原口敬子さん 和紙デザイナー 世界に和紙のよさを伝えたくて憧れのサローネに出展しました

世界に和紙のよさを
伝えたくて
憧れのサローネに
出展しました

原口敬子さん和紙デザイナー

原口敬子さんインタビュー後編

鹿児島の伝統工芸、伊作和紙の技法を継承する作家、原口敬子さんは、
漉いた和紙を使って、やさしい光を放つ照明を制作しています。
2018年にミラノサローネに出展、世界へとその一歩を踏み出した作品の背景にあるものとは?

紙漉きの作業を終えると次は、出来上がった和紙を使ってオブジェ制作に取り掛かる。展示室の一角に設けられた作業台には、細かい三角錐をいくつも繋げたつくりかけの作品と、設計図のような図面が。初期の頃に比べると、ここ数年でオーダーによってより細かいものが求められるようになり、必然的にスキルアップした。敬子さんは遠慮がちながらも「ここまで細かいのは他にはないと思います」と自らの仕事への自負を語る。

今ならつくれるかもしれない

暮らしの営みと共にあるGARDENSの庭

和紙に円形の型を載せ、その縁を水の筆でなぞり、柔らかくなったところを手でちぎる。その丸い紙に三角形の型を当て折り込み、一枚一枚繋げていく。作品はすべて和紙づくりから始まるのだから「健気」の一語に尽きる。「和紙にはやわらかさがあります、その優しさを出したくてカッターで切るのではなく、あえてちぎっているんです」と気の遠くなるような作業を慈しむように続ける。傍で灯っている照明のように、ほんわりとした彼女の中には芯がしっかり通っている。それを表したのが、2018年のミラノサローネへの挑戦だ。

暮らしの営みと共にあるGARDENSの庭

20代の多くを費やした和紙との関わり。「和紙の素晴しさを伝えたい」という強い思いを胸に、2018年、世界の舞台、ミラノサローネへと思い切って歩を進めた。サローネの会場に、「サローネサテリテ」という35歳未満の若手デザイナーの展示場がある。国際的に活躍するデザイナー、nendoの佐藤オオキ氏もそこをきっかけに注目され始めた。独立して3年、「素敵な仕事をさせていただける機会が増えてきて、今ならもしかしたら発表できるものがつくれるかもしれない」と思ったのだと言う。実はもうひとつ、2016年に母親が亡くなり「ずっと引きずっていたので、前向きな気持ちになりたかった」という理由も。

「アメージング!」と言ってもらえて

「五感」と「生きていく力」を庭育で養って欲しい

作品のテーマは「つながるライト」。自らが考案したアイデアで、筒形、円形の一つ一つが取り外せて、組み合わせが自在だ。「平面は固く、立体的なところで形を崩し、自由な感じに」。モチーフは、植物や果物、葉っぱなどにインスパイアされた。そして七宝柄や麻の葉柄など日本の伝統的なモチーフも。「サローネでは海外の方から“アメージング!”と言ってもらえて、日本的なものとして評価されて嬉しかった」と語る。その作業の細やかさに賞賛の元はあったはずだ。

作品は海外のメディアにも取り上げられ、世界中から興味が集まった。「うまく話が進んだのはほんの少しではありますが、ニューヨークやロンドンの展示会に現地のお店を通して参加したり、注文をいただいたり、少しずつ海外との仕事もできるようになってきました」。ひとつひとつ手でつくる作業には限りがあるけれど、だからこそ唯一無二の魅力となる。敬子さんの作品は、マスプロダクションにするのは難しい。インスタレーションなどの作品表現への興味はあるのでしょうか、と聞くと、「おもしろいことをやりたいというのはありますが、人が住む空間に興味があるので」と。デンマークで自らが癒された、やわらかい光に包まれる空間をつくりたいと言う「初心」は、少しもぶれることがない。

「良い水」を差した白湯で始まる朝

水をごくごく飲む美味しさは、人も植物も同じ

作品はファンタジーの世界のよう。森のきのこや葉っぱの葉脈、雲やタンポポの綿毛を思わせる有機的な形には、内に宿る息吹が感じられる。自然を映した繊細な表現に感心していると、「私、霧島というもっと自然の多いところで育ったんです。小さい頃、川や森、荒れた野原に友達と行ってメダカを獲ったり。母も庭いじりが好きで一緒に切ったり植えたりして」と懐かしそうな目になる。その原風景を無意識のうちに作品に投影しているのかもしれない。作品の向こう側にある自然とのつながりが伝わってきて優しさを裏打ちする強さになる。

作品づくりは何週間にも及ぶことがある。淡々と日々を繰り返す敬子さんにとって、朝は大切な時間だ。「起きて白湯を飲んで、犬の散歩に行って、コーヒーを淹れてから作業に入ります」。最初に口にする白湯は、沸かした湯に浄水を少し差す。ちょっとした儀式のようだ。「良い水」と定義する浄水は水道水のようなクセがなく、飲みやすいと言う。そして敬子さんの1日が始まる。やわらかな光に囲まれて作業をする姿は、草の葉の影でものづくりを営む妖精のよう。心を込めて漉く和紙の灯りが世界に大きく羽ばたく日は、遠くない未来に訪れるだろう。

撮影/名和真紀子 取材・文/山根佐枝 
取材日/2019年11月19日

原口敬子(はらぐち けいこ)

原口敬子(はらぐち けいこ)

和紙デザイナー。鹿児島育ち。鹿児島県立短期大学卒業後、デンマークに留学し、デンマーク語や建築デザインを学ぶ。2011年より伊作和紙の種子田氏に師事。2014年独立、K washi design lab.として活動。2018年、工房名を『薩摩和紙製作所』に改名。和紙の伝統を引き継ぎ、現代に生きる新たな和紙表現に取り組む。和紙の優しさと温かさを伝え、和紙のもつ無限の可能性に挑戦。

薩摩和紙製作所
工房・ギャラリー

http://satsumawashi.com/index.jp.html

全国のリクシルのショールームで、
実際にご覧いただけます。

リクシルのショールームは、買う予定がなくても、プランが未定でも、
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納得いくまで何度でも、自由に見学してください。

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