「庭のある暮らしの楽しさ、素敵さをたくさんの人に伝えたい」という思いを込めて『GARDENS LIFE』という本を、2012年に自費出版した。洋書のような美しい装丁。庭の花や草木、野菜、ガーデンツールから、インテリやファッション、ティーパーティや旅、そしてイギリスやフランスのガーデンまで。「庭友達」の心踊る共通言語が写真や文書に溢れている。
暮らしの営みと共にあるGARDENSの庭
5月の下旬、GARDENSの庭は雨に濡れ、グリーンたちはしっとりと輝いていた。テーブルの上には紫陽花が小瓶に活けられ、蛇口つきのガラスのジャーにハーブウォーターが。まるで庭が室内にまでつながっているようだ。ここは宮本さんの亡き夫の友人がデザインし、当初は家族で暮らす家だった。その後、増築し、現在は自宅兼オフィス兼ショップとなっている。家を建築した際のオーダーは?と聞くと、「いろいろなところから入れる家。土の面積を減らさない。外は見たいけれど、外からは見えない。既製品を使わない。そして壁を厚く仕上げること」と、建築士ならではのクリアな答えが返ってきた。
敷地内は外とは別世界。穏やかな空気が漂っている。出入り口の多さがどこにいても庭とつながっている感覚を生み、厚みのある壁がヨーロッパの住まいを感じさせる。屋上緑化にしたためか、土の気配がそこはかとなくある。庭はもちろん宮本さんの本領だが、植物は思い思いに育ち、暮らしの営みと共にある。
「五感」と「生きていく力」を庭育で養って欲しい
都内にもオフィスを構え、活動の幅を広げている宮本さん。これまで庭に興味のなかった人の視線を庭や自然に向けるためのプランニングに力を入れ、さらに若い人が建築家に家のデザインを依頼できるよう、手の届くラインでの提供を可能にしようと取り組んでいる。このプロジェクトでは、緑を入れて家を美しく仕上げること。植物と寄り添って暮らすこと。庭の花や実を食べたり、飾ったりして使うこと。そして庭で子供を育てる「庭育」の4つの要素を入れることが大切だと提唱する。「若い世代には子供たちを庭で育てて欲しいんです」と宮本さんは言う。庭で五感と自由な発想力を使って遊ぶと、「生きていく力」と楽しみが育まれていくのだと。「人が庭を育てているようで、実は人間が庭に育てられているんです」。
20年間で手がけた家は2000軒以上。小学生だった子供が30歳になり、今度は自分たちの家にも同じように庭をとオーダーしてくれる。また大人になって、GARDENSのスタッフとして働いている女性もいる。庭で自然を感じながら育った子供は、その心地よさを肌で知っている。だから暮らしの中に自ずと庭の存在を求めるのだ。毎月一回、市の公園で開く子供のためのワークショップも行なっている。子供たちの反応は、とても素直で洞察力に優れ、想像力が豊か。そんな子供たちの様子を見守る宮本さんも、同じくらい、喜んでいるのが伝わってくる。
水をごくごく飲む美味しさは、人も植物も同じ
話に一息ついたとき、宮本さんがハーブウォーターを出してくれた。「ミント、コーンフラワー、レモンマリーゴールド、レモンバーベナ・・・」。庭で育てたハーブのグリーンがまさに水を得て生き生きをして見える。ハーブウォーターには浄水器を通した水を使っている。
「水やりは大切です。でもしょっちゅうはあげない。喉が乾いたときに冷たい水を飲んだ感覚。ごくごく飲むと美味しく感じる。それを植物にも感じさせたい。植物の根は水がないと水分を求めてぎゅーっと伸びて、水をあげると、水分と一緒に養分をキャッチして大きくなるんです」と微笑む。
「香川県は、夏になると水不足になることが多いんです。みんな水をとても大切にしています」。植物に水をあげたくても、近所に気をつかうこともあるのだとか。だからこそ水のありがたみがわかっている。「蛇口をひねって、美味しい水がでてくるのは素晴らしいことですよね」と。子供の頃、つるべを落として汲んだ井戸水のひんやりとした感触を思い出したような表情だ。
小さい頃に植えられた感性の種は、大人になってイギリスで出会った庭のある暮らしによって花開いた。それはどの子供にも起こることだと宮本さんは信じている。「庭で気持ちよく過ごす、それが普通になるといいですね。難しいことではないと思う。子供もきっと覚えていますよ、庭でご飯食べたら美味しかったって」。
撮影/名和真紀子 取材・文/山根佐枝
取材日/2019年5月28日