片根智子さん カタネベーカリー 食べるもので人間はできているから「毎日のパン」のハードルが高くならないように

食べるもので人間はできているから「毎日のパン」のハードルが高くならないように

片根智子さんカタネベーカリー

片根智子さんインタビュー後編

東京、代々木上原と幡ヶ谷の間の住宅地にある「カタネベーカリー」と「カタネカフェ」。
辺りの住人が毎日のように通う「地元の名店」は、
パン職人の主人、片根大輔さんとカフェを営む智子さんが、思い描いた形を実現した場所だ。
その根底に流れる、揺るがない価値観と表現したい思いを聞かせていただいた。

カタネベーカリー のパンは国産の小麦を使い、フィリングやカフェで使う材料はできるだけオーガニックのものを取り入れている。ただそれは「美味しいものを探していたら、その結果、オーガニックになったんです」と智子さん。コスト的な問題でオープン当初は使えなかったオーガニックの素材も、いい卸業者とのご縁があり使うことが可能になってきた。オーガニックだから価格が高いというのが常識となりつつある世の中で、智子さんが考えるのは、あくまでも「普通の店」。「普通に出てきたものが、普通に美味しくて、普通の価格であること」を守っている。

良心的な価格がカタネベーカリーのポリシー

良心的な価格がカタネベーカリーのポリシー

カフェの人気メニューに、新鮮な卵とバターで作る大きなオムレツがある。使っているのは青森の農家が育てる平飼いの卵。智子さんは現地を訪れ、育てている方の熱意を感じたのだそう。確かに使ってみると違う。まず殻の硬さからして違ったのだと説明してくれる。そんな卵を3個贅沢に使い、熱いフライパンで手早く仕上げるオムレツは、見るからに美味しそう。仕入れた素材、それぞれの背景を大切に料理として出すけれど、それをあえて押し出したりはしない。「ストーリーとか嫌いなんです」ときっぱり言い、こう続けた。

「ストーリーがあって食べるのと、ただポンと出されて食べるのでは、先入観があるかないかで違ってきます。先入観があれば美味しく感じるかもしれないけれど、それは本質的なことではないと思う」。そして「お客さんが、わたしたちの選ぶものを信頼してくれればそれで充分です」。良いものを選び、提供するという責任を背負っている。一方で厳選した素材を仕入れれば、それなりに原価が上がってしまう。けれど良心的な価格を貫くのが「わたしたちのポリシー」なのだと。

良心的な価格がカタネベーカリーのポリシー

「高いパンを買う人は、食への意識が高い人というのもわかります。でももし良い材料を使ったパンがすべて高くなってしまったら、食の意識が高くない人は質の良くないものを食べるしかなくなってしまう」。逆に普通の値段で、カタネベーカリー の食パンを買って食べてもらい、ある日、一般的に量産されている同じ価格帯の食パンを食べて「何だこれは?」と思い、「良い材料でていねいに作っているものと、そうでないものでは違う」と感じることがあったら、食の意識が変わるかもしれないと、希望をもっている。

もしかしたら「高いパン」より、カタネベーカリー のパンの原価のほうが上回るかもしれないけれど、「価格を抑えた特別なパン」が世の中にあってもいいのではないか。その裏で「従業員をちょっと酷使しているかもしれないけれど」と恐縮してみせる智子さん。価格への挑戦は、食への意識が高くない人々に向けて、また世間に向けて、訴えていきたい表現なのだと言う。そのメッセージは「ちゃんとしたものを食べることが大切。食べ物で人間はできているのだから。そのハードルが高くならないように、価格を安くしているのです」と。

カタネベーカリーには、良心的な価格で、いくつでも欲しくなる宝島のようなワクワク感がある。ただし食べられる量は限られているから、今日も明日も、毎日来て食べたくなる。

「何かコーヒー変わりましたか?」

「何かコーヒー変わりましたか?」

「美味しさ」にこだわったもの選びをする智子さんは、最近、浄水器付水栓に替えて、水の味が美味しくなったことを喜んでいる。それに気づいたのは、常連のお客さんだった。ランチによく立ち寄る女性客は、「出されるお冷が澄んだ味になった」と。毎週土曜日に隣の店の前で市を出し、その度にコーヒーを頼んでくれる八百屋さんに「何かコーヒー変わりましたか?」と言われたのだと智子さんは笑顔を見せる。実際、コーヒーの味がクリアで雑味がなくなり、美味しく感じるのだそう。

「何かコーヒー変わりましたか?」

智子さんの料理は、基本、茹でて塩やオリーブオイルで味付けするものが多い。シンプルだからこそ、水の味は影響するはずだ。調理の際に蛇口を動かして左右のシンクに使えることや、出る浄水の水量が多いことなど、作業もしやすくなったと嬉しそうに言う。パンのフィリングの仕込みやカフェの仕事、その間にベーコンなどの燻製、ハムやツナまで作るという忙しさの中では、本当に助けになっている証拠。仕事がぎっしり詰まっていて、のんびりする時間はなく、1日はあっという間に過ぎてしまうのだと。

地域に密着した「憩いの場」として

地域に密着した「憩いの場」として

毎日、同じ顔ぶれが店を訪れる様子に、「うちは憩いの場ですから」と満たされた表情になる智子さん。オープン当時に思い描いた形、地域に密着したお店が実現した今、これ以上広げる気持ちはないと言う。「2店舗目などを開くと熱量が薄まってしまいそうで、『私の好きな店』ではなくなってしまう」と、謙虚に俯瞰して物事をとらえる。将来の夢は何ですかと聞いてみた。「このままじわじわと続けて、将来は縮小すること」という。「最終的には夫がパンを焼いて、私が売るくらいでいいんです」と。「働きたい方がいたらやるけれど」と付け加えるが、そこには商売の楽しさや達成感の影にある、大変さも想像できる。

ただ大輔さんのことに話を向けると、「料理雑誌の『生涯現役』というコーナーがあって、90歳で現役でやっています!という職人さんが登場するんですけれど、彼は『それに出たい!』と言っています」。大輔さんに天職が見つかって良かったと優しい目になった智子さん。常に稼働し続けているけれど、そのときほんの一瞬だけ立ち止まり、自身の充実した人生をふと振り返ってみたのかもしれない。また全力で動き出すために。

撮影/名和真紀子 取材・文/山根佐枝 
取材日/2020年12月2日

片根智子 (かたねともこ)

片根智子 (かたねともこ)

1974年、水戸生まれ。渋谷区西原で夫と共にパン屋とカフェを営む。「カタネベーカリー」は2002年11月オープン、「カタネカフェ」は2007年9月オープン。パンは店頭での販売のほか、保育園への配達や都内の人気コーヒー店などへの卸も行なっている。

カタネベーカリー

https://www.facebook.com/kataneb/

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