島田憲吾さん フェアトレードを知り「コーヒーなら出来るかもしれない」という思いがきっかけでした

フェアトレードを知り
「コーヒーなら
出来るかもしれない」
という思いがきっかけでした

島田憲吾さんcafe shima coffee roaster 店主

島田憲吾さんインタビュー前編

代々木八幡の知る人ぞ知る「美味しいコーヒーを出す」カフェが、
荻窪に場を移し3年の月日が過ぎました。
白を基調とした静謐な空間を自らの手で整え、
自家焙煎したコーヒーで客の心にぬくもりを灯す。
cafe shima coffee roaster店主、
島田憲吾さんを訪ねてみました。

東京、荻窪。車通りの絶えない環状八号線の道路沿いに、ぽっと現れる白い空間。エントランスのガラスには、店の名前の上に滑らかな筆記体の「here(ここです)」という文字があって、この場所を目指してたどり着いた客をちょっと安心させてくれる。軒先に出された木の看板、控えめな活字で書かれた「コーヒーの専門店 コーヒーのテイクアウト出来ます お菓子も少々ございます」という案内に、宮沢賢治の『注文の多い料理店』の物語がふと頭をよぎる。箱のような5坪の店に、焙煎機とカウンター、作業台とダブルシンク、オーブンなどが整然と並び、コンパクトながらも必要なものがすべて合理的な順番で収まっている。その中で背の高いメガネをかけた男性がコーヒー豆をローストしようと準備していた。店主の島田さんだ。

「起業しよう」と始めたのが
コーヒーの焙煎

「起業しよう」と始めたのがコーヒーの焙煎

島田さんは多くを語らない。聞かれた質問を一度ごくんと飲み込んで、内にある答えを言葉にして発する。何事も自分のフィルターを通して「考える」という作業をする人なのだろう。

「起業しよう」と始めたのがコーヒーの焙煎

カフェを始めたきっかけを尋ねると、「特には・・・」とこだわりはなかった様子で、それまでの経緯を話してくれた。香川で育ち、東京の企業に就職。10年間のプロジェクトがひと段落したタイミングでサラリーマンを卒業した。会社の元同僚が岩手で起業した飲食店を東京に進出させるということで、その運営を任され、1年間で店の立ち上げから、DIYでの内装工事、経営までのハウツーを学んだ。それを生かして自らも起業しようと始めたのがコーヒーの焙煎だった。

「起業しよう」と始めたのがコーヒーの焙煎

15年前を振り返り、「フェアトレードが世の中に出始めた頃で、どんなものだろうとNGOの主催する講演などを聞きに行っていたんです。そこでコーヒー豆があることを知り、これなら出来るかなぁと」。実は島田さん、それまでコーヒーには興味がなかった。行ったことがあったのはチェーン展開のファーストフード的なコーヒーショップくらい。当時は焙煎を学ぶ場所もなく、ネットで調べて唯一見つけた中華鍋で焙煎をする方法を、最初は真似してやってみた。次にコーヒー教室というものに一度参加し、その先生が焙煎もするということで、焙煎機の情報などを聞き、小型焙煎機を手に入れた。自宅に焙煎機を置き、手探りで始めてみると、豆の皮が飛び散ったり、匂いもすごく、「家じゃダメだ!」ということになったのだとか。

目論見がはずれ、
カフェのオープンへ

目論見がはずれ、カフェのオープンへ

焙煎の場を探していたところ、代々木八幡で「For Rent」の札が出ていた物件に出会い、偶然にも貸主が妻の知人だったことからそこを借りて本格的にコーヒー焙煎を始める。元会社員だった経験からニーズを感じ、「オフィスコーヒー」と銘打って企業にコーヒーを売る目論見を立てていたが、2007年のリーマンショックで世の中はそんな余裕のある状態ではなくなった。算段がはずれ、焙煎した豆は行き場を失うことになり、店内でコーヒーを出すカフェのオープンへとつながった。「ほんと安直な感じでした」と言う島田さん。けれど今こうして続けているのだから、いい方向へのスタートだったに違いない。

目論見がはずれ、カフェのオープンへ

「本格的なコーヒーはほとんど飲んだこともなく、自分の焙煎したコーヒーが美味しいのかどうかもわからないところからの修業でした」と話す。「なんのあてもなく始めて、正直、苦しかったです。精神的に鍛えられました」という率直な言葉から当時の苦労が伝わってくる。代々木八幡の店はビルの2階。急な階段を上っていくと入り口があるつくりで、初めての客は入るのをためらうような雰囲気。それでも一度足を踏み入れると、再び訪れたくなる独特の魅力があった。

「7年目の頃から、
自信が生まれてきました」

「7年目の頃から、自信が生まれてきました」

その店も今の店も、島田さんがセルフリノベーションでインテリアを設えた。ノイズのない白い空間には小気味よく有機的な家具が置かれ、マシーンの横に洗練された道具が並ぶ。コーヒーの味と香りを主役に穏やかな時間が流れる場。客は少しずつ増え、ファンとなって定着していった。7年目になった頃、通い続けてくれたある客によって島田さんの意識は大きく変わった。「本人も喫茶店をやっている方なんですが、『うちに豆を卸して欲しい』と注文があり、その頃から自信が生まれてきました」と。「それまで美味しいと言われても、本当に自分のコーヒーでいいのかわからなかったんです」。その客はコーヒー屋の老舗から独立。勉強熱心でさまざまな店を飲み歩き、舌が肥えた人物。彼を支持するコーヒー愛好家も多く、その店では通が集まり閉店後までコーヒー談義が繰り広げられるのだとか。彼の横の繋がりへの紹介で卸先も広がった。島田さんにとって、コーヒーの味に関して絶対的な信頼を置く存在からのアドバイスは、今もバロメーターになっている。

「7年目の頃から、自信が生まれてきました」

話を聞いていて伝わってくるのは、島田さんの実直さ。自らの思いを淡々と語り、それ以上でもそれ以下でもない言葉を選ぶ。そして目の前にあるものに真っ直ぐ向き合う姿勢。何も知らないところから深めていくことで、その道のプロになった。仕事ということを感性だけでなく、ひとつひとつ積み重ね確認してものにしていく。そんな島田さんが焙煎するコーヒーはきっと美味しいに決まっている。

撮影/名和真紀子 取材・文/山根佐枝 
取材日/2021年11月8日

島田憲吾(しまだけんご)

島田憲吾(しまだけんご)

cafe shima coffee roaster 店主
香川県出身。高校卒業後に上京し、一般企業に10年以上勤め退社。岩手から東京に進出する飲食店の立ち上げと運営を任され、軌道にのせる。その後、ほぼ独学でコーヒー焙煎の技術を身につけ、2007年、代々木八幡にカフェを開く。2018年、荻窪に場所を移し、自家焙煎コーヒーと焼き菓子の製造と販売を行うcafe shima coffee roasterをオープン。イベントやオンラインでの販売もしている。

cafe shima coffee roaster

cafeshima.com

instagram.com/cafeshima

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