白い壁に囲まれた家、「GARDENS」のエントランスを抜けると、まるでイギリスのガーデンハウスに迷い込んだかのような雰囲気が漂う。ショップ兼オフィスの空間には、趣味のいいグリーンの鉢やシックな彩の花が並び、庭に置かれた大きなテーブルでは、寄せ植えのワークショップが開かれていた。「GARDENS」はインテリアコーディネーター宮本里美さんのガーデンデザインオフィス。宮本さんは、高松と東京、二つの拠点を行き来しながら、庭のある暮らしを提案し続けている。
イギリスで見た庭のある暮らしに憧れて

「GARDENSとは、お庭友達のこと」。宮本さんが初めて執筆した本『GARDENS LIFE』の最後のページで、ガーデンデザインオフィスの紹介としてこう書かれている。「お庭を通じて人と人の輪が広がり、あちこちで幸せの花がいっぱいに咲くことを願いながら、お庭好きの人たちを繋ぐ活動に取り組んでいます」と。
二級建築士の資格をもち、インテリアコーディネーターとしてキャリアをスタートした20代は、店舗や家のデザインとリフォームの仕事に携わった。その後ガーデンブームの訪れとともに、エクステリアの仕事も多くなり、30代では仕事の視察を兼ねて、イギリスやドイツなどを旅する機会に恵まれた。そこで見た庭のある暮らしが今の人生へとつながる大きなきっかけとなる。

「イギリスでは、庭と一緒に暮らしているんですよね。園芸とかガーデニングというものではなくて。日々の暮らしの中に庭が普通にあるということに驚き、とても憧れました」。当時、イギリスには年に2回は行っていた。イギリスの本屋に並んでいたのは、建築雑誌ではなくてガーデン雑誌。「なんておしゃれで、洗練されたデザインなんだろう!」と目にするすべてに感動したと言う。そして胸の奥に眠っていた子供の頃の記憶までが蘇る。
子供の頃の原体験が、今の活動のモチベーション

「子供の頃から庭がすごく好きだったんです。親が花好きで、花がいっぱいある家でした。お友達のお母さんが『あなたの家の前を通るのが楽しみだわ』と言ってくれたのが嬉しくて。そんな家で育ち、それが普通だったんです」。目の前で満開の花が風に揺れるのを見ているかのように、宮本さんの声は弾む。
「イギリスのガーデンを見たら、自分が庭をやってみたくなり、夢中になってしまったんです」。独立して庭のことを集中して勉強したいと会社に伝えると、社長もそれを快諾してくれた。庭を中心としたデザイナーとして2000年から活動を開始する。それまでもデザインコンテストで数々の賞を獲っていた宮本さんが、自分の道を見つけ進んでいく姿は、周りの流れも引き込んだ。「その後も、勤めていた会社や周りのブレーンにバックアップしていただいて、今の私があるのです」と宮本さんは言うが、手がけた庭は人の目に触れ、きれいな庭を求める香川の人々の間に口コミで広がっていく。
「伝えたい」という気持ちが一冊の本に

「庭のある暮らしを伝えなくてはと思い、ずっと講座をやっています」。園芸として切り離されたものでなく、暮らしの中に溶け込まなくては庭のある心地よさはわからない。GARDENSでは人を招きガーデンパーティを開いたり、そのやり方や花の愛で方、季節の花の楽しみ方、庭の花やハーブのアレンジなどをレッスンしている。「だれでもできることを、季節の庭にあるものを使ってやっています」。独立をしてからの活動が10年経ったとき、「社会の役に立っているのだろうか?」と思い、自分がやってきたことを1冊の本にまとめた。
撮影/名和真紀子 取材・文/山根佐枝
取材日/2019年5月28日