片根智子さん カタネベーカリー フランスの街角にあるようなパンの店を自分の住む町でやりたいと思いました

フランスの街角にあるようなパンの店を自分の住む町でやりたいと思いました

片根智子さんカタネベーカリー

片根智子さんインタビュー前編

東京、代々木上原の駅から歩いて10分。
商店の並ぶ通りを抜けて景色が変わった住宅地の一角に、話題のパン屋「カタネベーカリー」はある。
1階がパン工房と店、地下にカフェ、上階には家族の暮らす住居。
毎日80種以上のパンが並ぶ店でオーナーであり職人として働く、片根大輔さんの仕事を支えながら、
この界隈で欠かせない「憩いの場」となっているカタネカフェを切り盛りするのが妻、智子さんだ。

朝7時のオープンに向けて、カタネベーカリーの主人、大輔さんは2時に起きる。パン工房に明かりが灯るのが2時半。3時半までにはスタッフたちが次々と出勤、4時にはカフェの調理場でパンのフィリングの仕込みが始まる。「わたしはそんなに早くないんですよ」と言いつつも、智子さんの起床は毎朝5時。その時間から寝るまで休む間もなく、仕事、子育て、そして家事をこなしてきた。レギュラーのものから季節ものまでを合わせると、100種を超えるパンのレパートリーをもつカタネベーカリーと、その地下で日々の食を提供するカタネカフェ。代々木上原から幡ヶ谷にかけて根強いファンをもち、地元のみならず巷で広く愛される店の人気の秘密はどこにあるのだろう。

「パン屋になれば?」の一言から

「パン屋になれば?」の一言から

カタネベーカリーの物語は、大輔さんと智子さんが紡いできた人生に重なる。中学時代からの友人だったふたりは22歳で結婚。それを機にミュージシャンとして活動していた大輔さんは就職することを決断する。そんな彼に、「じゃあ、パン屋になれば?」という智子さんのひと言が、その後のふたりの運命を大きく導くことになった。料理が好きで飲食店で働いていた智子さんは、「ゆくゆくはふたりで店を」という気持ちのもとに、真面目で職人肌で早起きが得意だった大輔さんに合う職業を直感的に言い当てた。

老舗ベーカリーに就職した大輔さん。28歳で独立すると決めていた。入社の面接で伝えた「店をやりたいので、仕事を覚えられるところで働きたい」という希望が通り、厳しい職場でしっかりと仕事を叩き込まれた。「後に会社全体の技術指導を任される方が店長だった店で、2年きっちり。次は『この人の下で働いたほうがいい』という方のところにレールを引いてもらって2年。最後の2年は店長をやらせてもらい、店の運営などを学ばせてもらいました」と智子さんは話す。「みなさん協力的でした。今も上司の方々が店にいらしてくださるんですよ」と。そんな関係が築けたのも、会社のために一生懸命働いた大輔さんの姿勢が認められていた証だ。

「パン屋になれば?」の一言から

パンの世界では「フランスパン10年」と言われるほど修行が必要とされる中で、6年で独立。そこには集中力と人一倍の努力、勤勉さがあったに違いない。2002年、フランスパンを筆頭に小さな工房からバラエティ豊かなパンを送り出すカタネベーカリーがオープンした。大輔さんを手伝いつつも、智子さん自らも全力で仕事と子育てに向かう日々。そして2007年には、カタネカフェがオープン。家政科系の学校を卒業し、ライフワークのように食に心をくだく智子さんは、旅をして味わった料理を再現したり、郷土料理の本を参考にして仕上げたり。自己流で身につけたからこその、「こういうもの食べたいよね」と日々の暮らしの中で思う、心にも体にも美味しい料理をカフェのメニューに並べている。

「自分の町のパン屋をやりたい」

「自分の町のパン屋をやりたい」

この店の特徴のひとつでもある「住宅地」というロケーション。もともと代々木上原の近くに住んでいたふたりは、「自分の町のパン屋をやりたい」という気持ちで駅前の商店街ではなくこの場所を選んだ。家族の暮らす住居と店が一緒なら子供との時間も大切にできる。20年前には代々木上原も今ほど賑わっていなかったうえ、近隣は住宅が立ち並ぶ静かな界隈。「そんな場所で商売をするなんて大丈夫?」という心配の声もあったが、「失敗する気がしなくて」と智子さんは確信していた。「将来的なことを考えても、わたしたちには理想的な土地でした」。

「自分の町のパン屋をやりたい」

やりたかったのは「フランスの街角にあるようなお店」。甘いパンだけでなく食事のパンも出したいし、パンの食べ方を提案できるお店をやりたい。カフェのイメージは「朝はパリのプチホテルの朝食室。バゲットとジャムしか出てこなくて、暗くて窓もないような所で食べるのだけれど、それがまた美味しい!というような」とその場を思い出すように話す。「昼は町の食堂みたいな、ガチャガチャした感じで」と。地元の人に「私のパン屋」と感じてもらえるようになれば。地下にあるカフェは、買い物のついでにパンの話はもちろん、地域のことやなんてことない話ができる場になったらいい、と。このカフェは智子さんのその思いのままに仕上がっている。

フランスで過ごす夏があるから、一生懸命働ける

フランスで過ごす夏があるから、一生懸命働ける

毎年、夏にはひと月の休暇をとってフランスに家族で旅をする。これはカタネベーカリーを始めた1年目から変わらない。パンの売り上げの落ちる夏。気持ちが滅入るなら休んだ方がいい。その代わり、ほかの11ヶ月は夏休みのために一生懸命働く。夏のフランスでの体験は、料理やパンの新たな発見につながり、レシピに生きている。

智子さんの話す言葉にはなんともいえない意志力が宿っている。それは常に「こうしたい」、「こうなったらいいな」というビジョンがあるということ。ひと言、ひと言が建設的で、潔く、正直でユーモアもあって、聞いているだけで楽しくなる。と同時に、淡々とした話し方を通してその思いの深さが伝わってくる。「まっとうで普通」を続けているからこそ、「すごい!」と思わせる力をそこに感じる。

撮影/名和真紀子 取材・文/山根佐枝 
取材日/2020年12月2日

片根智子 (かたねともこ)

片根智子 (かたねともこ)

1974年、水戸生まれ。渋谷区西原で夫と共にパン屋とカフェを営む。「カタネベーカリー」は2002年11月オープン、「カタネカフェ」は2007年9月オープン。パンは店頭での販売のほか、保育園への配達や都内の人気コーヒー店などへの卸も行なっている。

カタネベーカリー

https://www.facebook.com/kataneb/

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