイルを張る予定だ。

タイルは「沼」ですね

3回の試作を経て、今回製作するタイルを決定したツバメアーキテクツ。つくり方が表情などにあらわれるタイルを目指し、主要なパラメータを化粧材料の掛け方と、泥の色味と透明感の違いという2つに絞って、シンプルなタイルを選んだ。ここにいたるまでに感じたことなどを話してもらった。

千葉元生もとおさん
千葉元生さん

最初に常滑を訪れて様々なテストピースをみせて頂き、釉薬や焼成温度のちょっとした違いで全く違う表情を見せるタイルの面白さに惹かれました。そこでこのタイルは、つくるプロセスや、釉薬による変化などを想像できるようなものにして、見た人たちが、そうしたタイルの面白さを感じられるようなものにしたいと考えてきました。何度もサンプルをつくって頂き、どう見せるのが伝わりやすいかというスタディを芦澤さんが一緒にしてくれたおかげで、想像力を湧かせるようなシンプルなタイルが見えてきました。3回目の試作を通したからこそ、1回目と2回目のシンプルな試作から選べたんです。

西川日満里さいかわひまりさん
西川日満里さん

街歩きや芦澤さんとの実験の中で、タイルという素材の素晴らしさは視覚によらず五感で感じられるところにあると気づきました。建材でありながら、生産過程によって生まれる釉薬の厚みや、手法によって変わる流れ方など、タイルそのものに物質としての魅力があるのも特徴的です。現在、建築中のビルの店舗や、事務所に来てくださる方々にもそれを感じていただけたらよいですね。一見するとささやかな違いが、移動すると、光の反射によるコントラストの違いで異なるテクスチャーに見えてくるなど、発見的な使い方ができればと思います。

山道さんどう拓人さん
山道拓人さん

建築中のビルは私たちがドーナツ屋をオープンする店舗と事務所として使いますが、とくに店舗はいろいろな活動をしたり、販売をしたり、オープン後もどんどん使い方を変えていくコンセプトなので、今回決めたタイルは映えつつも、いろいろな変化のバックグラウンドとして、いいバランスをつくってくれそうだと思っています。

鈴木志乃舞しのぶさん
鈴木志乃舞さん

実験的な試作を重ねていく中で、サンプルからある魅力が見出されたときに、より深堀しようと新たにサンプルをつくると、また別の魅力が発見されて、なんかこう、いい意味で「沼」だなと感じました。どちらかの魅力を選択しないといけない分岐点がいくつもあり、もし同じサンプルを出発点としたとしても、ツバメのメンバーとちがう視点で深堀りしたら、最終的にまったく違うタイルが生まれるでしょうね。タイルにはそのくらいどれも捨てがたい魅力が散りばめられているなと感じます。

芦澤 忠さん(LIXILやきもの工房)
芦澤 忠さん(LIXILやきもの工房)

そう、「沼」なんですよね。今回もどんどんおもしろい表情が出てくるし、条件が広がっていくので、どうコントロールしていくか、私も興味深く、想像を巡らせていました。最終的にこの8種類のタイルが選ばれたことにはとても納得しています。とはいえ、こっちの色のタイルにもおもしろい魅力があるし、悩ましいです。魅力が尽きない沼ですね。

設計とタイル生産が進行中。完成は2022年8月!

この8月にオープンする3階建てビルに今回のオリジナルタイルをどのように使うか、ツバメアーキテクツの設計はすでに進んでいる。一方で8種類のタイルも常滑の「LIXILやきもの工房」で次々に生産中。一つひとつ表情が異なるランダムなタイルであるだけに、どのように張っていくのだろう。どんな空間ができあがるのかタイルを見ながら想像するのも楽しく、期待が高まっていく。

取材・文/清水潤  撮影/梶原敏英、白石ちえこ(★) イラストレーション/ニッパシヨシミツ 編集/アイシオール

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