日高雅史さん、裕江さん リストランテ「マーレキアーロ」シェフ・ソムリエ 海を望む、緑溢れる丘に立つリストランテをイメージしています

海を望む、緑溢れる丘に立つ
リストランテを
イメージしています

日高雅史さん、裕江さんリストランテ「マーレキアーロ」シェフ・ソムリエ

日高雅史さん、裕江さんインタビュー後編

「輝く海」、「澄んだ海」という意味をもつイタリア語の「マーレキアーロ」。
西麻布の裏路地にあるリストランテは、新鮮な海の幸や滋味豊かな季節の野菜を使い、
素材の味をていねいに生かした皿を出すことで食通に評判の店だ。
まるでイタリアに旅しているかのような素敵な空間と特別な時間を提供してくれるのは、
シェフ日高雅史さんとソムリエ日高裕江さん夫妻。

 話の端々に表れる雅史さんの料理のうんちくの豊かさに、ついその経歴が気になり聞いてみると、もともとは建築関係のデザインの仕事をしていたのだと言う。「イタリアのデザインが好きで、赤い色が好きで、トマトソースを作っていたら『綺麗だなぁ』と思って」料理の道に入ったと言う。とにかくものを作るのが好きで、それが高じてというのがその真意かもしれない。現代社会において、大きな廃棄物となってしまう建築物に疑問を覚え、「人の心を高揚させたり、いい気分にできること、よかったなと思ってもらえることをしたいと考えたときに、『料理だな』と」強く感じたのだと言う。

「喜んでもらえる味を届けよう」と工夫を続ける二人

「喜んでもらえる味を届けよう」と工夫を続ける二人

 当時20代半ばだった雅史さん。料理人のスタートとしては年齢的に遅く、反対の声もあったけれど、自然の流れに突き動かされるように転職を決めた。イタリアンレストランに面接に行っても、経験のないことを理由に雇ってもらえず、やっと職を得たのは店先に並んだ魚をお客様が選び、好みの調理法で料理して出すという店だった。それでも休みの日には知り合いのイタリアンの店に頼んで働かせてもらい勉強した。約5年の修業ののちに、自らの店のオープンに先駆けて1年弱をシチリアへと渡り、現地のレストランで働いた。

 意外なことにイタリアで学んだのは料理というよりは、人生観だった。習慣の違い、働き方の違いにカルチャーショックもあったけれど、なにより生き方のおおらかさに感銘を受けた。そしてイタリア人の「美味しいだろ! きれいだろ!」という自信満々な様子に影響され、「味は『旨い!』と思えばそれが美味しいということ。料理の根本はそんなに変わらない」と感じたと言う。「みんな自分の町や家を愛して大切にしているんですよね、それがよかった」と。同行していた裕江さんは、話をする雅史さんの横で静かにうなづいている。

「喜んでもらえる味を届けよう」と工夫を続ける二人

 帰国後は、西麻布で念願の店をオープン。それは「思っていたより大変でした」と二人は口を揃える。裕江さんも多少のレストラン勤務経験はあったものの「やりながらこういうものなんだと、恥ずかしながらわかっていきました」と苦笑い。雅史さんは「雇われていたときは誰かが責任をとってくれたけれど、自分の店はいいも悪いも全部自分の責任。やってみないとわからない。教えられたことをやっていたのでは無理で、でも反対にいろいろ気づいたら生かせる」と思ったのだそう。14年の間には、リーマンショック、東日本大震災、そして今回の新型コロナの影響で、飲食業界にとって困難な時期が何度か訪れている。その度に二人で工夫して「喜んでもらえる味を届けよう」とやってきた。

 こだわりを大切にする料理人、雅史さんを支える眼差しで裕江さんは言う。「シェフはストライクゾーンが狭くて(笑)。新しいものを生み出すまでがものすごく大変なんです。でも出来上がったら、とても良いもので、苦労も多いけれど楽しいですね」。「マーレキアーロ」で人気の土産スイーツ、栗とマスカルポーネの生ドラ「モンテビアンコ」は、素材選び、材料の配合、焼き方、餡と生地のバランスまで、究極にこだわった雅史さんの自信作。完成までに、裕江さんは体重が増えるくらい試食をしたのだとか。

「火を通して新鮮、形を変えて自然」

「火を通して新鮮、形を変えて自然」

 現在はパスタソースも冷凍で販売しているが、その商品開発では、お客様が食卓で口にするときに美味しいと思う味を提供しなくてはと研究を重ねている。「もっとよくするにはどうしたらいいのか」という思いがいつも頭の中にある。そこで行き着くのは、味付けはもとより、やはり「素材」。「ある程度の味は直すことができるけれど、傷み始めた素材はどうにもならない」。だから「いいものを見る目」、「いいものを扱っている人と組む」、というのが「マーレキアーロ」の料理の原点にある。

 「火を通して新鮮、形を変えて自然」。志摩観光ホテルで長年総料理長兼、総支配人を勤めた故・高橋忠之さんの哲学を、自らのモットーに置く雅史さん。「素材のもっているものを100%引き出してあげないといけない」。料理に自分の思いだけを重ねていくのではなく、必要なことを最低限。素材、塩加減、火だけの料理が理想だと。その間をつなぐ水がやはり重要な役割を果たしているのだと言う。

大切な時間を料理の味で記憶に残せたら

大切な時間を料理の味で記憶に残せたら

 木枠の跳ね上げ式窓が一面に並ぶ入り口から、庭に落ちる日差しが美しい反射光となって入ってくる。緑溢れるテラス席は、店を開くときに、裕江さんの何よりも譲れない条件だったそう。限られた予算を有効に使い、内装などできる部分のほとんどは二人で作り上げてきた。イタリアの田舎町のリストランテの雰囲気が色濃いのは、そんな手作業と時間の積み重ねから生まれたものかもしれない。壁にはモランディのデッサン画が何枚も掛けられ、庭の自然とつながっているかのように、大胆に枝や花が活けてある。そこには古くなるほどに美しくなる空間がある。

 「14年経って、この形が残っていることがうれしいです」と、これまでの苦労や喜びを振り返り、穏やかな声で語る雅史さん。食べることは人生の中での優先順位が高い。時間は消えていってしまうけれど、その大切な時間を料理の味で記憶に残るものにできたら。そのために努力をしていきたいと言う。二人が度々口にする「こうしたら楽しいかな」という言葉が発想の源だ。壁の絵に混じって額装された鏡が掛かるインテリアの設えもしかり。常連のお客様の誕生日に大好物のどら焼きをプレゼントすることから生まれた「生ドラ モンテビアンコ」も。今は、お客様が出歩かない時期だから、自らが出向いて出張シェフとして料理を提供する企画も練っているところだ。
 ひと通り話が終わったところで、裕江さんが「アイスコーヒーを作ったので」と、よく冷えたグラスを出してくれた。コーヒーも氷も浄水を使っていて、ほんとうに澄んだ味がして美味しい。その横で雅史さんが「身体も水でできているから」と、ウインクしたような気がした。

撮影/名和真紀子 取材・文/山根佐枝 
取材日/2020年8月18日

日高雅史(ひだか まさふみ)日高裕江(ひだか ひろえ)

日高雅史(ひだか まさふみ)
日高裕江(ひだか ひろえ)

西麻布のリストランテ「マーレキアーロ」を夫婦で営む。
2006年に「クチーナ トレディチ アプリーレ」という名前でオープン。2017年に店名を「マーレキアーロ」としてリニューアル。新鮮な魚介のメニューを中心に、野菜の持ち味を生かした料理を得意とする。店内での営業のほか、出張による料理サービスもスタートの予定。

マーレキアーロ

東京都港区西麻布2-24-9
Tel.03-3486-6310
日曜日 定休
http://www.marechiaro.jp

全国のリクシルのショールームで、
実際にご覧いただけます。

リクシルのショールームは、買う予定がなくても、プランが未定でも、
お子さま連れでも見学可能です。
納得いくまで何度でも、自由に見学してください。

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